第78話 ゴールドバック・・・の剥製
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店長がクッキーを取りに行くと言ってから数分、ボクらは近くにあるお土産を眺めて待っていた。中には木製の剣があって、だれが買うんだと思ったけれど、京都の木刀と似たようなもので、お上りさんがテンション上がって買ってしまうんだろう。
ただ、エレーナは嬉々としてその木製剣を見て嬉しそうにしていたのはボクだけの秘密にしておこう。エレーナは魔導士なのに剣も練習しているからね。
待っている間も気になったお菓子なんかは購入していく。これらは馬車の中で食べるつもりみたいで、お土産とは別の袋に包んでもらっている。ボクもいくつかお願いしたけれど、熊の素材を売ったお金で懐が温かいから遠慮なく言えた。
そうして待っていると店長が布をかぶせた何かをもって現れた。
「いやはや、お待たせいたしました。一応、こちらの品は厳重に保管しておりまして、手間取ってしまいました。」
「いや、気にするな。見て回るのも面白かったし、色々と買えた。」
「それはようございました。ではこちらのご紹介をさせていただいても?」
「もちろんだ。」
店長はエレーナが許可すると持ってきたそれを見せて説明を始めた。
「こちらはクッキーではあるのですが、そのモチーフとなっている者が王都の名物となっております。」
そう言って持っていたそれにかぶせた布を取り去る。出てきたそれはクッキーではあったのだが、なんだか金キラだ。
なんだこれと思いながらも見ていると、何となくどこかで見たことがあるような気がしてきた。
うーん、なんだっけ。
分からないまま店長の説明を聞くと、途端に恥ずかしさがこみあげてくる。エレーナも驚きに固まっているようだ。
「こちらは何と!王都博物館にて展示されております魔物、ゴールドバックの形を模したクッキーとなっております。金箔をあしらったことでお値段が高くなっておりますが、貴族の方への土産として人気を博しております。
こちらを購入できるのは、うちの店と博物館だけになっております!ぜひともご購入いただきたいとお持ちしました。」
なんてことだ。まさかのゴールドバック!いや、どこかで見たことあるなとは思ったけどさ。実際のゴールドバックって全身金色じゃないんだけど、博物館のは違うのかな?
「ウホ(エレーナ、博物館の展示は全身金ぴかなの?)」
「いや、そんなことないぞ。まぁ、高級感の演出の一環なんだろうな。そうだ、これで用事も終わるし、領地に帰る前に博物館を見に行くか?」
「ウホ!」
やっぱりこれはやり過ぎのようだ。でもそのおかげで本物を見れそうだし、良かったね。
こうしてボクらのこの後の予定が決まった。店長にお礼を言ってその場を去ることにした。もちろん購入した物はボクの魔法鞄の中だし、ゴールドバックのクッキーは買わなかった。
***
王都の博物館はなかなかに広い建物のようだ。中に入るにはチケットを購入する必要があるのだが、これに関してはすでにエレーナが持っていた。何で持っているかというと、ボクがゴールドバックであると学園に報告した際にもらったんだそうだ。
剥製にされて展示されているゴールドバックを見せてやると良いってね。そう言えば前に行くか聞かれたけど、別に興味はなかったから行かないって言ったっけ。
チケットを求めるお客さんの長蛇の列をスルーして入り口から中へと入る。中にはいろんな魔物の骨や剥製、それをもとにして作られた武器等が展示されており、他には魔法などの資料が展示されていた。
「ウホ~」
思わず感嘆の声が漏れるが、お目当ては入り口付近にあるそれではなくて、もっと奥の方にあるであろうただ一つの剥製だけだ。
「ほら、はぐれると良くないから手をつなごう。」
「ウホ」
ボクは素直に手をつないでエレーナと一緒に歩く。中は多くの人がいろんな展示を見ており、その中には一目で魔法使いであることが分かる格好の人が展示にかじりつくようにしている光景もあった。
展示物には触れないようになっているため、魔法の資料を必死に読んでいるんだろうねぇ。
「あちらが一番多く人がいるな。もしかしてあそこにゴールドバックの剥製が展示されているのかもしれん。」
「ウホ(そうだね。でもなんだか小さい?)」
ボクの感想は思ったよりも小さいかもってことだった。まだ間近で見ていないけど、人が群がっている中でその姿が見えないってことは、そんなに身長が高くないか、特殊な姿勢で展示されているかのどちらかだ。
「もう少し近づいてみてみよう。」
エレーナに手を引かれるようにして人だかりを進む。ボクは小さいからあまり人が混んでいるところに行くのは嫌だけど、そこはボクの有り余るパワーを使って上手に避けていく。
そして、ついに対面することになった。
「ウホ~(うわぁ。これは・・・意外だね。)」
「うむ、私は二度目だが、一度目は小さいころだ。あの時は大きく感じたものだが、ずいぶん小さいな。これでも成体なんだそうだぞ?」
エレーナが言う様にやはり展示されているゴールドバックの剥製は小さかった。
「ウホウホ(そう言うことなんだろう。ボクが大きすぎるってこと?)」
「分からないな。まぁ、ゴールドバックの生態は分からないことが多い。普人族にも大きい人や小さい人がいるように、その程度の差なんじゃないか?」
「ウホウホ(そうかなぁ。なんだか、背中の金髪も少し範囲が狭い気がするしさぁ。)」
ボクとしては同族とも思えない程度にはかけ離れている剥製にこれ以上の興味はわかない。エレーナに帰ろうと伝えて手を引く。
エレーナもこれ以上は不要と考え、さらにはこれから領地に帰らないといけないことを考えると、あまりゆっくりできないので、ちょうどいい時間だ。
「よし、それじゃ帰ろうか。王都の邸に帰ったらそのまま馬車で領地に向かうぞ。」
「ウホ(うん。行こうか。)」
ボクとエレーナは手をつないで帰路に就く。意外に見ても何も思うことはなかったなぁ。
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