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第82話 再びの賢者の森へ―道中—


***

 

グラディスバルト領の領都グランディスに戻ってきた翌日、僕らは今、賢者の森に向けてゆっくりと進んでいた。


朝は起きて朝食を食べた後、ミーシャや使用人たちにお土産を渡した。全員にいきわたったし、不備はなかったのだけど、僕らがまた出て行くことを聞いたミーシャが、かなり駄々をこねて、自分も行きたいと言ったことにはさすがにまいったね。

連れて行っても大丈夫だとは思うけれど、その場合、エレーナはミーシャの護衛としてずっとくっついていないといけない。それはモンストル先生が来るのなら良くはないかもしれない。突然手伝えって言われるかもしれないしね。


ということで、使用人とグラディスバルト家の総力をもって説得して何とか落ち着いてもらえた。その代わり、帰ってきたら遊びに行く約束をしたけど。


「ウホ(エレーナ?つらくはないかい?)」


「ああ、大丈夫だ!」


エレーナが僕の後ろの方から叫ぶ。今彼女は僕が牽いている荷車?荷馬車?にしがみついている。


元々の計画では、ボクが元のサイズに戻って彼女を乗せていくつもりだったのだけど、御父上がそれだとつらかろうとこれを貸してくれたんだ。

なんかいろいろ説明されたんだけど、よく覚えていないや。なんか、魔物素材がどーとか、トレント材が補強されてーとか言われたけど、丈夫なら何でもいいからね。


そんなわけでボクらは今、賢者の森に向かって爆走中だ。昨日の報告の後に御父上が兵士なんかに周知させてくれたらしく、止められることはない。

歩いている冒険者たちには何か恐ろしいものを見たような視線を感じるけど、まぁ、小さい体のボクが牽いているわけだし、仕方がないよね。


途中で武器を抜こうとした冒険者もいたけど、ボクが慌てて掌の従魔の証を見せると思いとどまってくれた。まぁ、効果がない場合もあったけど。その場合は止まってエレーナが説明するまでもなく、ボクが文字を使って自己弁護をした。それで大体は何とかなったんだよね。


なんでこんな話をしたかというと、何とかならない場合が出てきてしまったからなんだよ。ボクは正直面倒だし、放って置いて行きたいけど、そうもいかなさそうだから。

こんなやり取りがあったんだよ。


「おい!猿!お前!その女の子をどうするつもりだ!」


〔いや、どうも何も、これから一緒に賢者の森に行こうかなって。〕


「文字を使えるのか?!高階位の魔物かもしれない!みんな気をつけろ!」


そう言って、冒険者グループが武器を構えたんだよ。4人のグループで、男ばかり。エレーナをボクが攫ったとでも思ったのかな?

ボクは慌てて従魔の証を見せる。しかし、これも意味がなかった。


「あん?なんだそれは!いたずら書きか?」


知らない人もいるよね。失念してたよ。そもそもグラディスバルト領ではあまり従魔は一般的じゃないんだっけ。

エレーナは今はぐっすり夢の中。これまで問題なかったから、耳栓までして万全の態勢で寝ている。起きる気配もないし、この程度で起こすつもりもない。


〔だからぁ。ボクはこの子の従魔なの!わかんないかなぁ!〕


「なんだそれ!この子のなんだ!知らない単語だぞ!」


まさかの文字を知らないパターン。従魔が一般的ではない裏付けが取れた気分だよ。全員知らないんだもん。


さて、どうしたもんかな。


ボクが悩んでいるうちに冒険者グループは業を煮やしたのかボクに斬りかかる。いや、それは悪手でしょ。だって、君らの立場からしたら、ボクはエレーナという人質がいるんだよ?攫う知能があるなら人質を取るくらいできるでしょ、普通。


