15.森のエルフからのお願い
更にエルフは近づいて来たので、より彼女のことがよくわかった。
背は僕よりも1周り小さく165センチメートルほどで、セミロングくらいある銀髪を青いバンダナでまとめており。背中には長弓があり、腰には短剣を差していた。
「僕に……何か?」
エルフは無警戒に、腕の届く範囲まで近寄るとやっと止まったが、じっと見つめてくる。何だか照れ臭く思いながら目を逸らすと、更に近づいて右の首元にキスをしてきた。
「…………」
「今のはエルフ式の挨拶です。ところで戦士さん……貴方の仲間に癒し手かユニコーンはいらっしゃいませんか?」
そっとシャムシールに心の中で呼びかけると、彼の意識が僕の口を動かした。
『ユニコーンならいるけど今は正体を隠している。あまり大っぴらに言わないで欲しいな。と言っているよ』
答えを聞いたエルフの少女は一歩身を引くと、胸に手を当ててお辞儀をした。まるで王や貴族を前にした女騎士のように見える。
「お初にお目にかかります。私はオリヴィアと申します。今日は……ユニコーン様にお願いがあってまいりました」
『要件を聞こう』
「私の故郷で病気が流行ってしまいまして……治療して頂きたいのです」
その言葉を聞いたシャムシールは、僕に語り掛けてきた。
『オリヴィアさんの記憶を見たいな。額に触ってもいいか聞いて』
「記憶を見たいから額に触ってもいいかい?」
「はい」
彼女が目をつぶると、僕は恐る恐る額に触った。
女の子の体。特に顔を触るのはこれが初めてなので何だか緊張するものだ。変にドキドキしているが、こんな状況でシャムシールはきちんと思念を読み取れるのだろうか?
数秒ほど黙っていたが、シャムシールは言った。
『まず、その病気を媒介しているものだけど……ノミが原因だね』
その答えを聞いたオリヴィアは目を丸々と開いていた。
「の、ノミですか!?」
『次に治療方法だけど……小生が変に治療に向かうよりも、薬を持って行った方がいいと思う』
その言葉を聞いたオリヴィアは、瞳を大きく開いていた。
「ユニコーンのお薬を頂けるのですか!? 御幾らでしょう?」
『君が外部のまま治療を受けたいのなら金貨100枚。仲間に入ってくれるのなら身内価格で大幅に値下げする』
シャムシールの言葉を聞いて、何て現金なウマなんだろうと思った。
確かにエルフの狩人ならかなりの戦力になることが期待できるけれど、足元見過ぎだろう! もうちょっとこうスマートにできないものなのか……
オリヴィアの表情を見ると、これ幸いと言いたそうに笑っていた。
「それは願ってもないお言葉です。是非、私をお仲間に入れてください」
『わかった。それじゃあ以降は敬語は禁止だよ』
僕も頷きながら言った。
「人間で窓口役の僕はリチャード。リックと呼んでくれ。そして相方はシャムシール。シャムと呼んで」
『じゃあ、早速薬を調合するから……リックは彼女が仲間に加わったことを隊長に紹介して欲しいな』
「わかった」
僕が隊長にオリヴィアを紹介しているとき、シャムシールは森の中へと入って何か作業をしていた。
『リック。ちょっと来て』
言われた通りに森の中へと入ると、彼の側には冊子のようなものが浮いており、ページが開いた状態になっていた。
「手を出して」
言われた通りに両手を出すと、彼は錠剤を100くらい出してきた。
「これが……ユニコーンの秘薬!?」
「マナポイントを払って秘薬を作り出すスキルを覚えておいたよ」
そんなこともできるのかと思ったら、シャムシールは勝手に話を進めた。
「オリヴィアの村で流行っているのはペスト……通称黒死病だから一度に作れるのはこれくらいだね」
僕は不思議に思いながら答えを返した。
「よく、現場に行っていないのに病気の正体がわかったね」
「念のため鳥に偵察してもらっていたからね。病状を確認して……それを基に治療薬も作ることにしたんだ。直接近寄ると、小生も感染するリスクがあったから」
なるほど。シャムシールが病気やケガで動けなくなってしまったら、誰が治療するんだという話になる。あくまでユニコーンはチームの司令塔に徹してくれた方が僕としても安心だ。
森から出たときには、シャムシールは角を幻術で隠していた。
そして、錠剤を100ほどオリヴィアに渡すと、彼女は不思議そうに薬を眺めていた。
「粉では……ないのですね」
『それを食後30分以内に1錠だけ飲ませてね』
シャムシールが僕の口を使って説明すると、彼女は「はい!」と答えた。
そして、そのやり取りを見ていた猫族の戦士マーチルは「あれって……ユニ」とまで言ったところで、察しのよさそうなエレナが口を塞いで言った。
「たまたま、リックが薬を持ち合わせていただけです。偶然ですよ。偶然ですからね?」
「うん、うん!」
弓使いグレイスやスグヤールも頷いた。
「ああ、たまたま秘薬を100人分も持ち合わせていたが、これは偶然だ」
「何せご都合主義の能力を持つ使い手だからな。何もおかしいことはない」
全員がイケイケの調子で話をしていた時、シャムシールだけは雑草に降り積もった雪を睨んだまま、ぼそりと呟いた。
『でも妙だな。どうして、のどかなエルフの隠れ里に、ツーノッパを壊滅させかねない病原体なんかがいたんだろう?』
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