第86話 賢者の森4(side???)
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Side???
「王ヨ、王ヨ。危機ガ迫ッテイル。コノ森ノ支配者ガ・・・アァ、圧倒的ナ力・・・抗ウ術モ思イツカナカッタ。
王ヨ、ドウカ警戒ヲ・・・。ワレラゴブリンに栄光アレ・・・。」
多くのゴブリンに囲まれていた片腕を無くし、ボタボタと血を流し続けていたゴブリンが最後にそう言い残して死んだ。
そのゴブリンは王の命令で森の外周部から中央に向かって警戒しつつ巡回していた小隊の隊長だった。
ここでゴブリンに怪我を癒すという文化があれば、息も絶え絶えで帰ってきたゴブリンを治療し、さらなる情報を手に入れることが出来たかもしれない。しかし、ゴブリンの文化には、殺して食う、捕まえて孕ませる、などの短絡的な習慣しかなく、その様な新たな文化が生まれる気配すらなかった。
死んでしまったゴブリンは王が支配するゴブリンの王国において、取るに足らない存在でしかなかったが、それが何者かに殺されたというのは、王にとっては看過できるものではなかった。
「誰が、誰が、誰が、誰が誰が誰が誰が!我が王国の民を殺したというのだ!我らはただ、ひっそりとこの森で過ごしているだけなのに!
この賢者の森を治める賢者はこの我こそがふさわしく、人間どもが参入する余地などあるはずがない!
せっかく、憎きオーク共がいなくなり、熊や巨大な猿が消えた好機に現れおって!」
荒れる王は自分が座る木で作られた玉座の肘掛けを握り潰すと、さらに目の前の机にその拳を叩き落とす。玉座と同じく木を削って作られているソレは王の腕力で無残にも弾け飛ぶ。
ゴブリンの王にとってはひっそりと森で暮らしているつもりでも、人間にとってはそうではない。そもそも、種族的な認識の差があるが、森の外に出て力無い冒険者や村人などを誘拐していくゴブリンが、ひっそりと暮らしているかは疑問である。
「王ヨ。発言ヲオ許シクダサイ。コレハ明ラカニ我ラゴブリンニ対スル宣戦布告モ同義。ココハ迎エ撃ツコトコソ最善カト。」
王の御前に並ぶゴブリンの内、重そうな全身鎧を装着した4匹のゴブリンの1匹が、一歩前に出て跪いてそう言った。
その意見に周囲が賛同する。彼らからすれば突然の襲撃で、断固とした抗議のためにも戦うことは正義であった。
「静まれ。」
だんだんと熱量を帯びていくゴブリンたちを前に王は一言でその場を制し、自らの意見を口にする。
「我も熱くなってしまった故、貴様らも熱くなったのかもしれぬが、ここは冷静に話すよしよう。
我が国は賢者の森の強者の行方が不明になったことで興った新たな国である。それを周辺の人間どもが認める認めないは関係がない。しかし、国として興ったのであれば、それを守るために我は武器を持とう。
我が民となったゴブリン、総勢3万名は我が兵力であると同時に守るべき存在でもある。貴様らには我だけではなく、我が民として、我が民を助けてもらいたい。できるか?」
「「「「「ハッ!」」」」」
「ではまずは、森の外に居を構えた人間どもの水資源を奪う。人間であろうが魔物であろうが水がなくては、生命活動は困難だ。軍団長が魔法部隊を指揮せよ。すべてを一気にやるなよ?じわりじわりと行うのだ。我らの策略だと気づかれないのが好ましい。静かに、迅速に、だ。」
王の言葉にゴブリンたちは首を垂れる。その様はまさに国を治める者とその民の姿であった。
(こりゃ、想像よりも早くに人間とゴブリンがぶつかりそうだ。別に人間とゴブリンがぶつかろうがどうでもいいが、ゴブリンが策略を駆使するようになったというのは懸案事項だ。急いで戻り報告せねば。)
その姿を見ていた俺は急いでその場を離脱して、本来の主の元へと急ぐ。これでゴブリンの真似事は終わりだ。
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Sideゴリ松
「失礼します!」
拠点に帰ってから、モンストル先生に渡すための資料を作り始めたエレーナにそう言ったのは、この拠点の近くにある騎士が作った拠点からの伝令役の騎士だった。
既に資料の作成を開始してから数時間が経過してすでに日も暮れ始めている時間に来た伝令に気を引き締めないわけにはいかない。
