2.1人と1頭だけのパーティー
川原を歩いていたが、僕はシャムシールの特技が気になったので聞いてみることにした。
「ところでシャム」
「なんだい?」
「君はどんな能力を持っているんだい?」
「知りたい?」
シャムシールはそう勿体付けるので、もちろん「気になる!」と答えた。
「小生のスキルはペネトレーション。物事の真理をたまーに見通す力だよ」
ペネトレーション、初めて聞く力だと思った。
「あと、リックの持っている主人公補正だけど……特定の条件が揃ったみたいで『ご都合主義』という能力に発展しているようだ」
なんだそれは、聞いたこともないスキル名だ。
「どんな能力なのかな?」
「何でも都合よく解釈できる、超絶プラス思考能力!」
かえって弱くなってるじゃないか! と、叫びたくなったが、ここはシャムの悪ふざけに付き合うことにした。
「要するに、○カになったってことだね!」
「その通り! もうこれで、悩み事はぜぇ〜んぶマルっと解決!」
「うれし~な、うれし~な……って、そんなことあってたまるかボケぇ!」
きれいにツッコミも決まったことだし、そろそろ真面目にやることにした。
スキルご都合主義とは、強い運勢で自分にとって都合の悪い出来事を押し退ける特殊能力らしい。
「小生のような精霊獣は、たまにだけど同行者のスキルを変化させたり強化することがあるからね」
シャムシールはもう少し歩くと言った。
「そろそろ人の気配がしはじめたね。以降は喋らないよ」
「わかった」
僕が所属する冒険者ギルドはハーキダッメという。
王都でも外れの方にあり、少し奥に進むとスラム街になることから境界のギルドや、ギリギリ冒険者ギルドとも言われる。
表通りに軒を連ねる大手冒険者ギルドから見れば、下請けにもならない零細ギルドである。
ギルドのドアを開くと、既に先輩冒険者たちの姿はなく、ギルドの受付嬢はつまらなそうにパイプ煙草をふかしていた。
「お帰り坊や。結果はどうだったの?」
「駄目でした」
そう答えると、ギルドの受付嬢は細い目をそっと開いて僕を眺めた。
「そりゃそうだろうね。むしろ、アンタが面接まで行ったことにアタシは驚いてるよ。ん……? そのウマは?」
「いつもの場所で修業していたら、寄ってきたからメンバーに加えようと思うんです」
ギルドの受付嬢は、シャムシールをじっと眺めた。
シャムシールは魔法で角を隠しているため、どこからどう見ても単なる青毛の馬にしか見えないはずだ。
「ずいぶん人慣れしてるね。どっかの牧場から逃げ出して来た売れ残り……と言ったところかしら。まあ何でもいいわ」
彼女は書類を出した。
「そんな形じゃ売っても二束三文でしょうし、持ち主もいちいち探しに来ないでしょ。適当に名前でもつけちゃいなさい」
「じゃあ、シャムシールで」
「はいはいシャムちゃんね。青毛や黒毛は縁起が悪いから、うるさい先輩連中には気を付けなさいよ」
「わかりました」
必要事項を記入すると、ギルドの受付嬢はじっと内容を確認してから頷いた。
「はい。これで書類上は2人パーティーになったね。ギルドの解散規定には引っかからなくなったけど、早めに新しい子を見つけてこないと、大した依頼も受けられないよ」
彼女は目を細めた。
「とは言っても、入れたところでCかBのチームに引き抜かれちまうんだろうけどね」
僕は苦笑すると、ギルドを後にした。
再びシャムシールが口を開いたのは、先ほどの川原に戻った時だった。納屋があるような安宿はないため、自動的に野宿になってしまう。
シャムシールは嬉しそうに語りかけてきた。
「上手くいったね」
「ああ、シャムシールの入隊祝いとして……飼い葉食べ放題だ!」
僕がそう言いながら、先ほどまで訓練していた川原の雑草を指さすと、シャムシールは悪ふざけをする子供のように軽い声を出した。
「わーい! うれしいなーうれしいなー!」
「しかもここなら、騒いでも誰の迷惑にもならない」
「うん、この野外パブは小生たちの貸し切り〜しかもタダ〜〜」
シャムの声が急に低くなった。
「リック、次の補給がいつ受けられるかわからん。食糧と小銭は大事にしろ」
急に鬼軍曹のような声を出さないでください。
僕もまた野草を取ってくると、シャムシールと一緒に食べることにした。
「先に頂いてるよ」
「君が主役なんだからどんどん食べてよ」
「うん♪」
こちらが食事を終えても、シャムシールは無心に川原に生えている雪交じりの雑草を食み続けていた。彼の体重は500キログラム近くありそうなので、その体を維持するためにはかなりの草を食べなければならないようだ。
ウトウトとし始めたとき、やっとシャムシールはこちらを向き返った。
「だいぶ食べたから、これで一休みできるかな」
「無事にクエストを達成できたら、穀物でも買いたいところだね」
「それは楽しみだね。麦とか大豆って食べ応えがあるから」
その答えを聞いて、僕はぐっと拳に力を入れた。新しい隊員の歓迎会を開くこともできないくらい、僕のお財布事情は火の車だけど、せめてシャムシールに穀物をお腹いっぱいに食べさせてあげたい。
そう思っていたら、再びシャムは低い声を出した。
「先程も言ったがリック、食糧と小銭は大事にしろ」
ですから、急に鬼軍曹のような声を出さないでください。
直後にシャムシールは、耳をピクリと動かした。
「どうしたんだい?」
「この音……そしてこのにおいは……賊か」
賊と聞いて厄介だと感じた。
最近は、冒険者になることさえ大変で、犯罪歴のある人間や国外の人間にはチャンスすら与えられないことがほとんどだ。
しかし、彼らにも腕の立つ者はいるため、賊の中にはベテラン冒険者でさえも返り討ちにするような強者がいると聞く。
「ここにいる場合じゃないね。背中に乗って」
「う、うん」
乗馬の訓練もしておいてよかったと思った。これでいつでも逃げられる……
「さーて、賊退治に行くよ!」
え……? ええっ!? シャムシールは一体、何を言っているんだぁ!?