第80話 帰郷2
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「む、むぅ・・・あれ?もう着いたのか?」
エレーナが馬車の揺れの変化に気が付いたのか目を覚ました。既に領都グランディスに入ったことで、振動が減った。それも舗装された道に入ったからだね。
グランディスはかなり整備された都市で、これまでの辺境伯がどれほどの労力をかけていたのかが分かる仕上がりだ。
「おはようございます、エレーナお嬢様。既にグランディスに入っておりますので、数十分もすればお屋敷に到着します。」
「そうか。君もお疲れ様。」
エレーナは御者さんを労うと、一度うーんと伸びをして席に座りなおす。ボクも真似をして伸びをして立ち上がった。
「ウホ(エレーナの一族は町を作るのにかなりの時間とお金をかけたんだね。)」
「え?ああ。よく分かったな。」
「ウホ(そりゃわかるさ。良い馬車とはいえ、これだけ振動が小さいというのはそれだけ道が西部されているということだもの。)」
サスペンションなんてものの無いこの世界で、馬車の振動を少しでも抑えるにはできることは少ない。
そして一番確実なのは道を整備することだ。これなら一度全部やってしまえばそれ以降は細かい整備だけで済むしね。
エレーナに聞いた話だと、揺れを無くすために魔法使いを雇って、風魔法で馬車自体を浮かべるということをする貴族もいるんだってさ。
「フフフ、我が領地のことを褒められると嬉しいよ。そろそろ到着するな。まずは父上に挨拶をするんだぞ?分かっているか、マツ?」
「ウホ(もちろん!)」
ボクは胸をドンと叩いて胸を張る。
「お嬢様、ゴリ松様。お待たせいたしました。お屋敷に到着いたしました。」
御者さんの声と共に馬車が止まる。どうやら到着したらしい。御者さんが回り込んで馬車のドアを開ける。
先にエレーナがおりて、それに続いてボクも馬車を降りる。すると目の前には懐かしい面々が、————いなかった。
「ウホ(だれもいない。)」
「当たり前だろ。今はすでに深夜だ。遠回りした分だけいつもよりも時間がかかったからな。これでも急いだほうなんだ。御者をしてくれてありがとうな。お疲れ様。」
エレーナがボクに冷静にツッコんで、御者をしてくれた執事見習いの青年に礼を言う。ボクもそれに倣って頭を下げる。
「いえ。では荷物をお運びしますね。」
「ウホ(エレーナ。荷物運びはボクがやるよ。彼には帰ってもらおう。家族が待ってるはずだから。)」
「そうだな。君、今日はもう帰りなさい。マツが家族が待ってるぞってさ。」
エレーナが青年にそう言ったことを聞いてから、ボクは彼が持ち上げた荷物を受け取る。彼も最初は戸惑っていたけれど、半分納得してくれた。
「分かりました。本日はお言葉に甘えさせていただきます。と言っても父も母もお屋敷で働いていますので、荷物は運ばせてもらいます。一緒に運びましょう?」
「ウホ。」
そう言うことならと、ボクは半分荷物を返す。その代わり馬車の中の荷物をさらに持つ。どうせ何往復かしなくてはならないのだから、手分けした方が早い。
「それじゃ、中に入ろうか。」
エレーナの号令でぼく達も屋敷の中へと入る。そしてドアを開けて中へと入ると、そこには彼がいた。
「おかえり~!!いやぁ、久しぶりだねぇ。待ってたよぉ~。」
もちろん御父上である。彼はエレーナを見つけると飛びついてくる。前であればそれを受け止めることのなかったエレーナも久しぶりとあってか回避することなく受け止めていた。
気配で彼がドアの向こうにいることは分かっていたけれど、ここで邪魔をするほど無粋ではないので、少し離れたところで待機する。執事見習いの青年も同様だ。
「父上。ただいま戻りました。みんな元気ですか?土産も買ってきましたので、後ほど配りますね。あ、もう一つ。早急に相談したいことがあります。これから執務室で大丈夫ですか?」
エレーナはしゃべっているうちに話さなくてはならないことを思い出したのか、執務室での面会を辺境伯である御父上に要請する。
その真剣になった表情を見て御父上も表情を引き締めた。エレーナを開放してからそれに応じる。
「ふむ、どうやら後回しにしない方が良いのかな?分かった。それじゃ、着替えたら来なさい。私は今日の仕事は終えているからね。」
「分かりました。」
エレーナと御父上はそう言って一度別れる。御父上は執務室へ、エレーナは自分の部屋へ向かうようだ。ボクと青年はエレーナについて行く。そして部屋に着いたところで青年が退出した。
「ではお嬢様。私はここで。馬車は片づけておきますので、失礼します。」
「ああ。ありがとう。お休み。」
エレーナが彼を送ると、ボクも彼に手を振る。なんだかんだで使用人とは仲良くなった人が少ないので、今後は少しずつ交流できると良いなぁ。
「さて、私が着替えたら執務室へといこう。マツはその恰好で良いか?」
「ウホ。」
ボクは首肯する。僕の格好は熊の皮で作ったオーバーオールだ。これはボクの一張羅だし、特に着替えもない。どうせ従魔だし失礼にもならないでしょ。
「失礼します。エレーナ様。お着替えを手伝いに参りました。」
エレーナが着替え始めたところで、メイドの女性がノックをしてはいって来る。どうも、青年が声をかけたみたいだ。
「ああ。頼むよ。」
エレーナが了承したことでメイドの女性は動き出す。彼女が用意したのは普段のエレーナの服装とはかけ離れたドレスだ。彼女は身長も女性にしては高いので、何でも似合うと思うが、女性らしいドレスというのはなかなかに新鮮だ。いつも軍服みたいなのばかりだったしね。
「久しぶりにドレスにそでを通すよ。」
「お嬢様はおきれいなんですから、いつまでも男装ばかりでは困りますよ。屋敷にいる間はこういった服装も用意させていただきますからねっと、出来ました。」
「うぅむ、仕方がない。ふぅ、ありがとう。それではマツ、父上の執務室へと向かうとしよう。」
「ウホ。(分かった。ボクは君はどんな格好も似あうと思うよ。)」
エレーナとしてはドレスはあまり好まないみたいだけど、観念したみたい。ボクは彼女をフォローしながらついていく。
さて、報告ッ報告ッと!
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