通常の報告程度であれば、辺境伯軍の軍規則通りに朝一での伝令になるはずなので、この伝令がただの定期報告の第一弾という訳では無いことが分かる。
「どうした?」
「ハッ!エレーナ様。あちら側の拠点で少々不思議なことがございましたので、念のため緊急で伝令に走りました。」
「ふむ?不思議なことだと?報告してくれ。」
伝令の騎士が言うには、騎士の拠点で通常とは違う不思議なことがあったために、念を入れて伝令を立てたらしい。つまり、朝一の報告でも平気かもしれないけど万が一を考えたわけだね。
少しだけ、場の空気が緩くなると騎士も落ち着いて報告を開始した。ボクはエレーナの近くでボク専用に作られた椅子に座って聞いているよ。
「ハッ!まず、あちらの拠点には井戸が2か所あるのですが、その内の1か所から水が汲めなくなりました。」
「地下水が尽きたということか?」
「いえ、片方の井戸は問題がありません。水源は同じですので、そうではないかと。」
ていうことは、地下水が尽きて水が無くなったってことではないんだね。つまりは別の要因が考えられると。確かに不思議だ。地中に井戸を利用不能にする魔物がいるとは聞いたことがないしな。
これでもこちらに戻ると決まってから、賢者の森に潜む魔物については調べてきたし、ゴブリンの進化個体についても調べた。魔法を使う個体なら可能かもしれないなぁ。
「ウホウホ。(魔法を使えば水脈に届く穴を塞げるよ。)」
ボクは一応、土魔法を練習しているから、井戸と水脈をつなぐ道を潰すくらいはできると分かる。ここの井戸もボクが井戸を水脈につなげたんだからね。
「そうだな。私もそう考えていた。しかし、私たちがゴブリンと交戦後、時間はほぼ経っていない。既に報告が達したということか?」
「ウホ(分からないけど、あの進化個体が生き延びたとか?)」
「ふむ。ありえなくはないが、現実的ではないな。ゴブリンに医療技術など聞いたことないし、あの出血では一時間と持たなかろう。まぁ、仕方がない。マツ、拠点の様子を見てきてくれるか?できるなら、ここの井戸と同様に水脈につなげてくれるとありがたい。」
「ウホ。」
「おぉ!ゴリ松殿はそのようなことまでできるのですか!ぜひ、よろしくお願いします。一つの井戸では足りなくなってくるはずですので。」
エレーナの支持に首肯したら騎士に感謝された。でも、今は5人しかいない拠点で井戸2つって要るのかな?
ボクの疑問が伝わったのか、騎士が説明してくれる。
「今度、人員の追加が行われる予定なのです。今までは、大した被害もなかったのですが、
近頃、賢者の森周辺の村を中心にゴブリンの襲撃が増えており、その対策として調査任務にも人員が追加されることになったのです。
形としては追加人員ですが、実情はエレーナ様の部下という形ですね。冒険者も近いうちに依頼という形で来ることになると思います。」
「ウホ。(なるほどね。)」
御父上の過保護かな?まぁ、エレーナが安全になるならそれが一番だ。
「まったく、父上は。まぁ、警戒する人員が増えるなら悪いことではない。さて、他にも何かあるのだろう?」
「ええ。他にも消耗品が無くなることや料理が明らかに減っているなど、物品の消失がありますが、これは誰かしら騎士が持って行ったりつまみ食いしたりと言ったことだと思います。」
「ふっ。まぁ、そこら辺は現場の判断によることだからな。軍機違反という訳ではないし、良いだろう。」
緩いなぁ、辺境伯軍。物資の消失なんて結構な問題だと思うけど、騎士は辺境伯家に忠誠を誓っているわけだし、不利益にならない限りは放置って方針なんだってさ。
報告を終えた騎士はこちらの拠点を辞して戻る。ボクはそれについてあちらの井戸の調子を確認しようと思う。
どうせ地中の話だし、日が落ちても関係ないのだ。なんだかんだで、こういう調査は、魔素を知覚する魔物の方が得意なのかもしれない。
「ウホウホ(それじゃ、行ってくるね。ボクが戻ってくるまでは警戒していてね?ゴブリンがこっちまで来ないとも限らないからさ。)」
「ああ、マツも頼んだぞ。」
軽く話してから騎士についてあちらの拠点へと急ぐ。さて、パパッと終わらせて戻ってこようか。
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