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第81話 報告


御父上の執務室に到着すると、エレーナは少し大きめの音でノックをする。まぁ、今は夜だし寝ていた場合を考えてってことかな。


コンコン

「エレーナです。」


「うん、入っていいよ。」


「失礼します。」

「ウホ。」


エレーナについてボクも執務室の中へと入る。メイドの女性とはここでお別れだ。彼女は御父上に報告することはないからね。


「エレーナ。それで?相談って何のことかな?」


「ええ。ただ、まずは改めまして娘として一言。私、エレーナ=グラディスバルト。ただいま戻りました。」


「あ、そっか。そうだね。うん、お帰り。長期の休みだし、ゆっくりしておくれ。俺も仕事はさっさと片付けて家族との時間を作るからさ。」


御父上はエレーナににこりと笑ってそう言ったけど、エレーナの顔は少し曇る。ボクはその理由が分かるけど、御父上は首を傾げるばかりだ。


「あれ?どうしたのかな?エレーナ、俺は何かおかしなことを言っただろうか?」


「いえ、そのお気持ちはうれしく思うのですが、今回の長期休暇ではゆっくりと過ごすのは難しいかもしれません。」


「うん?どうしてだい?学園の4年生は年末課題なんてなかっただろ?あっても従魔を作ることが出来なかった学生が補修を受けねばならないくらいのはず。」


御父上も学園を卒業しているだけあってそこら辺の事情は知っているらしい。実際課題はないしね。


「それが、学園とは関係ないことで忙しくなりそうなのです。相談の件とも共通するのですが、賢者の森に行かねばならないのです。」


「賢者の森?ゴリ松くんの里帰りでもするのかい?あ、ごり松くん、その服に合ってるよ。」


「ウホ。」


唐突にボクに話しかけてきた御父上にボクは軽く相槌を打つだけで止めるとエレーナが話を戻す。


「里帰りではなく、少々問題がおきまして、父上もお気づきなのではないですか?ゴブリンの件です。」


「ゴブリンだって?・・・・・・増殖の件か。」


「ええ。」


やはり御父上もすぐに思い当たるくらいには頭の中にあるらしいゴブリンの増殖問題。ボクがいなくなってから増えたというそれは領主の耳に届くレベルの問題なんだから、それなりに大きな問題だ。


「あれはすでに領主軍からいくらか派遣して町や村に被害が出ないように抑えている。冒険者にも討伐依頼をいつもより報酬を増して出しているし、問題ないはずだ。エレーナにも伝えるようにイグラスには言ったけど、気にする必要はない。一応、関係あるゴリ松くんを従魔にした、というだけのことだからね。」


「いえ、私もこの件は参加すべきでしょう。それに戦力という意味ではいくらいても足りない。私が王都の冒険者ギルドで聞いた話では、明らかに関係している程度の話ではなく、マツが直接の原因だと言われましたよ。」


エレーナは御父上の話を聞いて明らかに気を使っていることに気づいて指摘する。あ、イグラスっていうのは王都の冒険者ギルドの副マスターだ。彼は辺境伯とも直接話せる立場らしい。

どういう関係だろうね。グラディスバルトのスパイだったりして。んな訳ないか。


「イグラスの奴。・・・はぁ、仕方ない。分かった。それで?君は何がしたいんだ?」


「はい。私たちはこの件の収束を目指して賢者の森でしばらく活動するつもりです。主な活動内容としては、マツがいた辺りを再び縄張りにすることで森の外への防波堤代わりにし、周辺の調査拠点としたいと思っております。」


「なるほど?でも、調査って何をするんだい?うちの騎士に調査はさせているけど成果はないんだよね。」


御父上も人を使ってあの森の調査はしているらしい。あそこは意外に広いので数人程度じゃ回り切れないと思うけど、どれくらい人を出しているのかな?


