第84話 賢者の森2
賢者の森について二日目。ボクとエレーナは森の調査を開始した。到着してから一晩して森の中に入ったボクは以前とは雰囲気の違う賢者の森に困惑しながらも記憶をたどって奥を目指して進む。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。マツ、本当にこの道でいいのか?」
「ウホ(うん、でも、こんなに進むのが一苦労な程だったわけではないけどねぇ。)」
エレーナは肩で息をしながらボクに聞くので、首肯しつつ首を傾げる。ボクが久しぶりに訪れた賢者の森は明らかに異様だった。
「ハァ!〈ファイアーボール〉!これでは終わりが見えないぞ!」
「ウホ(そうだねぇ。ちょっと想像以上だったかも。)」
そう、ボクらは森の中を進むうちに何度もゴブリンの襲撃に遭っている。エレーナもボクもゴブリン程度に後れを取ることなどないけれど、それでも連戦するとなると疲労もたまる。早い所、脱しないとね。
ゲゲェ!
ゲッゲ!
ゲギャ!
今相手にしているのは三体のゴブリン。どれも粗末な布を腰に巻いただけの格好で、その手には削ることすらしていない木を持っている。
ゴブリンがこれだけ襲撃してくるというのもおかしな話ではあるが、一応でも武装するだけの知識を持っていることも違和感ではあるのだ。なぜなら、以前ボクがこの森にいた時のゴブリンは武器を持つ者もいたが全員が全員という訳では無かったからだ。
これは一体どういうことか。
ギャァ
ゲフゥ
ギョペ
エレーナの魔法で焼け死んだゴブリンが倒れるのに合わせて、ボクも残りの二匹のゴブリンを殴り殺す。小さい姿でも力の変わらない腕力で殴れば、耐久力なんてないゴブリンには耐えられない。
ゴブリンが全部息絶えて一息つくと、ボクとエレーナは先へと進む。目標はボクのねぐらにしていた洞窟だ。あそこなら中継拠点代わりにするのも可能だからね。
しかし、嫌な予感がするのは気のせいではないだろう。目的地に近づくにつれてゴブリンの襲撃が増えてきた気がするんだ。
既に10回以上はゴブリンを殲滅しているんだけど、その頻度が直実に増えている。
「マツ。さっきからゴブリンが来る間隔が短くなっていないか?」
エレーナも同じことを思ったのかそう言った。
「ウホウホ(そうだねぇ。ゴブリンは間違いなくこちらに気づいて襲撃しているのかな?うーん、ボクのねぐらも占領されているかもしれない。)」
「ふむ、ゴブリンは洞窟などを棲み処にすることが多いからな。しかし、マツが戻る可能性は考慮しなかったのだろうか。」
「ウホ(ゴブリンにそこまでの知恵はないよ。)」
ゴブリンは考えて動かない。もちろん、恐怖や興味は生物だから感じるわけだけど、基本的に本能で動くんだ。
ねぐらにボクのにおいでも残っているのであれば、住み着かれることはなかったかもしれないが、時間が経ちすぎてそうも言えないだろうね。
ボクの中ではゴブリンがねぐらに住み着いているということは確定なわけだから、エレーナにも共有したのだ。彼女なら問題ないだろうが、一応の措置だ。
「まぁいい。つまりマツはこれから向かう場所には、これまでやってきたゴブリンの拠点があると考えているんだな?また、そこにはまだまだゴブリンが大勢いると。」
「ウホウホ(うん。間違いないと思う。まだ匂いや音は感じないけど、あそこなら水場が近いし拠点にするにはもってこいなんだよ。)」
「ふぅ。気を引き締めなくてはな。ただのゴブリンと言えど魔物であることには変わりない。」
「ウホ。」
「ほら、またゴブリンが来たぞ。今度は四体だ。」
ぼく達がまた進み始めるとすぐにゴブリンがやって来る。どうやら本丸までは襲撃を切り抜け続けなければならないみたいだよ。
***
ゴブリンとの戦闘は20回以上を数えて沈黙した。考えられるのはゴブリンがいなくなった、もしくは何らかの理由でゴブリンを送り込むのをやめたか、だ。
もし前者だったら、これで終わりと喜べるところだが、後者であれば危険かもしれない。
もし、理由をもってゴブリンが送り込まれなくなったとすれば、それは上位者の存在を示唆する。あまり知恵が回らないゴブリンが頭を使っているということだからな。
これは学園の魔物学の受け売りになるけれど、魔物は進化すると単純に強化されることもあるが、もはや別物と言ってもいいくらいに成長するものもいるらしい。
