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第55話 紹介された職人②


ドガルについて店の裏に行くと、そこは意外にもとても広く、一般的な小学校の体育館くらいの広さがある。

彼はその一角に後付けで建てられたと思われる小さめの小屋に向かう。


「ウホウホ(あれは?)」


「なんだろうな?ドガル殿、あの小屋は何なんだ?」


エレーナが僕の代わりにドガルに質問する。他者と会話するために文字を勉強しているけど、歩きながらの会話は難しい。だって地面に書かないといけないからね。

この世界には持って歩けるサイズのホワイトボードなんてないし、仕方がないけど、いつかそういう便利なものを作ってもいいかも。土魔法で作れないかな?


僕が頭の中の今後やることリストにそれを書き込んでいると、ドガルがエレーナの質問に答えてくれた。歩みを止めていないが、ドワーフである彼は足が短いので、普通より進みが遅いんだ。答える時間はたっぷりある。


「ありゃ、鍛冶場じゃ。あそこで受注した武器や金物を作っとる。弟子がな。」


「ふむ?そのためにわざわざ小屋を建てたのか?そのまま炉だけ作るのではいけなかったのか?」


エレーナは答えを聞いてさらに浮かんだ疑問をすぐに問う。彼女も僕と同じで気になったら引きずる性格だからね。


「それじゃ、ダメなんじゃ。火の精霊は狭い空間を好む。鍛冶仕事をするには精霊の協力が不可欠。好む空間づくりは大事なんじゃよ。」


「ほぉ、ドワーフはエルフと同様、精霊魔法を使うというが、鍛冶にも使うとは。初めて知ったぞ。」


エレーナは、それはもう嬉しそうに言った。彼女は魔法が大好きだからね。精霊魔法って、人族で使えるようになるには才能がすべてらしいからね。滅多にいないんだって。

魔法学の授業でマトル先生が言っていたんだけど、今、このパールベルナ王国にいる普人族の魔法使いで精霊魔法を使える人は二人しかいないらしいよ。


エレーナは無邪気に喜んでいるが、そんな彼女にドガルが忠告した。少し厳しめの口調だが、別に怒っているわけではなく、親切心からの忠告っぽい。


「お嬢さん。それは少し違う。儂らはエルフみたいに精霊を使役はせん。飽くまで協力を願うだけで、立場は対等なんじゃ。そこのところ間違わんようにせんとお嬢さんも危険かもしれん。」


「む、そうか。認識が間違っていたようだな。気を付ける。」


エレーナが素直に受け入れたのが不思議だったのか、ドガルは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

ふふん、エレーナは頭がいいんだ。年長者の忠告が大切なものであることくらい理解している。


「ずいぶん、聞き分けがいい嬢ちゃんだな。儂が知っている貴族の娘とは違うわい。あの嬢ちゃんは人の話を聞かんかったなぁ。悪い子ではなかったが。」


ドガルのつぶやきは最後までエレーナに届くことはなかったが、僕にはしっかり聞こえた。知り合いの貴族令嬢がいるんだね。


「まぁ、いいわい。到着したし、弟子を呼ぶから少し待っておれ。鍛冶場は暑い。むしろ熱いと言ってもいいじゃろ。精霊が張り切っとるからの。」


ドガルの言うとおりに僕とエレーナは少し離れた場所でドガルが戻ってくるのを待つ。中に入ってからドガルの怒鳴り声が聞こえてきた。もしかしたら弟子と喧嘩をしているのかもしれない。

