第48話 魔物学④
気分がノってる時って、キーボードをたたく手が止まらないんですよね。
そこからの測定は自分でも驚くほどに圧倒的な記録を打ち立てた。室内でできる種目ばかりだったのもあるだろうが、どの種目でも先生たちは顎が外れんばかりのリアクションをしてくれたので、途中からは抑えようとは一切思わなかった。ただ、さすがに全力でやると場合によっては施設の破壊などを伴うと考えて、8割くらいの力にセーブしてやり切った。
僕の種族についても知っているエリックは初めからずっとあきれたように見ていたが、僕自身がとても楽しくなってしまったのでしょうがない、だろう。
さて、肝心の種目だけど、僕がやったのは、最初にやった100m走に続いて、連続した横移動(反復横跳び)、跳躍(幅跳び)、持ち上げ(重量挙げ)、握力測定、の合計して5種目だ。
どれも中学校などでやった体力測定のに近いところだ。唯一違うのは重量挙げくらいかな。
各種目を詳しく説明すると、連続した横移動は、その名の通り、時間内にできる限り高速で決められた幅を行ったり来たりするという種目だ。
反復横跳びとは違うのは、引かれる線が3本ではなく2本で、真ん中を数えないということか。あぁ、もう一つ、移動方法はほぼ指定がないってこともあった。
一応、僕がやる前に学生がやって見せてくれるんだけど、その中の一人が二つの線の中をシャトルランのように行ったり来たりしだしたときは、目を疑ったね。だって、あれのどこに横移動と言える要素があったのか。
まぁ、とりあえずそこでは、セオリー通りに反復横跳びをしたのだけど、真ん中を通らなくて良いってだけで、相当に回数を稼げたと思うんだ。
僕はゴリラの腕力を最大限利用して、線から線へと一息に飛ぶことを繰り返したんだよ。そうすればもちろん、無駄に一度足をつけることはなくなって、時間も省略されるんだ。
普通の学生じゃ、できない方法だけど、まぁ、全力ってこういうことだろう?
次の跳躍も同様にゴリラとしてのポテンシャルと前世の効率的な跳び方を活用して最大限の結果を得たところ、学生の最高記録が4m弱というところを僕は倍以上の9m強も飛んだんだ。前世の世界記録が、更新されていなければ3.7mくらいだったはずだから、学生の結果でも十分すぎるほどにすごいのだけど、僕はもっと飛んでしまったんだ。
さらにやばいのが、これが僕の全力ではないってことかな。僕は100m走と反復横跳びで学んだから、全力はまずいと思って抑えたんだけど、それでもこの記録ってすごいよね。
4つ目と5つ目の種目は、どちらも不思議な道具を使った。どうもこういう記録を取る用の魔道具らしく、込められた魔力によって重さが変わり、握られた時の強さを表示する機能があるらしい。
まず、重量挙げは全く問題がなかった。エリックの指示を受けたモンストル先生が魔道具に全力で魔力を込めたのだけど、何の苦労もなく持ち上げることができた。これ以上の重さでも余裕で持てるだろうと予想ができるほどには楽々と持ち上げたので、その様子を見ていた学生たちから少し引かれた気がするよ。
ついでに言うと、僕の前世は鍛えてもいないのにベンチプレスで200㎏持ち上げられるくらいの腕力があったんだけど、体感的にはそれ以上に持ち上げられるって感じだね。
また、握力の測定では、この魔道具を僕が片手ずつ握り締めて測定したんだけど、これに関してはエリックの提案で、少しずつ握力を強めていき、魔道具の測れる最大値で僕が何割の力かを申告するという方法で測定することになった。
エリック曰く「普通にやったら魔道具がいくつあっても無理」なんだそうだ。確かにそうなりそうだなぁ、と思っていた僕は、密かにエリックに「グッジョブ」と心の中で親指を立てたよ。
そうして挑んだ、握力の測定では、ほんの少ぉしずつ握力を込めて行ったんだけど、1割も込める前にエリックによって止められてしまったんだ。
エリックの想定だと、5割くらいまでは耐えるという予想だったみたいだ。エリックが言うには「ゴールドバックの握力はそれくらいだ。」と言っていたけど、実際は1割未満。エリックは僕以外のゴールドバックを知っているようなことを言っているので、たぶん知り合いか敵にゴールドバックがいたんじゃないかな。
