22.積み荷輸送の護衛
数日後に、スグヤール隊長が依頼状を持って納屋までやってきた。
「リック。次の仕事だけど……冒険者のベースキャンプ地への積み荷を輸送する仕事はどうだろう?」
僕はシャムの毛並みを整えるのを中断すると、隊長の出した依頼状に目を通した。
「……少々リスクもありますが、報酬も魅力的ですね」
「しかも、荷物運搬用の馬がいればボーナスも出る……それをシャムシールの飼い葉代に当ててはいかがだろう?」
そう言いながら隊長がシャムを見ると、僕も一緒に見た。
シャムはと言えば、悪くないかなと言いたそうな表情をしている。
「やってみますか」
「そうだね」
僕らはすぐに準備を整えると、最大手冒険者ギルドガワダケに向かった。
ガワダケは、王都の表通りに巨木のように建っており、冒険者を目指す者にとっては建物に入れるだけでも凄いと言われている場所である。
中に入ってみると、広々としたロビーに美しい受付嬢が出迎えてくれた。
「ようこそガワダケに……」
彼女はシャムシールを見ると渋い顔をした。どうやら青毛馬は嫌いらしい。
受付嬢はすぐに依頼主を呼びに行くと、依頼を出したAランク冒険者チームのリーダーが姿を見せた。身長が180を優に超えており、更に引き締まった身体と凄みのある雰囲気を漂わせている。
「隊長のミカッケ・ダーオシだ」
「アレン・スグヤールです」
ミカッケ隊長の実力が知りたいと思うと、シャムがテレパシーを送って来てくれた。
『実力はB中位。君とさほど変わらないよ』
うそぉ! と思った。どう見ても凄みのある豪傑という出で立ちの戦士なのに……。そう考えていたらシャムシールは更に言った。
『多分だけど、スキルに秘密があるんじゃないかな?』
その謎は、ミカッケ隊長と一緒に物資の運搬をしているときに理解できた。
なんと、ダンジョンに入るとモンスターがみんな隊長のことを恐れて離れていくのである。その様子を観察していたシャムシールは納得した様子で笑っていた。
『なるほど。彼の能力は恐らくだけど……相手に恐怖を与える類の代物だね』
相手に恐怖? と心の中で聞き返すと『そう』という答えが返ってきた。
『ほどほどの恐怖感と引き締まった体が、相手に凄みという貫禄を感じさせ、勝手に戦いを避けさせるんだ』
確かに、負け戦に自分から突っ込んでいく愚か者はそうはいない。
イキリーニのスグヤール隊は、スグヤール、マーチル、僕、シャムシール、レイナ、オリヴィア、グレイスの6名と1頭。ミカッケ隊は戦士3名、魔導士1名、馬5頭という編成だった。
戦力としてはスグヤール隊の方が充実しているが、ミカッケ隊は隊長の特殊能力があるため、容易にはやられないように思えた。
マーチルも疑問に思ったらしく、そっとレイナに質問していた。
「ねえ、ミカッケ隊って本当に護衛が必要なの?」
レイナはミカッケ隊のメンバーを見て言った。
「守る馬の数が多いから……じゃない?」
「ああ、なるほど」
どうやら頭のよさそうなレイナでも、ミカッケ隊長の強さがスキルで装飾されている可能性があることを理解していないようだ。
結局、ミカッケ隊は敵と遭遇することさえなく、目的地である冒険者ベースキャンプ地へと到着した。
そこには簡単な造りではあるが柵と門が取り付けられ、見張り役の冒険者2人が槍を持って立っている。まるでちょっとした集落のように見えた。
「ミカッケ隊長……お疲れさまです!」
見張り役の冒険者2人が、緊張した表情のまま敬礼すると、ミカッケはうむと言いたそうに頷いて門を通り抜けた。
「き、緊張したぁ……ミカッケさんはいつ見ても貫禄があるな」
「ああ、次期ギルド長を言われるだけのことはあるよな」
あーーええー。君たちの方が多分だけど強いと思うんだけど、どう思うかなシャムシール君? そう考えていたらシャムは久しぶりに声のトーンを下げたテレパシーを送ってきた。
『たとえ張りぼてでも、竜と思われていれば、それは竜である。最大限に活用すべし!』
いえ、そう仰られましても……




