第61話 魔物学の課外授業①
雨が強い日は、骨を折ったところが痛みます。
ということで、魔物学の時間がやってきました。
本日、風の日。とうとう課外授業の時間がやってきた。一時間目の国学の間、僕は大人しく寮の部屋で待機していたのだけど、その間も暇をしていたというわけではなく、エレーナの代わりに授業の準備をしていた。
エレーナは片づけがあまり得意ではない上に、準備を周到にしたいタイプだ。だから、従魔を探して毎週領地に戻っていた際も必要かどうかもわからないようなものまで馬車に詰め込んで出かけていた。
これまでもモンストル先生の従魔という形で魔物学の課外授業に同行していたエリックに確認したら、エレーナは案の定、課外授業があるたびにとても大きな荷物をもって来ていたらしい。
なので、今回は彼女には準備を手伝わせずに僕だけで必要なものの裁定をしていく。任せていたらさすがの魔法鞄でも埋まりかねないからさ。渋々ではあったけど、エレーナも僕に任せて国学の授業に向かってくれた。
「ウホ(さて、と。とりあえずこんなところかな?何が目的の課外授業なのか知らないから完璧な準備はできないけれど、及第点だよね。)」
僕は出来上がった荷物を見て呟く。誰に聞かせるわけでもないけれど、自分への確認だ。完成した山は意外にも大荷物にはなったけど、魔法鞄を持っているってことを考慮すればいいよね。
準備した物は、基本的な魔物学で使用する教科書やノート、筆記用具などの一式、昼食を挟むのだから昼食として寮の食堂で注文しておいたお弁当が二つ、それとバナナ。僕が紙に文字を書いて“弁当とバナナを二つずつ”と要求したのだけど、それを見て食堂のおばちゃんは特に驚くこともなく提供してくれたのには少し驚いたよ。
昼食関連で言うと、他には調味料や大き目の鍋なんかも入れて行く。何が分からないし、最悪の場合でも食料を現地調達して料理ができるようにした。これに関しては全くの無駄ということではなく、他の学生のためでもある。
今日の魔物学の課外授業に関して告知されるのは基本的に今の国学の時間だ。エレーナが昨日広めたのは、寮にいる学生だけだ。何らかの理由でその情報を得られなかった学生が昼食の準備をせずに来たらこれらを貸し出すこともありってことだ。
後は万が一のための着替えだね。課外授業では王都の外に行くらしいので、衣服が汚れる可能性が非常に高い。なら、僕が着替えを持っていれば問題ないよね。
と、まぁ、こんな感じで荷物の準備はできた。他にも細々としたものを入れてあるけれど、準備しているうちに内容をすべて把握する前に魔法鞄に入れてしまったもので、ちょっとわからない。まぁ、使うときが来れば紹介するさ。
僕がまだ詰めていない荷物を魔法鞄に放り込んでいると部屋のドアが開いて人が入ってくる。
「やぁやぁ、ここがグラディスバルト嬢の部屋かな?おっと、いたいた。ゴリ松君。君を探していたんだ。彼女に確認したらここで荷物の準備をしていると聞いてね。寄らせてもらったよ。」
「キーキー(邪魔するぞ。)」
中に入ってきたのは、魔物学の教諭、モンストル先生だった。その肩にはエリックが乗っている。
突然の来訪に驚いた僕は一度だけ深呼吸をして落ち着きを取り戻すとエリックに尋ねる。ここへといきなり来た理由がわからないからだ。エレーナにではなく僕に用事というのが特に。
「ウホウホ(どうしてここに?エレーナではなく僕に用事ってことでしょ?)」
「キーキー(それがな。我も分からぬのだ。この下僕が突如言い出したのでな。)」
「主、馬鹿はひどくないですか?僕だって考えがあるんですよ。あ、ゴリ松君は文字が書けるんだろ?僕と話すためにも書いてくれないかな?」
「キー(フンッ)」
エリックに反論するモンストル先生は僕に紙を差し出してきてそう言った。どうやら本当に僕に用事のようだ。この先生が関わるようなことで僕が頼まれるようなことはあるとは思えないのだけど。
〔わかったよ。ところで、何の用かな?まだ準備が終わっていないから手短にお願いしたいのだけど。〕
「おお!きれいな文字を書くね。教本通りだ。っと、また横道に逸れるところだった。えっとね、今日僕が来た理由なんだけど、一つお願いしたいことがあったんだ。ほら、僕って周りが見えなくなることがあるだろ?」
僕の文字をほめてくれたので少しは話を聞いても良いかという気分になりながら、彼の自虐を受け流す。ここで、そうですね、というのも違うし、事実だからと肯定するのも違う気がする。正解が分からないなら流してしまうのが一番だ。
「だからさ、グラディスバルト嬢と君には学生たちのコントロール役として僕の補助をしてもらいたいんだ。いわば助手とでも言えばいいのかな?」
「キーキー(テスよ。そんなことを考えておったのか。我がしてやってもいいのだぞ?)」
「いやいや、主は自分と一緒に周りが見えなくなるじゃないですか。だからクラスで一番しっかりした彼女とその従魔のゴリ松君にお願いしに来たんですよ。」
エリックは確かにそういうところがある。昨日の賢者の森のこともそうだけど、似た者同士だよね。
「と、まぁ、そういうことでどうかな?」
モンストル先生は人好きしそうな笑顔で僕にそう尋ねた。その笑顔にはどこか言及してはいけないような胡散臭い匂いがした。
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