ボクはその剣を荷馬車の持ち手で受ける。頑丈だというだけあって彼ら武器では傷すらつかない。


「クソッ!なんだそれは!とんでもなく固いぞ!それなら魔法でッ!!《エアカッター》!」


彼らの武器は剣が二人、槍一人、弓一人だったので、魔法について警戒し忘れていた。最初から喋っている剣の奴の魔法が飛んでくる。風魔法の技能持ちか。


風の刃はボクが腕をクロスさせて受け止める。確信はなかったけど、身体強化をすれば何とかなりそうだと思ったのだ。


「ウホ(ちょっと痛いけど、掠り傷以下だ。)」


「なんだ?!魔法も効かない?!」


驚いているけど、どうやらこれでここは終わりそうだ。さすがに魔法が使われたら気づくさ。彼女は魔導士だもの。


「これはいったい何の騒ぎだ!」


「「「「え???」」」」


降りてきたエレーナに驚いたのは冒険者だけ。彼らはエレーナと同じくらいの年齢だけど、落ち着きが違うね。


「君たちは私の従魔にどうして攻撃をしているんだ?」


「俺たちは、あなたを助けようとして・・・。」


剣の男が代表してこたえる。でも、それは理由にならないよ。


「なぜだ?私はそんなこと頼んでいないし、そもそもマツは従魔としての仕事をしてくれているだけだ。攻撃されるいわれはない。」


「でも、あんたを攫っていたんじゃ・・・?」


「バカなことを言うな!常識的に考えてあり得ないだろう!そうだったらここまでに他の冒険者が追いかけているはずだ!誰もいない時点で気づかなかったのか?」


「「「「あ・・・。」」」」


彼らは気づいていなかったみたいだけど、当然普通は気づくことだ。ボクはこれまでも冒険者とすれ違っているし、ここまで来れていることが問題がなかったことの証明でもあるのだ。


「気づいたようだな。そうだ。この場合は罰せられるとしたら君たちだろう!マツは何も悪いことをしていないからな!」


エレーナがびしっと指を立ててそう宣言すると次の言葉で冒険者たちは固まった。


「それにマツは辺境伯の支持を受けて活動しているのだ!君らが邪魔をしていい存在じゃない!この家紋を見ろ!」


エレーナはグラディスバルトの家紋を指した。冒険者たちはそれでどういう事態だったのか気づいたのか、すぐに手を地面について頭を下げる。所謂、土下座という奴だ。この世界にもあるんだね。


「「「「す、すいませんでした!!」」」」


何に対して謝っているかわからない、とか意地悪なことは言わないで上げる。現に彼らはエレーナの方を向いて頭を下げているので、彼女は不機嫌になってきた。


「ウホ(エレーナはボクのご主人様なんだから、これで良いんだよ。受け取ってあげな。)」


「むぅ。マツが言うのなら仕方がないな。・・・不本意だが、謝罪を受け入れる。この状況になった経緯は分からぬが、君たちはもう少し勉強するべきだ。文字や社会情勢が分かれば冒険者としても役立つだろうからな。」


「「「「は、はい!」」」」


冒険者たちは先ほどの威勢はどこへやら。エレーナの言葉を何度も心の内で反芻しているようだ。

今後は似たことが起こるかもしれないけど、次はもう一度叩きのめしてからでいいかな。冒険者は荒っぽいし、骨折程度なら治す手段はいくらでもあるから怒られないでしょ。


「それではこれで私は失礼する。君らも賢者の森に行くようだし、気を付けるんだな。マツ。」


「ウホ(了解。出発するよ~。)」


エレーナに合図を貰ったので、ボクは歩みを開始する。賢者の森まではもう少しかかるし、もう一度寝てもらってもいいのだけど、もうそうは行かないかな。残念。


「あんなことが起こらないように今度は起きているよ。」


「ウホ(そうそう怒らないけどねぇ。)」


ボクは先ほどの少し物知らずな冒険者を思い出しながら、あんなのがたくさんいるとは思えないと首を振る。

そして足をさらに速く回転させて先を急ぐんだ。これからボクは生まれ故郷?に帰る。自分のねぐらもあることだし、ちょっと楽しみなんだ。














拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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