第8話 遭遇
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今日はエレーナ達が森に来る日。詳しいことは知らないけど、一週間に一度来るんだから、結構人里も遠いのかもな。
僕は今日もいつものように熊と喧嘩をしてからポイントを巡って最後まで指輪を探す。最近になって熊がおかしいんだよなぁ。今日だってもう少しで決着がつきそうだと思ったら突然、口から火を吐いたんだよ?いや、森で見かけるようになった人間が不思議なことをするから、ここが異世界だとはわかってはいたけどさ。まさか熊が火を噴くとは思わないでしょ。
だから今日もすんでのところで引き分けに持ち込まれちゃって、あんまり良い一日の始まりではなかったのさ。その後のポイント巡りでも目新しい物も無かったし、もっと言えば持ち帰るレベルの物すらなかったよ。はぁ、こんなんじゃエレーナ達は怒るかなぁ。
とりあえず、そろそろ前に会った時と同じ時間帯だからあそこに移動しなきゃね。あ、僕の寝床の鞄も持っていくのを忘れちゃいけない。指輪は見つからなかったけど、アレの中にもしかしたら良いものが入っているかもしれないからね。
さあ、行こう。
***
寝床からの移動は例のごとく枝雲梯だ。よぉく考えると僕の大きな体を吊るしても耐えることができる強度の枝って実はすごいんじゃないかな?しなっても折れないんだから、槍とかに加工すれば丈夫な柄になるかも。
そんなことを考えながらも集合場所に向かう。一応モンスターが彼女たちに襲い掛かるかもしれないので、急いで行く。
そして最近になって分かるようになった魔力の気配を探りながらも進むと、集合場所には一人の女性がいることが分かった。
あの時は魔力の気配なんて気にもしなかったから気付かなかったけど、この感じはエレーナだろう。
森に来る不思議なことをする人と似た魔力の気配を感じる。
僕はさらに枝をしならせて移動距離を増やしてその場に急ぐ。どうやら僕以外にも彼女を見つけたやつがいたみたいだからね。
***
僕が集合場所へと到着するとエレーナがこちらに気が付いて手を振ってくれる。会わなかった間に関係値が元に戻っちゃうことを心配してたんだけど、一安心だ。
「おーい、こっちだゴリ松!」
うん、僕の(仕方がなく名乗った)名前も覚えてくれていてよかったよ。僕だけ名前を覚えているのはさすがにね。
前世の会社の後輩の子を思い出してしまうよ。僕は彼女の名前を覚えていたけど、後輩の子に普通に“ゴリ松さん”って呼ばれたときは、さすがにへこんださ。そんなにゴリラに似ていたかな。
まあ、今はむしろゴリラだからいいけどね。正確にはゴールドバックっていうらしいけど。
「ウホ!(やぁ)」
僕も手を小さく振りながらエレーナに近づいて持ってきた色々入れた魔法鞄を渡す。ああ、早くしないと。
僕は前回の時に作った、文字を書く用の木の棒を使って文字を書く。エレーナにはそれだけで僕が何か伝えたいのを理解してくれるはずだ。
カリカリカリ
「ゴリ松?なんだこれは?ん?何かを伝えたいのか。」
ほら、分かってくれた。あとは内容を伝えるだけ。
カリカリ
「えっと、こっちが『化け物、来る、隠れる』で、こっちは『わたくし、化け物、叩く』か。魔物が来るから倒すまで隠れてろということか?」
「ウホ!(それ!)」
しっかり伝わってくれた様でよかった。僕も今日はミーシャはいないの?とか、何か持っているけどなに?とか聞きたいことはあるけど、とりあえずはこれだけ伝えて木の陰にでも隠れてもらう。
「隠れるのは了解したが、なんでお前が書く言葉は淑女が手紙で使う単語なんだ?まあ、伝わるからいいが。」
「うほ!?(え!?)」
エレーナが言った言葉はまさかだったけど、教本がそういうものだったんだろう。とにかく今は急いでね。
急かすようにエレーナを木陰に押していき、隠れてもらう。そろそろ本当にやばいんだ。
だんだんとあいつの足音がエレーナにも聞こえてきたのか、少し怯えたみたい。まあ、あいつはこの森でも強いやつだから、そうなるよね。
でも、ここはあいつの縄張りからはずいぶん外れているし、むしろ僕の縄張りだ。どういうつもりだろう?
