第51話 冒険者ギルド王都支部②
身近な問題が進展しました。
最後の部分、受付嬢の行動を修正しました。
移動した先で受付のお姉さんが僕の魔法鞄をひっくり返して中身を取り出す。もちろん、たくさん入っていると言っても、貴金属や装飾品、ガラクタ(僕にとっては宝物)などはすでに取り出して、グラディスバルトの王都の屋敷や学園の寮の部屋に置いてきたので、魔物の素材だけだ。
「なんじゃこりゃあ?!」
魔法鞄の中から続々と出てくる動物や魔物の素材を見ながら、驚きの声を上げたのは僕より少し大きいくらいのおっちゃんで、どうやら冒険者ギルド王都支部の買取り担当責任者らしい。彼は買取を担当するのに加えて、持ち込まれた魔物や獣などの解体も熟すプロ中のプロなんだってさ。
そんな彼が、あまりに大量な魔物の死骸に顎が外れんばかりに口を開いて驚いている。僕の魔法鞄はまぁまぁの大きさらしいからね。ほぼ満タン入っているわけだし、こうなるとは思っていた。
今、案内された倉庫には、僕が刈り取ったそばから全部放り込んだ、オークの死骸が大量に出てきている。賢者の森のオークの大半をあの中に詰めたはずだから、相当な量だろう。
まぁ、オークがいるのは賢者の森の中層から下層ってところなので、正確にどれくらいいたかはわからないけどね。僕がいたのは深層だ。森を上中下で表すのは変かもしれないけれど、エレーナにはそう教わった。僕がいたのは上層のさらに先なんだってさ。
賢者の森は中層まではオークやゴブリン、ウルフなどが縄張りにしている。もちろん、縄張りと言っても、上位者に宛がわれた地域で暮らせるってだけだ。熊や僕は自分以外を認めていなかったよ。熊は見つけたら即捕食、僕は見つけたら即討伐って感じだったんだよね。
さすがに人型の魔物は食べたいとは思わなかったから。その積み重ねがこの量ってわけだ。
「見てわかるだろう。ゴブリンとオーク、それから少しの肉食動物だな。」
エレーナはなんてことない様に言ったけど、これを査定する側からしたら文句の一つも言いたくなるくらいの量だよね。まぁ、貴族であるエレーナにはそんなこと言えないと思うけど。
「失礼だが、これはお嬢さんが...?」
責任者のおっちゃんはエレーナにそう尋ねて、勝手にいやいやまさか、と首を振った。確かに、エレーナは騎士服を着てかっこいい感じではあるけど、どう見ても貴族のお嬢さんだし、こんなことをできるとは思わないだろう。実際やってないし。
というか、どうでもいいけど、冒険者ギルドに入ってからエレーナはまだ名乗っていない。なのに、話がどんどん進むのはなんでだろう?普通にちょっと怪しくない?気になったので聞いてみようか。
「ウホウホ(ねぇ、エレーナはまだここでは名乗っていないでしょう?いいのかな?)」
「ん?ああ、大丈夫。冒険者ギルドは人を身分で測らない。だから、私が貴族であろうとも関係ないんだ。名乗る必要がないのであれば、わざわざ言うこともない。ただ、ちょっと名乗る必要があるかもしれなくなってきたが。」
エレーナは僕に説明した後に責任者のおっちゃんを見て、そう言った。うーん、もしかして、さすがに多すぎた?
