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第94話 賢者の森12(sideエレーナ)


マツが拠点の天幕を出て行った。本人は見回りと言っていたが、私の推測ではフレアグリズリーのねぐらに行ったのだと思う。マツのねぐらにはゴブリンがいたことからあちらにもいると考えたはずだ。

マツはなんだかんだで毎日喧嘩していたというフレアグリズリーにある種の友情のようなものを感じていたみたいだからな。気になっているのだろう。


まぁ、マツひとりであったなら心配であったが、彼にはモンストル男爵の従魔エリック殿が付いて行ったので、問題ないだろう。

エリック殿もマツに劣らないほど明晰で、マツが暴走したとしても止められる程度には強いと分かっている。


「さて、私たちは私たちでやることをやってしまいましょう。」


私はモンストル男爵に声をかけて、目の前のゴブリン二匹に視線を向ける。先ほどのマツの私に対する姿勢やモンストル男爵の視線にビビって震える彼らはいっそ哀れだった。


「グラディスバルト嬢。彼らに対する質問や説得は貴女が主導で行ってください。実際に従えるのは貴女なのですからね。」


「もちろんです。ぜひとも従魔に加えたいというのはウソではありませんからね。」


私はゴブリンたちを見て今回はあえて孤立させずに話すことにした。マツたちがしたように分断して説得するというのも悪くない手だが、今後、密偵などの役割を与える上で信頼関係は大事である。


「さて、ゴブリン諸君。君たちと話がしたいのだが、大丈夫かな?」


「ハ、話?オレタチニ話ッテナンダ!コロスッテイウナラテイコウスルゾ!」


「ニイチャン、ダレモソンナコトハイッテナイヨ。オチツイテ。」


ふむ、意外に弟の方が冷静なのか。こういう交渉事では兄のような短絡的なタイプの方がやりやすいのだが、弟のようなタイプでもやりようはある。


「そうだ。弟が言う様にコチラにお前たちを害する意思はない。私は賢者の森にはゴブリンの存在は必要だと考えている。故にゴブリンをこちらに引き込む作戦に同意した。」


「仲間ヲ助ケテクレルノカ?」


「それが君たちの望みなら最大限努力しよう。と言ってもマツの威厳にかかっているがな。とにかく、君たちの望みは叶えて見せるさ。ただ、それにはこちらの要求を聞いてもらいたい。」


私はできるだけ声を柔らかく話しかける。


「君たちには私の従魔として契約してもらいたい。もともとこの賢者の森には賢い魔物がいなかった故、マツのみを連れ帰ったが、君たちほどに賢いのであればぜひとも迎えたい。」


「見ていた感じ、君らは兄弟以外に家族はいないのだろう?それならグラディスバルト嬢について行っても損はないと思うよ?むしろ貴族の従魔になるのなら得しかないさ。」


ここでモンストル男爵の援護射撃が入る。どうやら彼もこの新種のゴブリンを学園に連れてきてほしいのだろう。


「オレタチヲ従魔ニ?ソレハドウイウコトダ?」


「ああ、従魔が分からないのか。従魔というのは私の仲間になってくれってことだ。君たちには私と共に森を出てほしい。そして私の密偵として働いてほしいと思っている。」


「密偵?ソレハ二人デカ?」


「そうだ。君たちならそこらの密偵には負けないと思っている。」


私が念を押すように言うと、ゴブリンたちは二人でこそこそと話し合いを始めた。おそらくだが、弟がこの提案について吟味して返答についてを話し合うのだろう。兄の方は威勢が良く度胸もあるみたいだが、少々頭が足りない印象だ。それを弟が補っているのだとすればある意味ではお互いに半身のような存在になるんだろう。


「グラディスバルト嬢、協力したんだから、すべてが終わったら学園で彼らを使った授業をやらせてよ。ここで分かったことは報告書にまとめるけど、もう少し詳しくやりたいんだ。」


