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第87話 賢者の森5


エレーナがいる拠点から歩くこと数分。すぐ近くに設置されている騎士たちの拠点では、井戸の件に関してボクが想像していたよりも困っているようだった。


「ウホ?」


「ゴリ松殿、どうかされましたか?」


ボクが予想と実際の光景の差異に首を傾げると一緒に戻ってきた騎士が様子に気が付いたのか尋ねてきた。ボクはそれにこたえるために、手ごろな棒を拾って地面に文字を書き始める。


〔思っていたよりも困っているんだなってさ。〕


「・・・ああ、そう言うことでしたか。確かに、お嬢様には支障はないと申し上げたのですが実情はひっ迫しているのですよ。一つの井戸が止まるということは、いつもう一つの井戸まで使えなくなるかわからないということですから。」


なるほど。確かに言われてみればそうだね。一つ井戸が使えなくなるということはもう一つも同様のことが起きる可能性は低くない。むしろ、これが何者かによる工作だとすれば、可能性は非常に高くなるわけだものね。


「我らに限らず、生き物は皆、水は生命線です。食料は森で狩りをすれば手に入りますが、騎士全員がのどを潤すことが出来るほどの水を確保するのは楽ではありません。川の水でも良いのですが、賢者の森の水は魔法が使えない者には毒ですからね。」


ここで一つ新事実が判明した。賢者の森の川の水はどうやら毒らしい。でも、魔法が使えれば大丈夫というように聞こえたけど、どういうことだろうか。


〔魔法が使えないと毒ってどういうことなの?〕


「え?ああ。お嬢様も魔導士ですし、お知らせにはなっていないんですね。この森の川は多量の魔力を含んでいるので、魔法を使える者、つまり魔素に適応していない者が飲むと魔素によって蝕まれてしまうんです。水源がどこにあるか知られていませんが、原因はその水源にいる魔物であると言われています。」


ふぅん。つまり、魔素に慣れていない者が体内に取り込むと何らかの異常をきたすということね。魔物は魔素の集合体みたいなものだし、魔導士や魔法使いも普段から魔素を魔力に変換して使用しているから大丈夫なんだ。


良かったよ。エレーナが拠点を作るときに水場っていうから、川の近くにしてしまったけど、大事に至らなくて。


「では、ゴリ松殿。井戸の件、お願いしてもよろしいですかな?」


〔うん。まずはどんな風か見てからだけどね。どれ、ちょっと失礼。〕


ボクは井戸の前にいる騎士数名を掻き分けて井戸の方へと進む。ボクがいることに気が付かなかった騎士には、一緒に来た騎士が声をかけてくれたのですんなりと井戸まで到着した。


ボクは井戸に近づくと、軽く地面を握った拳で小突く。全力で加減したボクの拳はそれでも地中に響き、その情報をボクに持って帰る。

井戸は見た目の変化こそないが、地中深くでは水源から伸びていた穴が数か所、塞がれるように変形していた。そのやり口は明らかに自然なものではなく、何者かの手が加えられていた。


でも、特に問題にはなりそうではなかった。


〔どうやら、誰かが魔法で無理矢理に井戸をふさいだみたいだね。水源とつながっている部分が何か所か変形しているよ。〕


「なんと!?やはり、ゴブリンどもでしょうか。最近になって、奴らは進化個体も増え始め、魔法を使う個体まで出たと聞きますし。」


〔十中八九そうだろうね。でも、これくらいなら大丈夫すぐに直せるよ。これでもボクは学園で魔法を練習したからね。〕


ボクは騎士を安心させてから作業に入る。その間も騎士とは雑談をしながら情報を集めていく。


「いやぁ、お嬢様が賢いアームコングを従魔にしたとは聞いておりましたが、想像以上ですな。ゴリ松殿が森の賢者と言われても納得してしまいそうです。」


「ウホ。〔それほどじゃないよ。作業している間、時間があるし、気になっていたことを聞いてもいいかい?〕」


「もちろんです。」


〔じゃあ、ゴブリンの数が増えてきたっていうのはどうやって気づいたのか知っている?〕


「はい。賢者の森の近くにある村に出現する回数が増えたからですね。元々は撃退されたりして、何度も頻繁に来るということはなかったらしいんですが、一度だけ人の誘拐に成功してから頻度が増して、数が多くなったのです。

襲撃が増えてその数の多さに驚いた村長が領主様に嘆願書を提出したことが発見の第一歩ですね。冒険者ギルドも把握はしていたようですが、調査段階だったので報告はありませんでした。」


どうやら、冒険者ギルドよりも先に御父上はゴブリンの増殖を察知していたみたいだ。しかし、それにしても村人が誘拐されてからの発覚では少々後手なのかな?

そう思って聞いてみるとそうではなかった。というか、村人ですらなかった。


「村に盗みに入った盗賊を魔物刑に処したら思わぬ成果を上げたということらしいです。いやぁ、犯罪者でも役に立つことはあるんですねぇ。」


騎士はあっけらかんと言ったが、なかなかに恐ろしい。やはりこの世界では人間の命は軽いもののようだ。それも犯罪者となればなおさらである。

魔物刑について詳しく聞くと、どうやら重い犯罪を犯した者に課せられる刑罰で、魔物が住む場所に手足を縛られた状態で放り込まれたり、寄ってきた魔物に生贄のような形で差し出される刑のようだ。

前者は大きな町や都市、後者は魔物の領域がある近くの村などで行われるらしい。窃盗位で重すぎると思うかもしれないが、他者の物を盗むとは、刑務所など完備されていないこの世界ではそれほどの罪なのだ。


と、そんな話をしていると、井戸の修復が終わった。念を入れて、また壊されないように強度を以前の十倍まで引き上げておいた。この作業はもう一つの井戸にも施しておく。

そして、作業がさらに順調に進んだところで、ボクは拠点の中に不思議な気配を感じることに気が付いた。これは魔法の気配かな?


ボクがその気配の方を向いてじっとしていると、そこにはテーブルが置いてあり、その上の皿がひとりでに動き出し、乗っていた料理諸共下へ落下したのだ。

これには驚いたが、もっと驚いたのはそれが音を立てることなく机の下の陰に吸い込まれるようにして消えたことである。


「ウホウホ?!(あれは魔法?!〔みんな気を付けて!魔法を使って隠れている何かがいるよ。警戒して!〕)」


ボクは声を出して騎士の注目を集めると地面に文字で指示を出す。騎士たちがボクの言葉に従うかは賭けであったけれど、素直に従ってボクが注目している方へ目を向ける。


そして、ボクが最初に動いたんだ。


「ウホゥ」ドゴドゴドゴ


地面を数度打ち鳴らし、魔素を掴んで魔法を発動させる。ゴブリンを殺したときに使った魔法の非殺傷版だ。


ギャギャ

グゲェ


ソレは大きな手のように対象に絡みつくとぎゅっと締め上げるように拘束した。その声で何を拘束したかを理解したと同時に、この拠点で起こる不思議な出来事の犯人も理解した。


「消耗品や料理が無くなった理由はこいつらですか。いやはや、魔法で姿を隠して堂々と窃盗。魔法を使える者がいなかったことでしてやられました。」


そうだね。その犯人はこのゴブリンたちで間違いない。今は拘束しているし、他に逃げたのもいない。さっきの進化個体同様にしゃべる頭があるのなら尋問してみようか。















拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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