24.側近騎士ホエズラー
王女の側近となった俺は、うんざりしながらため息をついた。
確かに地位も給料も増えたのだが、以前のように悪徳商人とつるむことができないと、何だか調子が狂う。
充実した様子で剣の稽古をするマイルの奴が羨ましい。
与えられた肩書き程度でここまで上機嫌になれるんだから、こいつは多分、根っからの騎士なんだろうな。その単純な飼い犬脳が羨ましくなる。
「さっきからなんだホエズラー! ずっとため息ばかりついて!!」
「いやすまん。俺は冒険者時代から綱渡りのような人生を送ってきたから、王女様の護衛は生活が安定しすぎていて修行に身が入らんのだ」
マイルは難しい顔をしながら「つまり、スランプか……」と言葉を口にした。
「俺は生まれつき、お前のように生真面目な性格じゃない。食うか食われるかという環境じゃないと、自分を追い込めないんだ」
自分の言葉を聞きながら、よくもまあこれほどスラスラと嘘が出てくると、自分自身に呆れながら感心してしまった。
しかも、騎士らしい悩みに聞こえるからタチが悪い。本心ではどう見ても、悪さをしたいだけなのである。
俺のそんな胸中も知らずに、マイルはじっと考え込んでいた。
「それは深刻だな」
「ああ、仕事だと割り切れれば楽なのだが、心の何処かに王国にぶら下がっていれば大丈夫という慢心がな……」
「確かにその考えは問題だ」
「しかし、王女さまのご期待には応えたい」
俺の心の中では、はい……今のは嘘です! という言葉が響いた。あんな小娘がどうなろうが、知ったことではありません!
しかし、クソ真面目なマイルは、深く共感した雰囲気でうなづいていた。こいつ……小娘、いや王女様のためなら命すら投げ出しそうだ。哀れに思えてくるぜ。
「皆さん、修行はそれくらいにしてお茶にしましょう」
そう言いながら王女が歩いてくると、俺は少し気を抜いていた。
「ああ、すまんな小むす……」
マイルと侍女の鋭い目がこちらに向くと、俺はしまった! 誤魔化さないといけないと反射的に感じていた。
「って、王女殿下でしたか……大変失礼しました」
そう誤魔化すと、王女は口を膨らませながら抗議してきた。
「もう、小娘って誰のことですか?」
「侍女のミア殿のことです。私よりも年下にしか見えないもので……」
そう言いながら侍女ミアを見ると、怒ったような嬉しいような複雑な表情をしていた。
「あまり茶化すと怒りますよ?」
「すまん。カンに触ったのなら謝る」
王女は、どこかおもしろがる様子で俺と侍女を眺めていた。
上手く誤魔化したとはいえ、しばらくはこのことをいじられそうだ。とほほほほ……