そして数秒後、あいつが木々を避けてこちらへと出てくる。集合場所は開けた場所なのでさながら決戦のようだ。
「ま、まさか、マーダーグリズリー?いや、内包する魔力の属性が火だから無属性のマーダーグリズリーではないな。フレアグリズリーか?」
エレーナが何やらぶつぶつとつぶやくが、僕にははっきりと聞こえた。こいつ、熊だと思ってたけど、モンスターだったのか。しかも出てきた名前が物騒だし。マーダーって殺人とかそういう意味だったはずだ。フレアっていうのも心当たりがあるしさ。
まあ、とにかくこいつから僕に襲撃をかけてきたのは最初の一回から次いで二度目だ。何で今なんだろう。
僕の疑問は意外な形で解決することになる。エレーナが答えをつぶやいたからだ。
「まさか私の匂いを辿ってきたのだろうか。マーダーグリズリーは人を食らうためにどこまでも行くというし。そのためにはドラゴンの縄張りまで押し寄せた話も聞いたことがある。ミーシャ、私はここまでらしい。不甲斐ない姉を許してくれ。」
ただ、悲しい決意はやめてほしい。僕が目の前で君を見殺しにすると思っているのかな?僕にとっては唯一の喋り相手と言っても良いし、この世界に触れる一つの窓口にもなるエレーナは十分に守る価値があるのだ。
ここは体を張るべきタイミングだろう。
「ウホ!(大丈夫!)」
僕はエレーナを隠すように立ち塞がると、熊を睨みつける。
まったく。今朝相手してやったばかりだというのに、どうしてそれで大人しくできないかなぁ。
せっかく今日を楽しみにしていたのに水を差された気分だ。でも、ここでこいつをやっつければ指輪を見つけられなかったのを帳消しにできるかもしれないし、余計に頑張っちゃうよ。
「お、おい、ゴリ松!お前はあのクマとやり合うつもりか?危険だ。ここは私を囮にして...」
「ウホ!グガァアアアア(そんなことできないよ。ちょっと待っててね。)」
僕はエレーナの声を遮るように叫ぶと、熊に向かって走り出す。もちろんナックルウォーキングなので疑似4足だが、それは熊も同じなので気にしない。
「ガァアアアアア」
熊も僕の方へと突進してくる。そっちがその気なら僕もそれでいいや。
僕は走りながらも魔力を巡らせて魔力強化をする。熊も同じことをするはずだけど、素の力では僕の方が強いから負けはしないだろう。
ガチンと大きな音を立てて僕達の頭突きが交差する。なんて言うか相撲のぶちかましみたいな感じで、かなりの衝撃があったけど、やっぱり僕の方が力が強いから、飛ばされるのは熊になった。
僕は熊の意識がエレーナに行かないように握りこぶしを作って胸を連続で叩き、ドラミングをして挑発する。エレーナにも少しだけ衝撃を与えてしまうけど、少しだけ我慢してもらおう。
熊にはこれが効果覿面なのは連日の喧嘩で知っている。これをすると何か激怒して攻撃が単調になるし、注意がこちらに向くんだよなぁ。
「ガァウ、ガァアアア」
案の定、熊は僕に狙いを定めた様で牙をむき出して威嚇する。今朝はお互いに怪我をしたはずなのだけど、僕も熊もすでに癒えて全快のようだね。
さて、やろうか。
君がここで僕に負けてもそれは君が弱かったんじゃない。僕が強かったってことだよ。
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