第77話 お土産話
ワクワクとした心持ちのまま、エレーナが選んだお店の中に入る。選ばれたのは大通り沿いにある店で、なんだかキラキラしたお店だった。
「ウホ(なんか、まぶしいなぁ。)」
「マツもそう思うか?そうだよな。私も初めてここに来たときはそう思ったよ。でもここは主に地方から来た観光客相手の店だから、王都のキラキラした雰囲気を再現しているらしくて、これで良いんだそうだ。」
エレーナが説明してくれたことで僕にも理解できる。確かに前世の観光客向けのお店もこういった雰囲気だった気がするからね。
そしてこの世界だと猶更、観光というのは珍しいので、そういったお客を確実に取り込むための作戦の内ってことか。
でも、だとしたらどうしてここへと来たんだろうか。ボクはともかくとして、エレーナは王都にもう何年も住んでいる。あと二年で領地に戻ることになると思うけど、それでも観光客用のお店には要はないんじゃないのかなぁ。
「私がこの店に来たのが不思議か?フフフ、私は王都に住んでいるが、父上やミーシャ、使用人たちは基本的に領地を出ない。こういったところで買った方が喜ばれるんだよ。一応、特産なんかが中心だからな。」
「ウホ(なるほどね。)」
ボクが納得したところでお土産を選び始める。すると来店してからボクたちの様子を窺っていた店員がこちらへと近づいてくる。おそらくその人は店長かな?レイアは見るからに良いとこの子供のような恰好をしているし、ボクも小さい猿のくせに青色に綺麗に染められたオーバーオールを着ているしで、とても平社員に任せるわけにはいかないと思ったんじゃないかな。
「いらっしゃいませ。本日はどのような品物をお探しでしょうか。私、店長を務めます、セオと申します。」
「ああ、今日は領地の父と妹、使用人たちに土産を買いに来た。」
「そうでしたか。では私がご案内させていただきます。何かジャンルはお決めになられているのでしょうか。」
セオと名乗った店長はエレーナにお土産のジャンルを聞いている。そう言えば何を買うつもりか決まっているのかすら知らないや。
「えっとな。これまで何度も領地に帰る度にお土産を購入していたから選択肢があまりなくてな。もはや食べ物がいいんじゃないかと思うんだが。」
「それでしたら、こちらの王城饅頭はいかがでしょうか!我が国を象徴する王城の形を模した饅頭となっております。観光客にも喜ばれる品で、皆ご購入されます。」
最初に店長が提示したのは饅頭だった。王城の形を模した饅頭らしいが、そんなのが人気なのか。学園に通っているエレーナは毎日見ているし、ミーシャもその内に毎日見るようになる。父上に至っては登城することもある立場だ。これはないかな。あ、でも、使用人はうれしいかも。
「いいや、これはないな。別に王城は見ようと思えばいつでも見られる。何か別の物はないのか?」
「そうですか。ではあちらの方へ。」
ボクの予想と同じで、エレーナもこれには首を振る。他の候補を店長に探してもらうみたい。何もなかったら使用人用として推薦しようか。
「こちらはどうでしょうか。」
そう言って店長が持ってきたのは、大きな筒状の何かだった。包装にくるまれているが30cmくらいの筒状で直径は10cmないくらいだ。
「なんだこれは?」
「こちらはヨウカンというお菓子となっております。王都近くの砂糖生産が盛んな領地で開発されたお菓子で、最近になって王都にも出回るようになりました。
なんでも、これを開発したのは領主を務める子爵様の御次男なんだそうです。齢10歳で新しいお菓子を作ってしまうなんて驚きですよね。試食も可能ですよ。」
「ふむ、砂糖生産か。では一切れ頂こう。あむ・・・ほぉ、甘いな。そして口当たりもいい。これは土産としては素晴らしいな。ただ、少し大人向けか。」
ボクも一切れ貰って口に放り込む。それは前世で食べた羊羹に近くて、とても甘く口当たりもそっくりだ。でも、何か違う気がする。まぁ、分からないけど。
「ウホ(これおいしいね。御父上は喜ぶんじゃない?)」
「ああ。父上にはこれで良いだろう。使用人にも年嵩の者にはこれにするか。その筒を5つほど頼む。」
「ありがとうございます。では、そこの君、これを包んでくれ。」
「承知しました。」
エレーナが決めると即座に店長が動く。すぐに店員を呼んで要求された分だけ包んでくれた。そこからすぐに次の品物を探す。
「他には何かあるのか?」
「ええ!例えば、こちらのクッキーなんてどうでしょうか。こちらも羊羹と同じ子爵家の次男様がお作りになったクッキーで、従来の物よりも甘さが強く、紅茶などによく合います。こちらもどうぞ。」
また店長が持ってきたのは子爵家の次男というのが作ったお菓子だった。いろいろ開発しているんだな。
「ふむ、甘いのか。どれ?・・・うむ、確かに甘い。紅茶も良いがコーヒーに合いそうだ。」
「ウホ~(あまぁい。エレーナが言う様にコーヒーと合いそう。)」
「だろ?では店主、こちらは3箱くらい貰おうか。」
「お気に召していただきうれしい限りです。では、君、こちらも頼むよ。」
「承知しました。」
また店員を呼んで包んでいく。これで必要な量は手に入ったかな?
「もう十分な量を購入できた気がするが、まだ何かあるか?」
「でしたら、王都土産として不動の人気を誇るクッキーがあります。先ほどのクッキーより甘さは控えめなのですが、こちらはご利益がありそうだと売り上げは伸びる一方です。」
店長が言う意味が分からなかったが自信満々で言うので持ってきてもらう。ボクは正直、やめればよかったと後悔することになるが、この時はワクワクして待っていた。
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