〔どれくらい人数を送り込んでいるの?〕


「えっと?人数かい?騎士を5人だね。一人ずつ斥候が得意な冒険者をつけているから合計で10人だよ。」


人数を聞いてボクは納得する。それじゃだめだ。


〔それじゃ、足りないよ。あの森は知られていないのかもしれないけど、ずいぶん広いし、成長力が強いんだ。それだけじゃ、一度調べたところが変化してしまって、堂々巡りになっちゃうよ。〕


「なんだって?それじゃ、報告書が来ても要領を得ないのはそう言うことなのか。しかし、今のところ、森から出てくるゴブリンの駆除に人員を割いているし、限界なんだよ。」


どうやら思った以上にゴブリンは森の外に出現しているのかもしれない。元々、森の外にもゴブリンいるけど、さらに増えているんだろう。


「では!やはり私たちが出るしかないでしょう。あの森出身のマツであれば、騎士よりも動ける。それにもう一組、来てくれるそうです。」


「え?もう一組?この際、エレーナたちが森に行くのは良いよ。ゴリ松くんが森に詳しいのは理解できるからね。でも、だれが来るのかな?」


ここで、相談事のメイン、王都から来る人員のことを伝えるらしい。まぁ、専門家ではあるし、許可は出るでしょ。」


「ええ。これは事後承諾になってしまって申し訳ないのですが、学園でも教鞭をとっている魔物学者の先生が賢者の森の調査を引き受けてくださいました。」


言い方が違うだけですごい人が来るように思えてくるから不思議だ。ボクから言わせてもらえば、彼らは「魔物のことに興味津々な魔物馬鹿と魔物なのに他の魔物が知りたい馬鹿魔物」だ。決して悪口のつもりではないが、素直な感想だ。


「うん、それは誰だい?」


「モンストル男爵です。父上もご存じでしょう?」


「え?テス君かい?そう言えば彼は魔物の研究で爵位を得て独立したんだったね。そうか。若いのに学園で教鞭をとってるんだ。でも、忙しくないのかい?」


「そこは了承してくれたので大丈夫でしょう。マツが言うには彼の従魔も賢者の森に興味が惹かれたようで、男爵の説得をしてくれたらしいです。」


彼らが来るって話もボクがエリックに話した結果だから、これは間違いではない。実際は説得より決定事項としての報告だった気もするけど、まぁ、微差だ。


「そうかぁ。あのテス君がねぇ。彼の父親は典型的な守銭奴貴族だけど、彼は繊細だったしどうなるかと思っていたんだ。やりたいことを見つけられたようで何より。そっか。彼なら信用できる。」


〔御父上は先生と交流があるの?〕


気になったので聞いてみた。モンストル先生というよりはその親、ペニー侯爵のことを知っているっぽいな。


「うん、ペニー侯爵は我がグラディスバルトと領地を接するし、昔からいろいろとね。やれ『魔物がこっちから来たから賠償しろ』とか、『水がないのはこっちの畑が吸い取っているからだ』とかさ。」


「聞いていた以上の難癖ですね。しかし、反面教師としたとは聞いていましたし、おかしいとは思いません。」


「彼も苦労したと思うよ。でもそうか。久しぶりに会えるかな?」


〔あの二人は賢者の森に直行すると思うけど。〕


「そうか。そうなんだ。」


御父上には残念だけど、彼らは個々には寄らないでしょうね。この件はエレーナが彼らに話を振ったと解釈できるし、わざわざ挨拶に来いとは言えない話だ。

つまり、自分がしたいようにするだろうってことだね。


「とにかく、相談というか、今したいのは、私たちが調査をすることの許可をいただきたいということです。」


「うーん、そうだね。まぁ、ゴブリン程度じゃ、君には脅威にはならないでしょう。分かった。許可するよ。」


「ありがとうございます!」

「ウホ!」


ボクとエレーナはそろって頭を下げる。


「では報告は終了です。あと、土産は私の荷物に入っていますので、適当に取ってください。ミーシャと使用人たちには私が渡しておきますので。」


「あ、うん。」


若干、御父上の扱いが悪い気がするが、まぁ父と娘ならこんなものかな?

さて、今日の所はこれで終わりにして寝ていいんだろうか。二人ともぐっすりと寝たけど、夜は寝るものだし。


「それでは父上、失礼します。明日、やるべきことが終わり次第、準備をして賢者の森に出発します。すぐには帰りませんので。」


〔おやすみなさい。〕


ボクとエレーナは御父上の返答を待たずに執務室を出る。そして外にいたメイドに土産のことを伝えて配っておいてもらう。直接と入ってないしね。ミーシャには直接渡すみたいだけど。


「さて、寝ようか。明日からは忙しくなるぞ?」


「ウホ(うん。そうだね。先生たちが来る準備もしなくちゃ。)」



はぁ、本当に忙しい日々が来そうだねぇ。









拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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実は新連載始めました。

辺境の呪術師〜不滅の呪術師は呪われない〜

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楽しく書けたのでよろしくお願いします。

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