第60話 エリックの提案②
エリックの昔話はとても面白かった。従魔と主人の関係はいろいろあると思い知ったよ。僕もエレーナとより良い関係を築いていこうと心に誓った。
エリックは僕の視線に急に恥ずかしくなったのか、ゴホンと一つ咳払いして、話を元に戻した。もともとの話は何だったっけ?
「キーキー(なんだその顔は。話を戻すぞ。貴様が倒したオークの数だ。正確である必要はない。どれほどか目安もないのか?)」
「ウホウホ(そうだった。オークの数か。うーん、冒険者ギルドに提出した数なら大体わかるけど。)」
「キーキー(それでいい。それが全体の何割を占めるかくらいは把握しているだろう?)」
エリックは僕の証言をもとに大体の数を把握するみたいだ。まぁ、僕もそう考えれば大体の数は分かるけど、エリックがやってくれるなら任せても良いかな。
「ウホウホ(えっとね、冒険者ギルドで出したのは、50体くらいかな。他にも魔物の死骸が入っていたから、これくらいが限界だったんだよね。)」
「キーキー(ふむ、それが大体何割だ?)」
「ウホウホ(うーん、一割五分くらいかな?たぶん。あんまりにも襲われるものだから数えてなかったんだよ。)」
オークは仲間を殺されたからか、見かけるたびに攻撃してくるような感じだったので、最終的には僕が見つけたら刈り取るっていう方向にシフトしたんだよね。そんなんじゃ正確な数なんて測れないよ。
「キーキー(なんと、すごい数だな。ざっと330ってところか。細かいことは分からぬが、間違いなく集落があるレベルの数だ。それを一人で殲滅か。ゴールドバックとは恐ろしいな。)」
あの森にはオークがそんなにいたんだね。それだけでも驚きなのに、それを僕が全部倒したっていうのはもっと驚きだ。
エリックは僕が倒したオークの数を計算して何かを考えるかのように目をつぶる。小さい猿が目を瞑って何かを考えているのは、どこかかわいらしいが、それを言うと怒られそうなので黙っていよう。
そうして次にエリックが目を開けると、何かを決めたのか、立ち上がって言った。
「キーキ(決めたぞ!我は賢者の森に絶対に行こう!先ほどまでは下僕が喜びそうだと思っただけだったが、我も気になることができた。下僕を説得することも辞さん。)」
「ウホウホ(うーん、何がどうしてそんな気持ちになったのかわからないけど、僕としてはみんなで旅行みたいで面白そうだしうれしいや。)」
「キーキー(オーク以外の魔物の動向が気になるのだ。通常、一種類の魔物が消えたくらいでゴブリンなどの被捕食生物が増殖するのはあり得ない。おそらくオーク以外の原因があるはずだ。)」
エリックが、今は誰も提唱していない新説を唱えながら熱心に語り続ける。モンストル先生と契約したから、魔物学に興味を持ったのか、その前からそういう研究をしていたのかわからないけど、楽しそうだ。
「ウホウホ(とりあえず、一緒に行ってくれるなら、ゴブリンの駆除も頼むよ?)」
「キーキー(もちろんだ。我も王であった頃は森の調整も仕事であったのだ。昔取った杵柄というわけではないが、存分に働いてやろう。雷猿王と呼ばれた我が実力、存分に発揮してくれるわ。)」
エリックは張り切ってそう言うが、まずはモンストル先生を説得することからなんだけど、それはもうエリックの中ではクリアした出来事なんだろうね。僕としても断れるとは思っていないので、その認識は正しそうだ。
「ウホウホ(それじゃあ、今日のところはそれくらいで話は終わりかな?そろそろ今日の授業が終わるし、寮の部屋に帰るよ。説得しておいてね。)」
「キーキー(うむ、もちろんだ。あ、そうそう、最後に伝えておいてやろう。明日は、魔法学の時間を借りて課外学習に出ることになっておる。従魔連合のよしみで教えるが、準備をして来ると良い。)」
「ウホウホ(わかった。エレーナに伝えるけど、他の学生は知っているの?)」
「キーキー(いや、広めても構わないが、アドバンテージが失われるぞ?)」
エリックはにやりと笑うけど、エレーナの性格を知っている彼には予想ができるんだろうね。
僕も分かるけど、エレーナがそういう情報を一人で独占するわけがない。彼女は良い意味で貴族らしい女性だからね。民に還元することこそ貴族の責務である、的な考え方だからさ。
「ウホウホ(それじゃあね。エリックも遅くならないように帰るといいよ。)」
「キーキー(フンッ我が下僕はどうせ自室に帰る前に研究室で残業だろう。そちらに行くと我も手伝うことになる。今は賢者の森の推察に忙しい。ここである程度まとめてから変えるさ。)」
エリックも自分が興味を持ったことに一直線らしい。そういうところが主従でそっくりというのは、面白いね。きっと、そういうところも仲良くし続けることができる要因なのかもしれないね。
僕はエリックにもう一度、別れを告げてから、それ以外の魔物にも手を振る。あまり賢くない魔物でも、手を振るのがバイバイだということは分かるのか、それともただ僕の真似をしただけなのか、手を振り返してくれる。
そんな姿にほっこりとしながら、僕は魔物の厩舎を後にする。
あれ?そういえば厩舎の主であるフレイはいなかったな?彼女は従魔の首輪をしたがらないから外出することはないと思うんだけど、どうしたんだろうか。
僕の疑問は歩いているうちに記憶の片隅に送られていく。そこまで重要な情報じゃないだろうしね。
そうして寮のエレーナの部屋に戻ると、大人しく僕専用に購入したベッドにダイブする。あとはエレーナが戻ってくるのを待つだけだ。
あ、エレーナは予想通り、明日の魔法学が魔物学に代わって、課外授業になったことを学生に広めたよ。ほらね?
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