「いや、やっぱり聞くべきだな。失礼、これはお嬢さんがやったので?」
自分でそんなわけないと思いながらも聞かないと分からないと思ったのか、責任者のおっちゃんはできるだけ丁寧に尋ねた。
僕と話していたエレーナはおっちゃんに向き直って、丁寧に対応する。エレーナは貴族だけど、身分で人を見ないのは美徳だね。
「あー、なんというかな。私の手柄にはなるのだが、やったのは私ではない。」
エレーナはそんな返事をした。まぁ、確かにそうだね。従魔である僕の成果はそのままエレーナの手柄になる。僕は欲しい物はエレーナが買ってくれるし、文句はない。
エレーナの言葉には頭を捻る責任者のおっちゃん。まぁ、わかんないよね。
「それはお抱え騎士団とか、そんな話で?」
「いや、そうじゃない。それをやったのは、ここにいるゴリ松だ。」
エレーナは僕を指で示して言った。それを聞いたおっちゃんは、僕と魔物の死骸を何度か見比べて、いやいやと首を振った。
「いやいや、それは無理だろ。見るからに子ザルじゃん。はじめは人形かと思ったしよ。」
おっちゃんは僕の見た目で無理だと判断したみたいだ。しかし、それを否定したのは今まで黙っていた受付のお姉さんだった。
「ドンさん。お嬢様がおっしゃっているのはおそらく事実です。先ほど、酔った冒険者がお嬢様に絡んだところ、そちらのおサルさんが撃退されました。
その際におサルさんが掴んだ、その冒険者の腕は折れていましたし、相当な力を持つ頃は間違いないです。」
「骨折って、どれだけの握力が必要だと思ってるんだ。その冒険者のランクは?」
「Cランクです。ホラ、素行が悪すぎて昇格できない、あの。」
どうやらあの冒険者、意外にも冒険者としては実力がある方らしい。
「ああ、なんて名前だったか。Bランクくらいの実力か。それを?この猿が?嘘だろ。」
ここまで言われても信じてもらえないので、どうしようかと思った。でも、エレーナは特に困っていない。そして懐から何か取り出すと、それを責任者のおっちゃんに見せる。
「これを見てくれ。役所で発行されたものだ。」
「あん?役所だァ?...!これは!見てみろ!」
なんか口調が悪くなってきたけど、それが素なのかな。
エレーナが手渡したのは、たぶん僕のギルドカードだ。確かにあれを見せれば解決するだろうけど、僕の種族を誤魔化せないよ?
「ウホウホ(いいの?バレるけど。)」
二人でじっくりと僕のギルドカードを見ている隙にエレーナに聞く。
「ああ、まぁ、役所と冒険者ギルド、商業ギルドは情報共有しているからな。私が名乗れば自ずと分かることだ。」
学園内ではアームコングとされている僕だけど、学園の外だと正しく認識されているのかな?まぁ、見られて困る物じゃないし、技能は見えないはずだから問題はない。
「あのぉ、もしかしてグラディスバルト辺境伯のご令嬢でしょうか?」
恐る恐るという感じで受付のお姉さんが聞いた。エレーナはそれに肯定で返すと死骸の山を示した。
「ああ、エレーナ=グラディスバルトという。以後お見知りおきを。それで?あれらの買取は可能かな?」
エレーナが輝かんばかりの笑顔でそう尋ねると受付のお姉さんは、「はぅ...」と胸を押さえてよろめく。するとすぐに責任者のおっちゃんがフォローに入った。良い連携だ。
「もちろんだ!冒険者ギルドが責任をもって買い取らせてもらう。お嬢さんの出自からしてあれは賢者の森の魔物だろう?あそこのオークは旨いと評判なんだ。飛ぶように売れるぞ!
ゴブリンやウルフも通常種よりも含有魔力量が多くて、使い道が多い。どれも高く買い取れる。」
おっちゃんが満面の笑みでそう言った。ちっちゃいおっちゃんが笑顔で迫るのには、さすがのエレーナも押され気味だ。
僕はおっちゃんをエレーナから引き剥すように距離を取らせる。
「ドンさん、近すぎです。おサルさん、いいえ、ゴリ松さんに警戒されてますよ。」
「あ、すまん。お嬢さんも申し訳ない。」
「ハハ。大丈夫だ。」
反省しているようで僕もこれ以上は大丈夫と、おっちゃんを放してエレーナの方に戻った。エレーナが許しているなら、僕がでしゃばるべきではないしね。
「査定には少し時間がかかる。時間をもらっていいか?もちろん素材を傷ませることはしない。」
「わかった。どれくらいだ?」
「まぁ、今日の夕方には査定額が出ているだろう。肉に関してはもっと早いな。王都の肉屋がこぞって集まるぞ。」
どうやらオークの肉ってかなり人気があるみたい。そこまでおいしいなら、森にいるうちに食べてみればよかったかな?
そこまで思ったところで、オークの死骸の凄惨さを思い出し、いやいや、と首を振る。自分でやったのもあるけど、原形がある状態のオークは食べる気がしないな。
「ふむ、なら夕方にもう一度来よう。ちょっと、用事があってな。」
「中身はすべて取り出していいですか?」
「む?あぁ。って、あぁっ!」
エレーナが予定を決めたところで、受付のお姉さんが魔法鞄の中身を全部取り出していいかをエレーナに尋ねる。
許可を出した後にエレーナが何か思い出したように声を上げたのだけど、僕はその理由に思い当たらない。何か忘れている気はするけど、なんだっけ?
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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