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第88話 賢者の森6


ボクが捕まえることに成功したゴブリンは二体。どちらも進化した個体であることは明白だ。そうでなければ先ほどの魔法に説明が付かない。


捕まえたことで姿がはっきりとしたゴブリンは、それぞれ普通のゴブリンとは違い、体色からして違う。

一体のゴブリンは黒みがかった緑色の肌を持ち鋭い牙が口の端から見えている。これだけでも普通のゴブリンと違うが、それ以上に格好が問題だ。それは明らかに仕立てられた服を着ており、ゴブリンながらに良く似合っている。黒ずくめの格好はまるで忍者のようである。黒ゴブリンとでもしようか。

そして、もう一体は黒ゴブリンとは逆に全身を白に統一した格好だ。こちらも忍者のようではあるが忍ぶ気はないタイプである。肌の色も白が強めの緑で黄緑よりも明るいと言えば良いだろう。こちらは黒ゴブリンから考えて白ゴブリンとしようかな。


先ほどの芸当は、おそらく魔法だけど、どちらがどの魔法を使ったのかは推測しかできない。でも、推測が出来れば揺さぶることはできる。


「ウホ(さて、君たちには僕の質問に答えてもらうよ。あ、言葉は通じないか。)」


どうせ、文字なんて書いても答えられないだろうし、言葉で、と思ったけれど、ボクの言葉は通じない可能性が高いことに気が付いた。さっきの進化個体は人間の言葉をしゃべっていたしね。そこで、騎士の一人に通訳をお願いした。


「オホン。ではゴリ松殿の代わりに私が質問させてもらう。まずは、貴様らは何者だ?」


「グギャ」

「ゲェ」


ゴブリンたちは鳴き声を発したが言葉を話さない。こちらの言葉が分かっていない可能性もあるので、ひとまずそこから確かめよう。


〔まずは魔法について触れてみよう。そうだなぁ・・・ゴブリンたちの魔法は『物を動かす』のと『影に物を入れる』というのであっているか?とかかな。うーん、影の方が先が良いな。あとは断言する形で。〕


「承知した。・・・ゴブリンども、貴様らの魔法は『影に物を入れる』魔法と『物を動かす』魔法で相違ないな。」


騎士がそう尋ねると、ゴブリンたちはあるところでびくっと反応してもう一か所でホッとしたように肩の力が抜ける。

ボクにとってはそれだけで十分な反応だ。知りたいことは知れたので、本当の質問に移ろうか。

『影に物を入れる』魔法については正解みたいだし、もう一つも想像ができるし、もはや詰みだね。


〔うん、反応したね。これで少なくとも人間の言葉を理解していることは判明した。それじゃ、質問を変更しようか。影の方は正解みたいだけど、念動力は違うね。そっちはきっと『姿を消す』魔法だね。〕


「なるほど。そこを見ていたのですな。分かりました。おい、ゴブリンども。貴様ら、我らの言葉を理解しているな?」


「グギャ?」

「ゲエ?」


ゴブリンたちはとぼけたように首を傾げる演技をしたが、それすらこちらの言葉が通じている証拠でもあるので、今更通じるわけがない。騎士もそれは分かっている。


「フンッとぼけることこそその証左。もう貴様らの魔法が姿を消す魔法であることも分かっている。諦めろ。」


「グックソガ。」

「オイッバカ。シャベルナヨ!」

「オマエダッテ!」

「「アッ?!」」


二人で漫才でもしているかのように白状したゴブリンたちは自分たちのミスに気が付いて慌てて口をふさぐ。もう遅いけどね。


「もう遅い。はっきりと言葉をしゃべることを確認した。今後は沈黙しても尋問は続行する。痛い思いがしたくないのであれば素直に喋ることだ。」


騎士がそう言うと、ゴブリンたちは視線を合わせて震えた。どうやら相当に恐怖を感じているらしい。


「ニイチャン。ドウシヨウ!」

「クソッ王ハ人間ニ魔法ヲ使エル人間ハイナイト言ッタノニ!」


二体はどうやら兄弟らしい。肌の色が違うから思いもしなかったが、これは使えるかもね。兄弟というのは互いを守るために口が軽くなるかもしれない。


〔一人ずつ質問してみようか。お互いを守るために口を割るかもしれない。〕


「え、ええ。なかなかにエグイ手を使いますね。」


若干だけど、騎士がひいている気がする。でも、これ調査の一環だし、徹底的にやるつもりだよ。


ゴブリンたちは拘束されたまま二つのテントに分けて入れられた。引き離されるときにはボクの思惑通りに兄とみられる黒ゴブリンが騎士に「ナンデモ言ウコトキクカラ弟ヲ助ケテ!」と言っていたので、まずはそちらからだね。




***



あれからボクと騎士はゴブリンの聞き取りを終えてエレーナのテントに戻っていた。ゴブリンたちも同行しているのは先ほど聞いた内容をエレーナにも聞かせるためだ。それくらいには有用な情報が得られたわけである。