「分かっている。どうせそんなことだろうと思っていたが、何も今言わなくても良くないか?」


「大丈夫。彼らはコチラに注意を向けるほどの余裕はないよ。」


はぁ。分かってやっているのだから質が悪い。研究者や学者といった人物はこういう人間が多いから面倒だ。研究が関わらなければまともなんだけどな。


「とりあえず、この説得が成功したらの話だな。モンストル男爵はこの後も適宜、協力を頼む。」


「了解したよ。主はゴリ松君の、僕はグラディスバルト嬢の協力が今回の賢者の森来訪の副題でもあるしね。」


それが副題なのか。きっと自分の研究活動が主題なんだろうが、そこは嘘でも主題と言った方が印象を良くできると思うんだがな。まぁ、良くも悪くも正直なところが研究者らしいのかもしれん。


私とモンストル男爵がそんなやり取りをした後、数秒してゴブリンたちが相談を終えてこちらに向き直った。どうやら結論が出たらしい。


「ボクタチハ貴女ノ従魔ニナロウトオモイマス。ニイチャンハドウヤラゴブリンノ王ニ目ヲツケラレテイルヨウデスシ、コノママ帰ッテモ良イ結果ニハナラナイデショウカラ。」


「ふむ、経緯はどうあれ、その選択に至ってくれたことに感謝する。では、君たちの存在を作戦に加える。ゴブリンの中でも王から離反する可能性が高い者たちの配置を教えてくれ。」


「ハイ。ボクタチノ集落ヲ含メテ、ココトココ、ソシテココガ離反ノ可能性ガ高ク、軍団長ノ配置モアリマセン。」


白ゴブリンがそう言ったところで私は重大なことを忘れていたことに気が付いた。


「そうだ。作戦の前に君たちの名前を決めねばな。マツはすでに名を持っていたから決められなかったが、君たちはそうではないだろう?」


「ハイ。名ヲモラエルノデアレバ、アリガタイコトデス。」


私は必死になって考える。しかし、そう都合よくカッコいい名前は思いつかず、どうしても見た目の印象からある絵本の英雄の名前を思い出す。


「そうだ。黒い君が『シュバルツ』、白い君が『バイス』なんてどうだ?ずっと昔の勇者の名前だ。」


「【黒髪の勇者と白髪の賢者】という本だねぇ。ずいぶん古い本なのによく知っていたね。」


「グラディスバルトの書庫に初版本があるんですよ。とにかく、どうかな?」


私はゴブリンたち、バイスとシュバルツの様子を窺う。


「オレガシュバルツ。」


「ボクガバイス。」


「「ウレシイ!!」」


どうやら気に入ってくれたみたいだ。なんだかんだで安直な名前になってしまったが、色も同じだしちょうどいいだろう。


「さて、それじゃ話を戻して・・・ん?なんだ?」


名前も決まったところで、作戦についての話を進めようとしたのだが、なぜか近くから大きな足音が聞こえてきたので、そちらを振り向く。すると、マツが走って戻ってきているのが見えた。その肩にはエリック殿がいるが、その逆の腕では何か巨大なものを担いでいる。

マツは担いだそれを私の目の前に卸すとエリック殿から首輪を受け取って小さくなった。ずいぶんデカい土産に目を白黒させる私たちにお構いなく説明をしだした。


「ウホウホ(ちょっと想定外の大物を捕まえてね。今は気絶しているけど、いつ目を覚ますかわからないから、鎖で縛ろうか。)」


なんてことないように言うマツだが、バイスの反応でそれが何か判明する。


「グ、軍団長・・・!」


まさかこれが、ゴブリンの王の腹心ともいえるゴブリンジェネラルであるとは驚愕を通り越して感心してしまうな。


感心する私の横では、バイスとシュバルツが顎が外れんばかりに開き、目を丸くする一方で、モンストル男爵が狂喜乱舞している。エリック殿も似たような踊りをしていることから収拾がつかない。


はぁ、まずは場を落ち着かせねば、拘束なんてできないぞ。
















拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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