第79話 帰郷
自分と同じ魔物の剥製を見た帰り、ボクはふと思った。ゴールドバックって現存する個体が他にいるのだろうか、と。
ボクは自分以外のゴールドバックを知らない。それは別におかしいことではないのだけど、これだけ広い世界に、剥製以外に生息地が不明ってなかなかありえないことだと思う。
もちろん賢者の森はしっかりと管理されている場所がある反面、奥の方はほとんど調査の手が入っていないらしい。
というのも、どうやら、ボクが倒した熊や未知の魔物がいることで調査隊を送れないという事情があるらしい。
「ウホウホ(ねぇ、エレーナ。賢者の森の奥の方にいるという魔物がゴブリンを率いている可能性はないかな?)」
エレーナはボクの質問に疑問符を浮かべるが、少し考えただけで何が言いたいのかを理解したみたいだ。
「なるほど。賢者の森の奥には知られていない部分も多い。つまりはそこにいたゴブリンを統率できるくらいの知能を持った魔物がいたということだな?
確かに急速にゴブリンが増えたと冒険者ギルドでは聞いたが、そうなると自然とリーダーとなる個体が生まれて当然だ。
しかし、ゴブリンが進化して統率個体に至ったと考えるよりは、別の場所から統率個体が来たと考えた方がつじつまが合う。」
そうなのだ。冒険者ギルドで副マスターに言われたゴブリンの増殖はボクがオークを狩りつくしたことに理由があるのは分かるのだけど、それだけ増えていればまとまりが無くなるはずだ。
それなのにあれから冒険者ギルドや領地からの連絡で、「ゴブリンが森を出てきた」なんて報告は受けていない。
「ふむ、この可能性については父上に言うべきだろう。今日帰ったらすぐにでも時間を設けてもらう。」
「ウホ(それが良いよ。帰ったらすぐに森に向かうのかい?)」
「いや、モンストル先生が来るのだろう?それを待つつもりだ。戦力はいくらあっても困らない。」
エレーナの中ではすでに彼らは戦力の一部として組み込まれることが決定しているらしい。ボクとしては学者肌の彼らはそう言う団体行動には向いていないと思うんだけどね。
ま、エレーナなら、そんな彼らも統率できるだろうさ。ボクもついているしね。
「さて、そろそろ帰らないとな。これから領地に戻ればしばらくはゆっくりできる。やることはたくさんあるが。」
「ウホ。」
ボクたちは領地に帰ったら何をするかを話しながら屋敷へと帰る。ボクたちは今、手をつないでいるのだけど、こういうゆったりしたのもいいね。
***
「それではお嬢様、領地に戻りましたらこちらを旦那様にお渡しください。こちらの屋敷での報告事項及びミシェリアお嬢様の入学準備の資料が入っております。」
「ああ。ありがとう。そうか。もうすぐミーシャも入学か。」
「はい。それと、ゴリ松様。エレーナお嬢様をよろしくお願いします。しっかりされておりますが、少々だらしない部分もございますので。」
〔うん。任せてよ。エレーナはボクのご主人様だからね。〕
「な?!私はいつだってしっかりしているぞ!そうだよな?マツ?な?」
王都邸の執事はエレーナを心配するあまりに少々過保護だ。でもそれだけ愛されているということだから、エレーナも口ではそんなことを言いつつも嬉しそうだ。
「ウホ(ホラ、そろそろ行くよ。エレーナも馬車に乗って。)」
「むぅ。分かった。ではみんな私は先に戻る。みんなもまたな。」
「「「はい、お嬢様。」」」
エレーナの見送りには屋敷のみんなが出てきてくれている。グラディスバルトでは、エレーナが領地に戻るときにはみんな戻るらしい。屋敷を完全に空にすることはできないのだが、それでもほとんどが領地に戻ってくるんだって。交代で居残りを担うらしいよ。
「では、頼んだ。」
エレーナの声で御者が馬車を進める。どうやら今回はいそぎでもないので、面倒な領地は避けて通るらしい。つまり、モンストル先生の実家、ペニー侯爵領は迂回して、別の領地を通らせてもらうんだって。
「従魔を得る前は、二日間の休みでどうにか往復しなくてはならなかったからな。致し方なかったが、今後はその必要はない。そもそも必要に駆られねばあそこは通りたくはない。不快だからな。」
エレーナは本当に嫌そうな顔をする。まぁ、ボクも同じ気持ちだけどね。モンストル先生には悪いけど、あの関所の貴族の態度を見るに、なかなか上も腐っていると見える。そんなの関わりたくはない。
「いやなことは考えなくていいだろう。さて、領地までは本でも読んでいようか。」
「ウホ(それじゃ僕は文字の勉強の続きをしようかな。)」
馬車の度は順調に進む。
****
馬車に揺られるとその揺れが気持ちいいのか気づいた時にはボクは夢の中だった。気付いた時にはすでに辺りは暗く、近くではエレーナが小さく寝息を立てていた。
「ゴリ松様。起きられましたか。もうすぐグランディスに到着いたします。少しの間ご辛抱ください。」
「ウホ。」
ボクが起きたことに気が付いた御者さんは小さな声でそう言った。エレーナを起こさないための配慮だ。
ちなみに、御者は領地から学園まで向かった時とは別の方だ。今回の彼は執事見習いで、王都邸の執事の孫にあたる。これも修行の内と送り出されたらしい。
彼はボクとエレーナと談笑しながらも馬車を操ることが出来るくらいには優秀で、これまでも何度かお世話になった。
王都の狭い路地でも馬車を傷つけることなく通り抜けるのだからその技術は拍手ものだ。
そうして数分後、馬車が止まると外にいたものが話しかけてくる。御者さんがそれに応対すると、馬車を改めるための人がドアを開ける。
「では、中を改めさせてもらいますぞ。領主様の御息女とはいえ、特別扱いはできませぬからな。」
グランディスの衛兵はなかなかに優秀なんだね。自分たちの領主の家紋がある馬車でもしっかりと確認するほどに職務に忠実なんだから。
ボクはそんな彼を馬車の中で待ち受けた。
ガチャリ
「うわっ!ってなんだ。ゴリ松殿か。驚かせないでくれ。お嬢様は寝てらっしゃるのか。ふむ、おかしなものなどはないですな。では、お帰りなさいませ。」
衛兵はボクの姿を見て驚いたけど、あまり大きな声を出さないように配慮してくれたみたい。御者からエレーナが寝ていたのを聞いたのかもしれない。
この衛兵たちは主に馬車に異物が紛れ込んでいないか、危険物が仕掛けられていないかを見ているらしい。まぁ、跡継ぎだし、警戒はし過ぎることはないってことかもね。
さて、それじゃ、お屋敷に戻ろうか。
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