「失礼します!」


「ああ。」


「ウホウホ(エレーナ、戻ったよ。って、あれ?誰かいるね。)」


テントの中に入るところで何かエレーナ以外の誰かがいることに気が付く。でも知らない人じゃない。もしかするともしかするかな?早すぎるけど。


「やぁ、待ってたよ。」


「キーキー(フム、何か収穫があったようだな。我らにも聞かせるがよい。)」


その二人、正確には一人と一体は尊大な態度でそう言うとぼくらの前に現れた。


「ウホ(モンストル先生!エリック!)」


ボクは驚いてしまったが、エレーナは平然としているということは彼らが来て結構立っているのだろう。いろいろと言いたいことはあるが、まずは報告からだね。


「まずはそちらの報告、という前に彼らを騎士に紹介するべきだな。こちらは学園で教鞭をとっているテス=モンストル男爵とその従魔エリック殿だ。魔物学者でもある彼には賢者の森の調査を手伝ってもらう。他の者にも周知しておいてくれ。」


「承知しました!モンストル男爵のことはグランディスからの伝令が来ておりましたので大丈夫でしょう。ではこちらからの報告はゴリ松殿からお願いします。私はこのことを伝えに戻ります。」


「ああ。頼むぞ。」


騎士はそう言ってエレーナの天幕を出て戻って行った。ボクは手に持っているゴブリンたちをつないだ縄を引っ張って中に入るとエレーナに見せて報告を開始する。ボクの言葉はモンストル先生には通じないけど、エリックが通訳をしてくれるから大丈夫だ。


「ウホウホ(とりあえず、あちらの井戸の問題は解決したよ。やっぱり魔法による工作だった。でも次はない様に強化しておいたし、大丈夫だと思う。)」


「そうか。それは重畳。まぁ、それは想定内なんだが、そちらのゴブリンは何だ?私の記憶ではゴブリンは服は着ないし、身に着けても汚い腰布程度だ。説明してくれるか?」


ボクはゴブリンを捕まえた経緯を説明した。


「そうか。あの料理や消耗品が消えるのはこいつらの仕業だったか。ふむ、しかし、それだけじゃないんだろう?」


「ウホ(もちろん。これらはどうやら王とやらに命じられて嫌がらせをしていたみたいなんだよね。)」


「ふむ、王か。昼間の進化個体もそんなことを言っていたが、やはりゴブリンの王が誕生しているんだな。」


こちらとしては確認程度の事柄なので大して気にすることなく進もうとしたところでモンストル先生が食いついた。


「ゴブリンの王が誕生したのかい!?それはいったいいつどこで何が原因かは分かっているのかな?!」


その勢いには驚かされたが、エリックが先生の襟首を引っ張って戻したので詰め寄られることはなかった。エリックは自前のノートを取り出すとそれに文字を書いてエレーナに差し出す。


「キーキー〔我が下僕が失礼した。しかし、我らがここへと赴いたのはまさにそれが理由。ゴブリンの増殖にはゴブリンの王が関わっていると見ていたので少々反応が大きくなってしまったのだ。許してやってくれ〕」


「いや、驚きはしたが気分を害するほどではない。それに男爵殿には力を貸してもらいたいので隠し事をするつもりはないのだが、今の質問には答えられないんだ。今の私には、だが。」


そう言ってエレーナはボクの方を見た。どうやらボクが持ってきた情報を当てにしているみたいだけど、そこまで詳しくは調べていない。ここで追加で聞くことになるけど、それでいいか。


「ウホ(ボクもすべてを知っているわけじゃないよ。分からないことは直接こいつらに聞いてよ。人間の言葉は分かるみたいだからさ。)」


「なんだって?!このゴブリンたちは人語を解するのかい?!それはすごい!」


再びモンストル先生が熱くなりそうだったところをエリックが押しとどめた。


「ふむ、まずは改めて尋問しようか。」


「ウホウホ(うん、ある程度はしたけど、まずはエレーナが聞きたいことを聞くと良いよ。)」


エレーナはボクの言葉に頷くとゴブリンたちの前に立つ。もちろんボクが横に立ってゴブリンが変なことを考えないようににらみつけた。


「では、まず、お前たちは何故、騎士の拠点で盗みを働いたのだ?」


エレーナの質問は通常、魔物にする質問ではないが、魔物と言えばボクという常識がある彼女は、人に接するのと同じような対応を取っているみたいだ。


しかし、ゴブリンたちは質問に答えるよりも言いたいことがあったのか、二人で声を合わせて叫んだ。


「「俺タチハ王ニ騙サレタンダ!!」」


その叫びは天幕の中に悲痛に響き、エレーナに届き、モンストル先生やエリックに興味を湧かせ、ボクにため息を吐かせた。


「ウホ(ボクは聞かれた質問に答えるように言ったんだけどな。)」


握り拳を固めて、軽く、すごぉーく軽くゴブリンたちの頭に落としたのは仕方がないことだった。










拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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