12.THE・ボンクラ騎士
俺とマイルは、新兵12名を引き連れて行軍訓練を行っていた。
冒険者として地獄を経験した者は兵士に向いている。こいつらは武装した状態での行軍にも慣れているからだ。勘弁して欲しいのは裕福な民が、コネなどで親族を隊に入れてくるケースだ。
「疲れた……」
「たいちょー、休みましょうよー」
「バカ! まだ歩きはじめて1時間も経ってないぞ!」
本当にこのコネで入って来る連中をどうにかして欲しい。
こいつらがいるから有望な新人が入って来れない上に、部隊の士気も落ちるのだ。だけど、しごいてやめさせることもできない。こいつらは口だけは達者なので、気に入らないことがあるとバカ親や偉い人間が出てくる。
「もうやだー! お父さんに言いつけてやるー!」
その言葉を聞いたマイルは嫌な顔をしながら俺を見た。これはもうしょうがない。
「わかったわかった。休憩にするぞ」
その号令を聞いた冒険者を経験したメンバーは、何だよと言いたそうに指示に従っていた。冒険者の頃よりも行軍訓練が楽すぎると思っているのだろう。
実際に足手まといのコネ組さえいなければ、彼らの期待以上に厳しい訓練を行えるのだが、そうはできないのだからもどかしい。
汗をダラダラと垂らしたコネ入隊の若造は、がぶがぶと水を飲みはじめた。
「バカ、飲み過ぎだぞ……水は貴重なんだ大事に飲め!」
「なんだよ、パワハラするなよ!」
その言葉を聞いていた冒険者上がりの兵士も声を荒げた。
「お前、口の利き方くらい覚えろ、相手は上官だ!」
そのセリフを言ってくれた兵士に俺は感謝した。いちいちこんなことまで我々が言っていては威厳のない上官になってしまう。
ところが、このコネ隊員は、注意した兵士に食って掛かっていた。
「お前こそボクへの口の利き方に気を付けろよ! ボクのお父さんは、あのジャビガル伯爵の知り合いなんだぞ!」
「それをモンスターに言って怯ませたら考えてやるよ!」
「お前、本当にクビにしてやるぞ!」
俺はうんざりしながら、その冒険者隊員に言った。
「その辺にしておけ。コイツに睨まれると厄介だぞ」
冒険者隊員は渋い顔をしながら俺を眺めていたが、やがて小さな声で「はい……」と答えた。
まあ、可愛そうだが仕方ない。王国軍の中で生き残ることに必要なのはまずコネ。次に城内政治である。いくら剣の腕が確かでも我が国では見向きもされないのだ。
「だいたい何で俺様が、こんな地方部隊でチマチマ歩かないといけねーんだよ!」
そうコネ隊員が悪態をつくと、冒険者隊員は不快そうな顔を俺に向けてきた。アンタがコイツの肩を持つから図に乗ったじゃないかと言いたいのだろう。
そんなことはわかっているが、どうしろというのだ。ジャビガル伯爵は公爵に引けを取らない力を持つ人物だぞ。そんな貴族に睨まれたら、俺のような末端騎士など指先ひとつであっという間に失業だ。
「そう思うなら、もっと伯爵殿におねだりしてみたらどうだ?」
寄りにもよってマイルの馬鹿も、このコネ隊員の気分を逆なでするようなことを言っている。こういうのには触れないのが一番なのだ。
そう思っていたら、コネ隊員は不敵に笑っていた。
「それもそうだねパイセン! ついでにあんたのことも言っておいてあげるよ。良い上官だって!」
「おお、それは助かるぞ!!」
こ、こいつら……。
予定よりも1時間遅れで行軍訓練を終えることはできたが、コネ隊員は俺にパワハラをされたと父親に泣きつきはじめ、冒険者経験のある兵士も、こんなに楽では訓練にはならないと文句を言いに来る始末。
さらに、予定通りに終わらなかったことを上位騎士に叱られるのだから、騎士家業も楽じゃねえ。
つーか、腹立つ!!