まぁ、僕らには関係ないのでただ待つ。あ、そうだ。待っている間に時間を潰すためにも魔法鞄の中から熊を出しておこうかな。


「ウホウホ(エレーナ。熊を出して待とうか。どうせここで採寸して素材の提出をするんでしょ?)」


「そうだな。それがいいだろう。まだ時間がかかりそうだからな。」


エレーナに許可をもらったので、空いているスペースに熊を取り出す。でかいので引っ張り出さないといけないのだけど、そこでふと倉庫の中なのに何もないのが気になった。


「ウホウホ(ねぇ、倉庫なのになんで何もないのかな?)」


「言われてみれば、何もないな。魔法鞄にしまってあるとか?」


あ、そうか。そうすれば広い場所は必要ないもんね。でも素材を受け渡す場所は必要だから、ここがあるのかも。


僕が一人で納得していると、鍛冶場の小屋の方から響いていた怒鳴り声が聞こえなくなった。どうやら喧嘩が終わったみたいだ。こっちもちょうど熊を出し終えたので大人しく待っておこう。


それから数分もしないうちに、小屋の中からドガルともう一人ドワーフが出てきた。そのドワーフはドガルと同じ様に髭もじゃのずんぐりだ。

だけど、少しだけすらっとしている気がする。まぁ、微々たるさだけどさ。


「嬢ちゃん、すまんな待たせちまって。こいつが使用を勝手に変更してやらかしやがってよ。」


「師匠!あれはあっちの方がかっこいいし、機能性も上っす。絶対あっちの方がいいっすよ!」


「うるせぇ!それに関しては依頼主と話してからって決めたじゃろ!今はこっちが先じゃ!」


ここにきてまた喧嘩が始まりそうだったので、エレーナが仲裁に入る。まぁ、誰かはわかっているけど、ちょうどいい話題としては自己紹介だろう。


「あー、すまないが、こちらの話をしても良いか?私はエレーナ=グラディスバルト。今日は私の従魔の服を作ってもらいたくて伺った。」


「こりゃ、ご丁寧にどうも。おいらはポーっす。師匠の弟子で、主に鍛冶を担当してるっす。きっと服の金具とかはおいらが担当すると思うっす。以後よろしくっす。」


語尾に特徴のある弟子はそう言って頭を下げた。エレーナは気にしないだろうが普通の貴族相手にこの態度は良くないかもね。


「よろしく。早速だが本題に移っていいか?と言っても、私は素材を渡して金を払うだけなんだがな。」


「それはありがたいっすね。最近は口出してくる依頼人が多くて、面倒だったっす。」


「バカ弟子が。いっちょ前に語るな。客を満足させられなかったお前に責があるわ!」


また師弟漫才が始まりそうだったので、そうそうに話を変える。


「冒険者ギルドからの紹介状にも書かれていたと思うが、この素材で服を作ってもらいたい。」


そう言ってエレーナが熊を指し示すと、これだけ大きい熊が初めて目に入ったのかポーはあんぐりと口を上げて驚愕する。良いリアクションだ。


「どひゃぁああ!!こいつはすごすぎっす!フレアグリズリーっすね!いい防具ができそうっす!」


「いや、注文は“丈夫な服”だ。防具ではない。」


「余るのはどうするんすか?」


「それは冒険者ギルドにいくらか卸すことになっているらしい。紹介状に書いてあったわい。」


ドンはしっかりとそこを明記してあったらしい。抜け目がないな。まぁ、保護にするつもりもないので良いけど。


「それじゃ結構余るっすよね。」


「いや、そうでもない。ゴリ松の服だからな。」


「ゴリ松?ってこの猿っすか?もっと余るじゃないすか。」


ポーは俺を見てそう言った。それにすかさずエレーナが否定する。


「これでもゴリ松はかなりでかい魔物なんだ。今は魔道具の効果で小さくなっているがな。実は、ゴールドバックという魔物なんだよ。」


エレーナがそういうとポーは噴き出して笑う。


「ブッ、ウハハハハハハハ。ゴールドバック?こいつが?バカは言っちゃいけないっす。チンチクリンじゃないっすか。」


盛大に笑うポーに苛立ったのは僕だ。だって魔道具で小さくなっているって言ったしさ。


はぁ、いいよ。どうせ採寸するし、目にもの見せてやる。






















拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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