結果としては想定以上に僕は握力が強く、規格外だったみたいだけど。
と、こんな感じで、前述したとおりに、僕の身体能力を駆使した運動測定では圧倒的な記録を打ち立てた。
「いやぁ。さすがに想定外だよ!ここまでの身体能力があるとは思いもしなかった。もちろんコング系の魔物は身体能力に優れているわけだが、それでも期待以上だ!できることなら他にも検証がしたいね!」
「キーキー(さすがはゴールドバックだ。我もここまでの能力は見たことがない。もっと階位が上の魔物でもここまでの結果は出せまい。う、うむ。さすがは我が見込んだ魔物よ。)」
この結果を受けて、モンストル先生は手放しでほめてくれる。少し自分の世界にトリップしているようで怖い。エリックも先生と同様にほめてくれるが、どことなく引いている気がするのは気のせいかな。
ほめてくれる先生たちとは対照的に、引いているというか、もはや恐れているのが学生たちだ。別に仲がいいというわけではないので、どうでもいいが、エレーナに悪い影響があるとなれば、申し訳ないね。
当のエレーナは僕を抱き上げてほめてくれているわけだけど。
「ゴリ松!さすがだな!私も誇らしいぞ。人間用の運動能力測定とはいえ、ここまで圧倒的なのは驚くしかないな。
腕力や握力に関しては、グラディスバルト家でより強力な魔道具を購入して測ることもできるが、どうする?」
「ウホウホ(うーん、そうだなぁ。別に詳細を求める必要はないと思うんだよねぇ。僕はどうも物理的に強い種族みたいだし、そういう者だと思えばそれ以上はいいかな。)」
エレーナがより高性能な機材を手に入れて計測をするかと聞いてきたが、僕としてはこれ以上知っても意味がないと思ったので、丁重に断る。
彼女も僕の考えに賛同してくれて、この魔道具を購入する話はなくなった。
僕がエレーナと話をしているときに、教室に備え付けられているスピーカー(?)から、授業が終了したことを示す鐘の音が聞こえてきた。
キーンコーンカーンコーンという、どこか聞き馴染みのある音は先生を現実世界に引き戻し、先生は授業の終了を告げる。
「あえ?授業が終わっちゃったね。うん、今日のことはレポートにまとめて次回の授業までに提出してね。ゴリ松君の測定の結果は職員室の掲示板の前に張り出しておくから、見ておくように。
それじゃ、お疲れ様。僕は次の授業があるからこれで失礼するよ。主、行きましょうか。」
「キーキー(うむ。ゴリ松よ。ではな。次の魔物学で会うであろうが。)」
「ウホウホ(うん。バイバイ。)」
エリックと言葉を交わすと、それを聞き届けたモンストル先生が教室を出ていく。もちろんその肩にはエリックが乗っており、そのまま次の授業に行くようだ。
僕は魔物学で注目され続けて、さすがの僕も意外と精神的に疲労していたことに気が付いて、そこでふと思う。
「ウホウホ(あれ?次の魔物学って明日だったよね?)」
「そうだな。つまりはそういうことだ。」
エレーナが肯定したことで僕はモンストル先生がなかなかの要求をしていることに気が付く。
次の魔物学の授業が明日なら、今日中に結果を見に行って、明日の授業までにレポートを完成させて提出しなくてはならないってことじゃないか。
モンストル先生は自分も学生で忙しいはずなのに、学生に出す宿題をそんなタイトスケジュールで出した大丈夫なのかな。
エレーナや教室にいる学生の雰囲気からしていつものことみたいだし、特別編じゃないのかもしれないね。
「さて、次の授業に移動しようか。」
「ウホ(そうだね。)」
「次は武術だぞ。楽しみだな。」
エレーナは嬉しそうにそう言ったが、僕はあまりそれを歓迎できない。まぁ、前みたいなことにはならないように気を付けようか。
それよりも、今日はエレーナと一緒に参加できる授業が何コマも続く日なんだね。エレーナと長い時間一緒にいられる風の日は、僕にとっていい日なのかもしれない。
はぁ、少しだけ気が重いけど、今日はあと一コマ、武術だけだし、前みたいな失敗はしないように気を付けて頑張ろう。
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