第56話 紹介された職人③
僕が意気込んで首輪を取ろうとしたら、それより先にドガルの鉄拳がポーの頭に振り下ろされる。僕のシタビーのような振り下ろしは、ガチンといい音がした。
ポーは頭を押さえてのたうち回る。あれは痛いだろうね。でも、罰だよ。ヒトをバカにしてはいけないし、ましてや僕らはお客さんだ。お客さんは神様だとは言わないけど、礼儀は弁えるべきでしょ。
「こんのバカ弟子が!そんなんだからいつまでも独り立ちができんのじゃ!どう考えてもこの従魔はあほみたいに強者の風格があるじゃろうが!お前なんぞ小指で殺されるぞ。」
ちょっと大げさかもしれないけど、それくらいは出来そうだ。まぁ、ゴールドバックってことを信じていないみたいだけど、そろそろ採寸をするから、それで確かめてもらおう。
「見れば、弟子殿もわかるだろう。ドガル殿、採寸に移ってもらっても?」
「ああ、すまんな嬢ちゃん。ほれ、早く起きんか!採寸を開始するぞ。」
採寸が始まるということで、僕はエレーナたちから離れて首輪に手をかける。丁寧に壊さないように外すと、自然と体の大きさが戻るのを待つ。どのタイミングで戻るかまだつかみ切れていないんだよね。
少し待っている間にポーがまた騒ぎ出す。
「どしたっすか?何にも起きないっすよ?本当にゴールドバックなんすかぁ~?」
「いいから黙っとれ!外してすぐに大きくなったら危険じゃろうが!それくらい考えろ!」
「はいっす...。」
ポーはドガルにまた怒られてシュンとする。まぁ、ちょっと調子に乗りすぎだし、いい薬になっただろう。
っと、そんな様子を見ているうちに、来た来た来た。
僕の体が、だんだんと大きくなって目線が高くなる。十数秒で元の大きさに戻ると、僕はポーを手に取って持ち上げる。さすがにこれでエレーナが嘘を言っているとは思わないだろう。
「ひゃぁああ、た、助けてくれっす~」
「ガッハッハッハ。ゴールドバックは賢い魔物らしいからの。さっきまでの会話も理解しておったんじゃろ。罰が当たったな。」
「おいらが悪かったっす。だから降ろして~」
弟子が必死に懇願する様を師匠が爆笑して眺めている。かなり混とんとしているが、そんな状況に一筋の光が差し込む。エレーナだ。彼女は僕にポーを降ろすように言う。
「ほら、もういいだろう。ゴリ松降ろしてやれ。」
「ウホウホ(うーん。わかったよ。でも、次はないからね。)」
「フフフ。ありがとう。」
「怖かったっす~」
僕がポーを降ろすと。エレーナが彼に優しく語り掛ける。
「ゴリ松は賢い魔物だからというのもあるが、従魔は比較的賢い魔物が多い。あまりわからないと思って馬鹿にすると損をするのは自分だぞ?今後は気を付けると良い。」
「うぅ~分かったっす。いやぁ酷い目に合った。」
エレーナは優しい言葉で言ったけど、それじゃ僕の腹の虫は収まらない。まだぶつくさ言っているので、僕は魔法鞄から木の棒を取り出して、地面に文字を書く。ここが砂地の倉庫でよかった。
〔今日の所はエレーナとドガルに免じて許すけど、また僕のご主人様をバカにしたら、容赦しないから。〕
今回一番腹が立ったのは、エレーナを嘘つきみたいに言ったことだ。次はないことをしっかり目を合わせて教えてやる。
ポーは僕が書いた文字を飛んで顔を真っ青にして震える。そりゃ、エレーナが賢いって言っても半信半疑だったのに、文字で注意されちゃ信じるしかないからね。しかもその文章がほぼ脅しじゃ、顔色も悪くするだろう。
いい薬だ。
「ほぉ、文字を操るとは、噂にたがわぬ賢者ぶりよな。森の賢者とはよく言ったものじゃ。それを従魔にするとはすごい嬢ちゃんだ。」
「ハハハ。ゴリ松には助けてもらってばかりだよ。」
ドガルとエレーナは僕とポーのやり取りを見て、感心したり謙遜したりしている。エレーナとはお互い様って感じだから、謙遜しなくてもいいのに。
〔早速、僕の採寸を開始しよう。〕
僕は文字で作業を開始してほしいと告げる。
「おお、そうじゃな。まずは腕から測っていこうか。腕を出してくれ。」
僕は指示通りに腕を出す。
「ほれ!呆けとらんで手伝わんか!」
「はいっす~」
弟子が起き上がって、作業を手伝い始める。エレーナは僕が採寸をしている間は用意していた本を読んで待つつもりのようだ。あれは魔法学の本だね。本当に好きだなぁ。
****
それから、いろいろな部位を採寸して、数時間。大きいから、なかなかに大変そうだった。時間がこれほど必要だとは思ってもいなかったが、これならちょうど冒険者ギルドに向かえば、オークの買取価格も出ているだろう。
「おっし、採寸は終わりじゃ。この寸法で服を作らせてもらうぞ。代金はどうする?」
ドガルは作業を終えて、寸法を書き込んだノートを閉じると、エレーナに向けてそう言った。
エレーナも本を閉じてこちらへとくると、その請求先を告げる。
「ああ、請求はグラディスバルト辺境伯に頼む。」
「んあ?辺境伯でいいのか?」
「ああ、領内で出た魔物だからな。このサイズだと人を襲い始めた可能性もある。討伐報酬として、服の代金は父上が払う。」
これは僕も聞いていなかったので、驚いた。そんな話になっていたんだ。でも、さっき話した代金はどうこうって話は何だったのかな?
「さっきのはサプライズのための布石だ。父上がゴリ松にとおっしゃっていた。」
「ウホウホ(そうなんだ。ありがとう。)」
僕はこの場にいない御父上に礼を言うと、もういいかなと思って首輪を手に取る。
「ウホウホ(もう戻っていいかな?)」
「そうだな、ドガル殿、もう小さくなっても大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。バカ弟子!俺たちは表に出るから、お前はこのフレアグリズリーのサイズを測ってろ。」
「りょ、了解っす。」
僕は許可をもらったので首輪をつける。小さくなるのは待ち時間もなくすんなりだ。弟子は疲れ果てていたけど、これも仕事なので頑張ってとしか言えない。
僕たちは店の表に移動した。これからの話は、納期の話かな?
「それじゃあ、これから作業に入るが、納期に指定はあるか?急いでやっても2週間だな。あれだけ大きいと道具から揃えんといかんしな。」
「わかっている。納期は気にしなくていい。完成したり何か報告がある場合は、王都にある我が屋敷に連絡をくれ。私にも話が通る。」
「わかった。」
こうして、僕の服を作る話は終わりを迎えた。これから、冒険者ギルドに戻って魔物素材の買取結果を聞きに行く。
「ゴリ松。少し遅くなったが、昼食を取ってから冒険者ギルドに向かおう。」
「ウホ(そうだね。)」
そういえばドガルたちもだけど、僕らはお昼ご飯を食べていなかったよ。おなかがすいている。王都は往来で屋台があったりするから、そこで食べてもいいね。
屋台にはバナナあるかなぁ。
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