第89話 賢者の森7
ボクにゲンコツを貰ってもだえる兄弟は放っておいて、エレーナの質問にはボクが答えた。はじめはゴブリンに応えさせるつもりだったのだけど、答えるつもりがない彼らに任すことは時間の無駄であると思ったからだ。
「ウホウホ(ふぅ、ボクから話すよ。さっきの時点で大凡の事情は把握しているからね。)」
「それでいいよ。ただ、今の発言に関しても後ほど聞くからな。」
「ウホ(分かっているさ。)」
エレーナがボクに確認したのでそれを了承すると、先ほどの尋問で聞いた内容をエレーナに伝える。尋問と言っても特に耐えることなくぺらぺらと話してくれたので、特に拷問などの過激な手段は用いていないけど。
「ウホ(口頭で良いかな?)」
「キーキー(下僕には我が通訳してやる故、問題ない。)」
「そうだね。主様、お願いします。」
ボクの言葉がモンストル先生には届かないのを忘れていたボクはエリックの言葉をありがたく受け取る。
「ウホウホ(それじゃ、話すよ。)」
ボクは先ほどの尋問で得た話を口にした。
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※ここからは騎士の通訳を省略してお届けします。
白ゴブリンと黒ゴブリンを引き剥して別のテントに隔離すると尋問を開始する。
「さあ、話してもらおうか。君たちはどうしてこんなところにいたのかな?」
「ソ、ソンナコトヨリ!弟ダケハ助ケテクレ!」
「うん、いいけど、まずはこちらの質問に答えてからだよ。」
最初から弟の助命を懇願する辺り、ゴブリンでも兄弟愛ってあるんだね。ぱっと見では他のゴブリンと見分けがつかない場合でもそうなのだろうか?
この兄弟は進化個体だからかもしれないけど、他のゴブリンとは見た目からして違う。それ故の兄弟愛である可能性が高いと思うのだ。
「ワカッタ。何デモ喋ル。ダカラ!約束シテ!」
「約束するよ。」
ボクが言葉にしたことで黒ゴブリンは安心したのか質問に答えだした。それだけでボクはこのゴブリンがそれなりに賢いことが分かる。学園にいたゴブリンは一分前の指示なんて忘れてしまう程度の記憶力しかなかったからね。
「オレタチハ王ノ命令デ人間タチノ村ニ来タ。」
「王の命令?じゃあ、自分の意志じゃないのかい?」
「当タリ前ダ!好キ好ンデコンナトコロニ来ル訳ガナイ!ソモソモ、オレタチハ森ノ中デ静カニ暮ラシテイタノニ、ドウイウ訳カ王ノ勢力ガ強クナッテ徴兵サレタンダ!オレモ弟モ戦闘ハ向イテイナイシ、嫌ダッタンダ!」
黒ゴブリンの話はとても興味深い。そもそも賢者の森はボクが記憶している限りでは、オークやゴブリンは同じ種族でも全部が共同体という訳では無く、いくつかの群れに分かれていた。人間が部族や国で別れるのと同様に、それが自然というものだろう。
しかし、黒ゴブリンの話を聞く限りでは、その別れていたゴブリンを王とやらが統一したということらしい。これは普通に統率力のある王が統一に立ったという特におかしな話ではないが、その原因は分からない。
「君たちは王がどうしてそんなことをしたのか分かるかい?」
「アァ!森ノ支配者ガイナクナッタカラダ!元々ハ“森ノ賢者”ヤ“燃ユル大熊”ガイタカラ王トイエドモ勢力ヲ拡大シテモ縄張リヲ増ヤセナカッタ。ソレガイナクナッテ制限ガナクナッタンダ!」
その話を聞くだけで、やっぱりゴブリンが増殖したのはボクに原因があったことが分かる。ボクがいなくなって、ゴブリンが集められて、集まれば繁殖が進む。そうやってボクがいない間に爆発的に増えたんだろうね。
そして増えたせいで食料などを賄えなくなって近隣の村まで出向いたのだろう。そこで、運良く、犯罪者などを差し出されたものだから調子に乗ったってところかな。
「じゃあ、次の質問。君たちは人間を襲ったことはあるのかな?」
「アルワケガナイ!オレタチハ静カニ暮ラシテイタダケダ!食料ハ森ノ恵ミデ十分ダシ、襲ウ理由ガナイ。」
「そっか。」
ボクは安堵した。だって、ボクもエレーナもゴブリンを絶滅まで追い込みたいという訳では無い。なぜなら、彼らには賢者の森においてそれなりに役目があるからだ。
例えば、冒険者や騎士が森で活動した際に倒した魔物の死体などは基本的に放置される。しかし、それでは通常はアンデッドなどの心配があるのだが、賢者の森ではゴブリンが処理してくれるのだ。食べるためだったり燃料とするためだったりなど、用途は様々らしいが。
どうしてそんなことをするようになったのかはボクは分からないのだけど、エレーナが昔読んだという文献によると、賢者の森に棲んでいた森の賢者が教えたのだと言い伝えられており、近隣の村々では似たような言い伝えがちらほらとあるらしい。
森の賢者ってボクと同じ種族なんだと思うけど、他種族と共存していたってことなんだよね。面白いなぁ。
黒ゴブリンの尋問はそこから数回の質問で必要なことは聞けたので切り上げて、確認のために弟の白ゴブリンにも聞く。
白ゴブリンも兄である黒ゴブリンを助けてくれと、非常に口は軽かった。
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「ウホ(と、まぁ、こんなものだね。)」
「ふむ、差し当たって分かったことは、このゴブリンたちが無理矢理任務に使われたってことか。本来なら斬り捨てられても仕方がない状況ではあるが、捕虜としたのだから命は保証しよう。さて、ここからは私の質問に答えてくれ。」
エレーナはゴブリンたちの前に立つと、見下ろしてにこりと笑った。
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