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11.スグヤール隊からのヘッドハンティング

 マルアット村の自警団員たちは、転がっていたゴブリンの死骸を足で蹴りながら数を確認していた。

「一般ゴブリン74匹、ホブゴブリン4匹か」

「よく、一個小隊だけで、こんな勢力を叩き潰せたな」

 そう言われると、スグヤール隊長は僕を見た。

「優秀な仲間が、敵の様子を逐一教えてくれたからさ。我々だけでは返り討ちだっただろう」

「それはすげえ!」


 自警団員の3人が僕に近づいて来た。

「なあ、アンタ……うちの自警団の団員になってくれないか!?」

「そーそー、うちの村ってバカばかりだけど過ごしづらい村じゃないんだぜ」


 悪くない話だと思っていたら、スグヤール隊長が困惑した様子で言った。

「それは困るな。彼らは僕が引き抜こうと思っているんだ」

 その言葉を聞いたスグヤール隊の少女たちは歓喜の声を上げ、自警団員たちはがっかりした様子で言った。

「それはしょうがねえな」

「ああ、スグヤール隊にはいつもお世話になってるしな」


 スグヤール隊長の言葉に僕は驚いた。

 2階級上のランク冒険者パーティーが引き抜きを行うことなんて異例中の異例だ。しかも彼らということは部隊ごとである。

「い、いいんですか?」

 そう聞き返すと、隊長は頷いた。

「当然さ。何で君たちほどの冒険者がDなんかで埋もれていたのか、理解できないレベルだよ」

「そうですね。三顧の礼で迎えるべき人材です」

 修道士レイナが言うと、狩人グレイスも同意する様子で頷き、猫族の戦士マーチルに至っては「賛成!」と子供のように笑いながら言っていた。


 今のスグヤール隊長の言葉はとても嬉しいが、一つだけ気がかりなことがある。

 それは、今まで僕を飼い殺してきたハーキダッメの先輩連中が妨害してこないとも限らないことだ。今まで虐めてきた後輩が自分より上の立場になるのだから、彼らから言わせればとんでもないという話になってもおかしくはない。



 村に戻ると、村長は契約通りの金額の他に、ホブゴブリンや一般ゴブリンの撃破分のボーナスを小切手として切ってくれたようだ。

 シャムシールも、その様子を納屋から盗み聞いている。

「さすがにあの数のゴブリンたちの分の謝礼は、一括払いできないみたいだね」

「契約通りの金額は今月末、そして残りは収穫が得られたあと……という感じかい?」

「その通り」


 隊長スグヤールは、村長との話を纏めると今度はこちらにやってきた。

「待たせたね。シャムシールの調子はどうだい?」

「いつも通りという感じです」

 そう答えると、スグヤールは隣に立った。

「それは凄いな……あれだけの激戦を繰り広げた後だからね。普通の馬なら怯えて使い物にならなくなるところだよ。彼は怯えるどころか、ゴブリンを蹴散らした上にホブゴブリンにまで倒していた」


 確かにそう思うよな……ウマは本来は憶病な動物のはずだと思ったら、スグヤールは呟いた。

「彼は、ユニコーンかもしれない。いつか喋りはじめるといいな」

 そう言いながら笑うと、僕も誤魔化すように笑った。


「君の分はハッキダーメに支払っておくよ。あと、一緒にヘッドハンティングの話も通しておくから、前向きに検討して欲しい」

「ありがとうございます!」



 帰り道は、ゴブリンの報復を警戒しながらとなったが、特に襲撃を受けることなく僕らは冒険者街へと帰還した。

「今日はこれで失礼するよ」

「では、また後ほど」

 無事に任務も完了してハッキダーメに戻ると、いつも通り受付嬢がパイプ煙草をふかしていた。

「お帰り」

「任務は無事に達成しました」


 男の声で「それは良かったな」と聞こえてくると、同じギルドのメンバーは僕を避けるようにギルドを出て行った。

 突然何事だと思ったら、せせら笑いながら受付嬢がパイプ煙草の手入れをしながら言った。

「アンタが青毛ちゃんを連れてきたから、連中……気味悪がってるのよ」


 シャムシールも苦笑している様子で同じギルドのメンバーの後姿を眺めていた。

『あの先輩たち、君の育てた冒険者を片っ端から潰して行ったからね。縁起の悪い青毛馬を入れてアテツケされたと思っているみたいだよ』

 そうだろうねと思った。立ち去り際に「薄気味悪い駄馬を、ギルドに持ち込みやがって」と言っている人もいたから。


 どうやら、僕が他のギルドに引き抜かれたとして、妨害される心配はなさそうだ。

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