第46話 魔物学②
ゲームを久しぶりにやろうとしてオンラインのできる期間が終了していると、いちいち買いに行こうと思えないです。
「それでは魔物学の講義を始める。」
さっきまでのやり取りはどこへやらといった感じで、まじめに授業を始めたモンストル先生に僕は驚愕が隠せない。その方の上にはエリックが偉そうに座っているのが目につく。
先ほどの崇拝するようなモンストル先生のやり取りは次の学生が来るまで続いた。その間、僕とエレーナは所在なさげに二人でその様子を見る、という苦行の時間を味わった。
エリックはモンストル先生に説教をしていたので気づいていなかったかもしれないけれど、その視線が少し怖いくらいだったよ。
最後の方にサラッと授業に協力してくれと言われて、僕とエレーナの二人は頷くしかなかった。
「さて、今日は新しくグラディスバルト嬢が契約した従魔が、講義に参加する。アームコングという種類の魔物で、普人族と従魔契約をすることは大変珍しい。
本来なら、魔物の生態についての考察を行う予定であったが、予定を変えて、今日はアームコングの生態を勉強しよう。」
「「「「はい!」」」」
「キーキー(大丈夫だ。)」
学生たちはいい返事をした。でも、僕は不安でいっぱいである。だって、僕は本当はアームコングじゃない。それを知っているはずのモンストル先生にはどういうつもりか聞きたかったが、エリックがこちらに向けて一つ鳴いたので何も言えなかった。
何が大丈夫なんだろうか。エレーナも何も言わないのは事情を知っているからかな。
「まず、この観察の意味だが、だれかわかるものはいるか?」
「ハイ」
アームコングである僕を観察する意味をモンストル先生が問うと、それに答えたのは最後に教室へと到着した学生だった。
「それでは、クラウド君。」
「ハイ。まず、アームコングは猿の魔物の系統の中でも上位に位置する強力な魔物です。猿の魔物には物理に傾いたコングと魔法に傾いたモノに分かれます。
魔法に傾いたモノでは、属性や生息地ごとに種類が別れている上に魔法耐久も高く、魔法使いのみでの戦闘は非推奨です。
逆に物理に傾いたコングでは多種多様な種類がいますが、共通点として身体能力が非常に高く、物理防御能力に優れているため、非魔法使いのみでの戦闘が非推奨です。」
ジャックの説明に僕は感心しつつ聞く。自分が名目上名乗る種族のことは知っておきたいからね。
「コングの最上位種の一つとされる、魔物がゴールドバックで、これは過去に一度だけ討伐された記録があり、その剥製がこの王都にあることでも有名です。
アームコングはその生態が、ゴールドバックに酷似しているとされています。つまり、アームコングであるその魔物を観察することは、間接的にゴールドバックを観察することにつながるということです。」
「うん、その通り。少し補足すると、研究者の中にはアームコングが長いこと生きて毛の色が変化したのがゴールドバックなんじゃないかっていう者もいるよ。
まぁ、私はその意見には真っ向から反対しているんだけどね。魔物に限らず、王という者やそれに似通ったものは、生まれた時から存在として高次だ。長寿だとしてその域まで成長するとは思えないよ。
クラウド君、ありがとう。みんな、彼に拍手を。」
モンストル先生がそういうと学生たちがみんなで彼に拍手を送る。パチパチと音が鳴る中で何もしないのはつまらないので、僕も手をたたいておく。
そうすると、ここで一つ誤算があった。今の説明にあったように僕は身体能力の高い魔物だ。手をたたくにしてもそれなりの威力があるわけで。
僕の叩いた手は、まるでドラミングをした時のように衝撃波を放つ。ただ救いだったのは、威力が10分の1以下にまで減少していたところか。特に力を込めたわけもなく叩いただけなので、良かったね。
衝撃波は遠くに行くほど減衰する。とりあえずほかの学生にはそよ風が届く程度で済んだみたい。ただ。
「ウホウホ(エレーナ、ごめんね。)」
「ハハ、気にするな。少し驚いただけさ。」
僕はエレーナに謝った。それを見ていたエリックが僕に向かって言う。学生にはただ黄色い子ザルが鳴いているだけという光景は微笑ましく見えるんだろう。
「キーキー(貴様は少しは自分の筋力を理解せんか。我のように長く生きた魔物に近い能力を持つのだから、それこそ一挙手一投足に気をつけんといかんのだぞ。)」
「ウホウホ(わかったよ。はぁ、練習しないとね。)」
説教を受けた僕は力なくうなづくと、今度こそ授業の邪魔をしないようにおとなしくする。と言ってもこれから僕は観察されるみたいだけど。
「ちょっとしたアクシデントがあったみたいだけど、みんなは気にしないで。それじゃあ、グラディスバルト嬢の従魔、アームコングのゴリ松君の観察を始めようか。
グラディスバルト嬢?大丈夫かな?」
「もちろんです。ゴリ松。あちらまで行って大人しくしていてもらえるか?」
「ウホ(了解。)」
僕はエレーナの指示通りに教卓のほうまで行って教卓の上へと座る。本来の体だと、ここに座った途端につぶれてただろうけど、首輪のおかげで体重が減っているので、大丈夫みたいだ。
エリックが平気なら、僕でも平気だろうと思ったから驚きはないけどね。彼も首輪をしているし、多分、大きな魔物なはず。
「キーキー(観察と言ってもテスが解説をしながら、絵を描かれたり、特徴をメモされたり、質問に答えたりするくらいだ。緊張はせんでいいぞ。)」
「ウホウホ(エリックもこれはやったのかい?)」
「キーキー(まぁな。我の場合はテスが質問に答えた故に面倒は少なかったが。)」
なんだ。エリックは少しだけズルをしたのか。まぁ、モンストル先生は個人的に聞いたとかそんなんで、エリックのことは詳しく知っていたのかもね。
「それじゃあ、まずは質問から入って、その後スケッチなどに移ろうか。とりあえず、僕の方から質問して、それをグラディスバルト嬢に翻訳してもらおうかな。」
「了解した。ゴリ松。頼むぞ。」
「ウホ(わかってるさ。)」
ということで、最初は僕への質疑応答からみたいだ。緊張はほぼないけど、答えちゃまずい内容はあるのかな?
「じゃあ、まずは君がどういうところで生活していたか教えてもらってもいいかな?」
「ウホウホ(えっとね、僕はエレーナの実家の領地にある賢者の森ってところで生活してたんだ。住処は森の奥地にある洞窟で――――)」
「ゴリ松がいたのは我が領地の賢者の森、森の奥の洞窟を住処とし――――」
先生がした質問を僕が答えて、それを同時通訳をしつつ、わかりやすいように変換して周囲に伝えるエレーナ、という三人で授業は進んでいった。
エリックは意外にも僕の生活に興味があるのか、モンストル先生の肩の上で頷きつつ聞いていた。
なんでも答えているけれど、賢者の森に人が殺到するとかないよね?あそこで僕みたいなやつは他にはいないし、無駄足になるんだけど。
エレーナにそう言ったら、そこは翻訳せずにこちらに向かって小声でこう言った。
「それで、グラディスバルト領に人が来るならそれでいいじゃないか。こちらは賢者の森にアームコングがいるなんて言ってないんだから、な?」
それを聞いて僕はエレーナもなかなかいい性格をしているんじゃないかと思った。
貴族っておなかが黒くないといけないのかなぁ。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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