要は、ゴブリンも場合によっては犬以下の知能から一気に飛躍して、人と同等まで知能が発達する可能性があるということだ。
「ウホウホ(エレーナ、これは嵐の前の静けさだと思うかい?)」
「ん?それがどういう意味か分からないが、何かの前触れだというのであれば、同じ意見だな。きっと、上位者がゴブリンを送り出す方針から待ち受ける方針に代わったんだと思う。」
エレーナもボクと同じ意見らしい。まぁ、普通に考えればそうだよね。一応、エリックたちが来るまでに原因が解決できてしまったら申し訳ないかと思ったけれど、早くに解決するならそれに越したことはないでしょ。
「ウホ。」
「ああ。分かっている。」
そうして再び先を急ぎ、ボクのねぐらを目指す。到着した洞窟の外には案の定、複数の気配がこちらを警戒するように立っており、さらに奥の方には一つ大きい気配を感じる。
その気配はボクや熊には遠く及ばないまでも、ゴブリンやそれを狩っていたオークよりも上で、この森でも半分よりは上に位置するだろう強さだと分かる。
「ウホウホ(きっと、ゴブリンのボスだよ。ボクが森にいた時には会ったことはないけれど、そこそこ強い。気を付けよう。)」
「ああ。きっと進化した個体だな。まずは洞窟の前にいるゴブリンから倒すとしようか。1…2…3…8体か。良し、出来るだけ私が魔法で仕留める。倒せなかったのをマツが倒してくれ。」
「ウホ(了解。)」
僕らの方針は決まった。そしてすぐにエレーナが動き出す。
「行くぞ。〈ライトアロー〉〈ブースト・インクリーズ〉」
ゲッ
ゲヘァ
ゲピュッ
グヘッ
ゲーッ
ゲゲッ!?
グギャァ!?
ゲッゲ!
エレーナが魔法と技能を発動させる。エレーナの手から射出された光の矢は5つに分裂してゴブリンへと飛来する。
エレーナは火魔法と光魔法とは別に魔力増大の技能を持っている。その技能のたった3つのできることの一つが〈ブースト・インクリーズ〉だ。これは魔力を余計に消費することで対象の魔法を2~5倍に数を増やすことが出来る。
まぁ、何はともあれ、今の魔法で五体のゴブリンは死んだ。そして残り三体はボクの役目だ。
近づいて殴り倒す。驚愕して動かなかった二体は腕の二振りで体を爆散させて消え去った。しかし、いったいだけが冷静だったのか即座に体を翻して洞窟の中へと戻ろうとしている。
「ウホウホ!ウホぅ!(逃がさないよ!フンッ!)」
でもね。僕だって成長しているんだ。ベルーガ先生には教えてもらえていないけれど、僕なりに練習はしているし、エレーナにもアドバイスを貰ったりしている。
ボクは地面にたたきつけた拳から魔素を掴んで魔法に昇華させる。そして発動させたのは人間が使うところの、〈アースジャベリン〉だ。まぁ、まだ不完全だけどね。
ボクの魔法はゴブリンの足元で発動して地面から土の槍をはやす。本来の魔法ならそのまま射出されるのだけど、ボクにはまだ無理だった。
とはいえ、ゴブリンを殺すには十分な威力を持っていたので、問題はない。
「ウホぃ」
「やったな!さて、あとは中にいる奴だな。」
ボクが成功してホッとしているとエレーナが後ろからボクを抱きかかえた。持ち上げられはしなかったけれど、まだ敵がいる現状ではやめた方が良いと思ったんだろうね。
「ウホ(うん。向こうもこちらに気づいて出てくるよ。)」
動き出していたそいつを警戒しながら伝えると、洞窟の中からソレの足音が聞こえてくる。
そして、ソレは口を開く。
「ンア?オデノ部下ガ死ンデル?オマエラ許サナイ!」
片言ながらも言葉を話したことに衝撃を受けたが、すぐに立て直す。なぜなら、ソレは即座にこちらに駆け寄ると手に持っていたこん棒を振り上げていたからだ。
咄嗟にエレーナを庇ってそのこん棒を受け止めて掴んだ。別に痛くなかったけれど、意外に素早い奴で驚いたね。
「マツ!大丈夫か。きっと進化個体だぞ!」
「ウホ(そうだね!ボスかも!それより構えて!来るよ!)」
ボクはエレーナを促して気合を入れる。
「オデノ部下。王ヨリ賜リシ部下。ヨクモ、ヨクモォオオ!!」
そのゴブリンは気になる一言を口にして襲い掛かってきた。
話を聞きたいけれど、無力化できるかな?
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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