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13.冒険者ギルド『イキリーニ』へ

 ハッキダーメに出勤した日、ギルド内にはパイプ煙草を持つ受付嬢だけがいた。

「おはよう。イキリーニへの転属届け、確かに出しておいたよ」

「今までお世話になりました」

 そうお辞儀をすると、受付嬢はフフっと笑いながら言った。

「頑張りなさいよ。こんな寂れた冒険者ギルドからBランク冒険者チームに行けるなんて、滅多にある話じゃないからね」


 ギルドを後にすると、近くの食堂などから僕らを睨んでいる男たちがいた。ハーキダッメにいる先輩冒険者たちだろう。

 不吉なウマを連れてさっさと出て行けと言いたそうな者もいれば、中堅ギルドにヘッドハンティングを受けたことを妬ましそうに見ている者もいる。

『こんな連中と、同じ職場で働かなくて済むんだからせいせいするね』

 僕は黙ったまま頷いた。


 ハッキダーメから去ると、食堂から出て来た先輩冒険者のひとりが僕を通った場所に塩を撒こうとしていた。この男は僕の育てた冒険者を3人引き抜き、全員をしんがりにして潰したCランクチームの隊長である。

 もう二度と会うこともないと思って通り過ぎた後、急に苦しみだして地面に倒れたようだが、何か悪いモノでも食べたのだろうか?

 何だろうねと視線をシャムシールに送ると、彼は鼻腔を少し広げてテレパシーを返してきた。

『あんなに薄着で、寒い場所に出るからだよ』



 冒険者ギルドイキリーニへと到着すると、すぐに受付嬢に転入届を提出した。

「わかりました。今……スグヤール隊長を呼びますね」


 スグヤール隊長は、やあという感じで軽く挨拶してから僕の前に立った。

「ようこそイキリーニ、スグヤール隊へ!」

「よろしくお願いします。スグヤール隊長」

 しっかりと挨拶をすると、隊長は気さくに笑った。

「そんなに堅苦しく挨拶しなくてもいいよ。うちの部隊は自由なことがウリだから! 隊員も改めて紹介するよ」

 スグヤール隊長は、隊員たちを納屋へと集めた。

 シャムシールも仲間と考えてくれていることは、僕らにとってとても幸いなことだと思う。


「まずは隊長のスグヤールだ。スキルはトマホーク……打撃時に剣を斧のような威力にする能力だ」

 修道士レイナたちも挨拶した。

「修道士のレイナです。私のスキルは詠唱短縮。この能力の説明は不要ですね」

「狩人のグレイスだ。私のスキルは軌道補正。飛び道具の着弾点を少しだけど補正する力がある」


 落ち着いた感じの2人とは違い、元気なネコ娘マーチルは「はいはーい」と言いながら手を上げた。

「軽戦士のマーチルだよぉ。アタシのスキルは跳躍強化。とにかくピュンピュン飛ぶけど、バッタとか言わないでね」


 僕はシャムシールを見ると、本当のスキルについて言うべきなのかアドバイスを求めてみた。

『大丈夫じゃないかな?』

「改めてリチャードです。僕の本当のスキルはご都合主義」

 ご都合主義という能力を聞いて、スグヤール隊のメンバーは大いに驚いていた。

「ほ、本当に!? 主人公補正ではなく?」

「はい。だから、鳥も少し交渉しただけでお使いを引き受けてくれましたし、ゴブリンたちも大軍にも関わらず全員が前夜祭明けで眠っているという、都合がよすぎる展開が起こりました」


 凄いと言いたそうなマーチルとグレイスだったが、レイナは険しい顔のまま考え、やがて僕を見た。

「強力なスキルと言うことは……何かリスクがありますよね?」

 僕はもちろんと思いながら頷いた。

「このスキルの最大の特徴は、いつ仕事をするかわからないということです。急に気まぐれのように幸運が去っていくと、目も当てられない結果にもなるので、スキルはない……と思うようにしています」


 その言葉を聞いたスグヤールも笑みを消して頷いた。

「それが賢いと思う。僕も何人かご都合主義の能力を持つ戦士を見たことがあるけれど、スキルが仕事をしなかった時こそ、本人の真の実力が試される場面だった」


 マーチルは、うんうんと頷きながら言った。

「なるほどね~、因みにシャムちゃんのスキルは?」

 シャムシールは、にっこりと笑いながら喋るように鳴き声を上げた。

『カンを鋭くする力だと言っているよ』

 喋れるのに、わざわざ僕に喋らせるあたりで、シャムは抜け目のない性格をしていると思う。


 スグヤールは、満足そうに頷いた。

「新入隊員を祝って宴会……と行きたいところなんだけと、ちょうど急ぎの任務が入ってしまった」

 タイミングか良すぎるので、恐らくシャムも一緒に祝うためにあえて任務を入れたのだろう。

 シャムも頷いている。

『そのほうが小生も嬉しいな。馬がパブに入ったらお店に迷惑がかかる』

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