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第92話 賢者の森10


***


エリックを乗せたボクは森の中を進む。昼間にはボクのねぐらを目指して進んだけれど、そこでは大きな収穫は得られなかった。

この賢者の森において、変化は大きく二つ。それによって引き起こされたことは別にして二つだ。


まず一つは言わずもがな、ボクがいなくなったことだ。自慢するという訳では無いが、ボクはこの森でも有数の強者だった。そんなボクがいなくなったことはいろいろな面で状況の変化を起こしているはずだ。

まぁ、ボクはそもそもオークの根絶やしで責任があるが、それ以外にも多少は責任があるってことだね。


そして二つ目は、ボクが倒した赤い大熊、フレアグリズリーだ。あいつも元はこの森の支配者層なのだから、いなくなればボクと同様の影響を与えるのは当然だ。

ボクと違ってフレアグリズリーはかなり広い地域を支配していたらしい。支配と言ってもそれは縄張りとしていたというだけなので、何かしていたわけではない。

いつ食われるかもしれない、という恐怖でも支配は支配なので、それが無くなればその地域は自由な立場になる。


と、まぁ、ボクらがいなくなったことによって、ゴブリンの王は細々とやっていた支配領域を出て、勢力を拡大していったわけだ。


そして、今からボクたちが何をしに森に入るかと言えば、もちろん、フレアグリズリーの縄張りであった場所に行くのだ。

エレーナには見回りと言ったけれど、本当はこちらが目的だ。そもそもそんな敵地のど真ん中に大事なご主人様を連れてはいけない。こんな偵察の真似事なんかはボクが勝手にやればいいのさ。


「ウホウホ(エリック、君が前回この森に来た時にはフレアグリズリーのような強い魔物はいたのかい?ゴールドバックはいなかったんでしょ?)」


「キーキー(うむ、貴様と同じ種族の魔物は存在しなかったな。しかし、フレアグリズリーのような魔物はいた。)」


いたんだ。


「キーキー(と言っても、火属性フレアではなかったがな。マーダーグリズリーの土属性グランドであったよ。当時は特に討伐の必要性はなかったので放置したが、貴様が倒したフレアグリズリーの親類だろうな。)」


「ウホウホ(なるほど。属性って親や兄弟と同じになるわけではないんだね。)」


「キーキー(当たり前だろう。生物が系譜を繋いでいく上でどうやっても複数の属性が混ざる。仮に火属性だけをかけ合わせて行けば火属性だけを引き継ぐことにはなるだろうがな。)」


うーん。でもそうなると、別の魔物同士がかけ合わさったりしないといけないんじゃないのかな?ほら、一番最初は種族として同じ属性を持っていたわけでしょ。


ボクの考えは態度に出てしまったのか、エリックはそんなボクに答えを教えてくれる。


「キーキー(もちろん、原初の種族は種族ごとに決まった属性を持っていた。しかし、貴様が想像したように別の種族がかけ合わさり属性が混ざって行ったのだよ。)」


「ウホ(へぇ。)」


ボクとしては考えを読まれたようで面白くないが、エリックは気分よく話す。


「キーキー(別種族で掛け合う例はそう多くはなかったが、魔物の歴史はそう浅くない。少しずつ蓄積して今に至るのだ。ゴブリンやオークなどが他種との交配でも子を生せるのはその名残なのだろうな。混ざりすぎた他の種族はそれもできなくなったというのにな。)」


「ウホ(その言い方だと、ボクや君のように混ざっていない種族であれば、まだ混ざることが出来ると言っているみたいだ。)」


「キーキー(まぁ、出来るだろうな。・・・しかし、それも無意味だ。我が断言するが、その様なことには一切の興味をひかれぬ。貴様もそうであろう?)」


確かに、その通りだ。全くと言って良いほど興味がない。そもそも、今の自分の状態も理解していないのだから当然だ。


「ウホウホ(そうだね。おっと、そろそろ目的の場所だ。無駄話、という訳では無いけれど、黙ろうか。警戒を強めるよ。一応、敵地だからね。)」


興味のない話をし始めてから気づけば目的の場所、フレアグリズリーの縄張りへと足を踏み入れた。どうやら今の支配者はフレアグリズリーほど鼻が利くわけではない様だ。あいつなら即座に現れて攻撃を開始したはずだ。


「キーキー(ふむ。我の記憶よりも平和な森である。あの時は引っ切り無しに獣系統の魔物が襲ってきたものだが、今回は一度もない。)」


「ウホ(昔の賢者の森はそんなに物騒だったのか。ボクがいた時はそんな風なことは一度もなかったけどなぁ。)」


エリックは少しだけ考え込んで何かに思い至ったように手をポンと打った。


「キーキー(ああ、なるほどな。あの当時はもしかすると森に支配者がいなかったのかもしれない。さすれば、森の外から来た我に群がった理由にもなる。)」


「ウホ(じゃあ、ボクがこの森にいた時は支配者であるボクがいたから、今はゴブリンキングがいるから平和ってこと?)」


「キーキー(そうだな。しかし・・・いや、今は・・・しかしな。)」


エリックは何かを考えたようだが、一度口を結んだ。でもその言動には何か聞いておいた方が良い気がした。


「ウホ(エリック?どうかしたのかい?)」


「キーキー(ううむ。今言っても詮無き事ではあるが、言っておくべきか。・・・貴様は気づいているか?先ほど我が言った様に支配者がいないのであれば、当時のように魔物が魔物を襲う事態になる。)」


「ウホ。」


「キーキー(これからどうするかは分からぬが、もし調査の結果、ゴブリンキングを討伐する流れになるのであれば、同様の事態になるのは避けられぬ。その時、放置するのか、誰か魔物を支配者に押し上げるか。放置すれば、森が荒れるのは確定で、支配者を立てるにしても誰を立てるか。考えねばいかんことが多くあるのだ。)」


「ウホ?(なら、ボクがもう一度、支配者になる?)」


ボクとしては何気なく言った言葉なのだけど、実際にはそれは即座に否定された。エリックはボクの立場を僕以上に理解していたらしい。


「キーキー(それは無理であろう。我もそうだが、従魔として契約者に従う我らには、領域の支配者にはなれん。契約者から離れることになるのだからな。貴様も主人から離れて賢者の森で暮らすつもりはあるまい。)」


「ウホ(そうだね。それならボクは適任じゃないか。でも、そうなると今は答えは出ないね。)」


「キー。(ああ。)」


「ウホ(あっ。見えてきたよ。あそこが熊の縄張りの中心部。いやぁ、それにしても大きな木だねぇ。)」


エリックとの話が一段落して見えてきたのは巨大な樹木だった。それは根元に大きな洞を持ったフレアグリズリーのねぐらである。


「キーキー(これは見事な・・・。)」


「ウホウホ(僕も見るのは二度目だけど、すごいよね。じゃあ、調査を始めようか。ボクのねぐらのようにゴブリンの手が伸びているかもしれないし、気を付けてさ。)」


「キーキー(もちろん。)」


ボクらは木の洞に足を向ける。
















拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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