表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

彼に施されていた処置

「おやまあ」

 車にのせられ、どれくらい立っただろうか。

 おろされて、どこかに運び込まれ。

 最初に聞いたのは呆れ声だった。

「またか」

「最近増えてまして」

「まあ、処理にも限界があるからな」

 淡々と不穏な事を口にしていく。

 何が増えていて、どんな処理をしてるのか?

 意味は分からないが、ろくでもない事をしてるのは想像が出来た。

 少なくとも、男にとって良い事ではないだろう。



「まあ、処理はするさ」

「頼む」

「でも、効果があるかは分からんぞ」

「限界か?」

「回数を重ねてるからな。

 どうしたって無理はある」

 何を処理するのか、何の限界なのか。

 動かない体の中で、正常に動く耳が嫌な声を拾っていく。



「まあ、脳細胞もそろそろ限界だが。

 かまいやしないか」

「まあな。

 元はとってるはずだ。

 少しくらいは」

「ご苦労だねえ。

 犯罪者を労働力に使うためとはいえ。

 必要経費を考えたら、利益など出ないと思うが」

「そうでもないんだろ。

 悪さをする奴がいなくなるだけでも大きい。

 平和は最高の利益だ」

「そりゃそうだがね」



「それに、ここで色々作ってるんだし。

 その労働力が増えるなら、それに超した事は無い」

「作ってるのは安物のはずだがね。

 元が取れるほどの高級品の製造でも始めたのかな」

「まさか。

 相変わらず安物を作ってる。

 それでも、何も生み出さなかった奴等だ。

 壊して殺してきた連中が何かを作ってる。

 それだけで大きいんだろうさ」



「それが、ええっと…………この男の場合は12年か。

 まあ、それだけの期間働いてたなら、損失の穴も少しは埋まるのかな」

「だといいけど。

 でも、こんな手間かけるなら、いっそ殺した方が早いわな」

「死刑が禁止なんだから仕方ない。

 強制労働刑が限界ぎりぎりなんだからな」

「分かっちゃいるけどやりきれんね。

 こいつらの食い扶持とかがもったいねえ」

「それくらいはこいつら自身に稼がせてるからな。

 まあ、この施設や、こういう処置にかかる費用はもったいないが」



「それでも、使えるうちは使いきるんだろうな。

 こいつがいつまで保つのかわからんけど」

「今回でさすがに駄目かもしれんな。

 さすがに処置の回数が多すぎる。

 脳細胞にかかる負担も限界にきてる。

 今まで生きてたのが不思議なくらいだ」

「そこまで駄目になってたんだ」



「もう脳細胞への上書きが限界にきてる。

 細胞が保たない。

 一応やるが、さすがに今回で終わりだろう。

 生きていても正気を保ってるかどうか」

「やだなあ、廃棄って面倒なんだよな」

「仕事と思って諦めてくれ。

 それじゃ、処置をはじめよう」



 声を聞いてる男は震えが止まらなくなった。

 体は動かないが、全身に冷や汗をかいている。

(ちょっと待て、それじゃ、俺は…………)



 平穏な生活と、避難してきた町。

 この記憶が嘘だというなら。



 波瀾万丈で荒くれた生活。

 こちらが本当の記憶なら。



(俺は、俺は!)

 記憶を上書きされていた。

 思い出せない何らかの犯罪の刑罰として。

 そして、労働に従事させられていた。

 それに適した人格になるように矯正されて。

 おそらくそういう事なのだろうと思った。



 その処置が限界にきてるという。

 次はさすがにまずいとも。

 下手すれば死亡、上手くいってもまともではいられない。

(ふざけんな、待て、待てよ!)

 叫んだ。

 体は動かないが。

 必死になって逃げようとした。

 出来るわけもなかったが。



(やめろおおおおおおおおおお!)

 心の中でそう叫んだ。

 それを最後に、意識が消えた。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