第45話 魔物学①
日が長くなってきましたね。
「いらっしゃ~い!!!」
ガチャリと教室のドアを開けて、僕とエレーナが連れ立って中へ入ると、そんな声を掛けられる。声をかけてきたのは、金髪碧眼、やや長髪のイケメンで、学生服を着ている。
僕はそれにびっくりしてエレーナをかばう様に立ったのだけど、そんな僕にエレーナが笑いかける。彼女はこうなることが分かっていたのかもしれない。
「ククク、ゴリ松。そう警戒しなくていいよ。彼が魔物学の教諭のテス=モンストル殿だ。少々インパクトのある方だが、優秀な先生だぞ。」
「ウホウホ?!(あれが?!てっきりエレーナのファンの学生かと思ったよ!というか、魔物学の先生って、エリックの・・・ふぅん、こういう感じの人なんだね。)」
僕はエリックの下僕が意外にもイケメンであったことに驚いた。彼が認めて契約しているんだから、能力重視だろうし、神は二物を与えるんだなぁ。
「お褒めいただき、ありがとうございます、グラディスバルト嬢。驚かせてすまないね。少しだけ気持ちが先に行ってしまったんだ。」
モンストル先生?モンストル君?学生でもあるわけだからややこしいな。魔物学では先生だし、モンストル先生でいいか。
モンストル先生は僕に視線を合わせるようにしゃがんでから謝罪した。もちろん、僕はそれで許さないほど狭量ではないし、許した。ただ、少しばかりテンションが高く、今も興奮気味なのは気になる。
「ゴリ松は大丈夫だと言っています。それにしてもずいぶんテンションが高いですね。」
エレーナが僕の気持ちを代弁してくれたので、そのまま会話を傍観する。彼女からしても先生のテンションは気になったみたいだ。それに対してモンストル先生はなんてことないように返した。
「いや、君もわかっているだろう?自分の従魔について。この僕が興奮しないわけにはいかないじゃないか!」
モンストル先生はやはり興奮気味に立ち上がると、エレーナに迫らん勢いで詰め寄る。そんな行動に出るとは思えなかったので一瞬だけ対応が遅れてしまったが、僕は慌てて手を伸ばして先生の顔面を捉えて強制的に距離を取らせる。
「ウホ!(離れろ!)」
「イタァ!......なんて力だ。おっと、ごめんね。少し興奮しすぎてしまったみたいだよ。」
モンストル先生は掴まれたまま、エレーナに謝罪した後、僕にも謝る。なんていうか周りが見えない人間なのかもな。
エレーナも苦笑気味だけど、怒るというよりは困惑が強そうだ。僕はモンストル先生を放すとエレーナの前で腕を組む。怒っているわけではないが油断はできないと思った。
「それにしてもさすがは、ゴールドバックってところだね。私も生きている個体は初めて見たが、体感した感触としてはアームコングよりも数倍どころじゃない握力だ。弱い魔物程度なら、頭を握りつぶすくらい簡単だろうね。」
モンストル先生はさらっとそう言ったが、僕とエレーナは驚きで固まる。どうして僕の種族を正しく認識しているのだろうか。
あれ?エリックから教わったりしたのかな?
僕と同様に困惑したエレーナは表情に出ないように取り繕いながらも質問する。きょろきょろして周囲の様子を確認しながらでも、そういうのもできるエレーナはさすがだよね。貴族の令嬢だけある。
「あ、ああ。ところでモンストル殿はどちらでゴリ松の種族を知ったのかな?」
「そりゃあ、ね。僕は魔物学の教諭だよ?学園内の魔物についての情報はすべて回ってくるのさ。魔物学に関係している分野では学園長先生と似たような権限があるし。」
「だとしても学生のいる場で言ってしまうのは良くないのでは?」
「フフフ、そこら辺は考慮してるよ。そもそも学生はこんな早くにこの教室には来ないしね。君らが早く来るとは予測していたし、ジャックは今頃、待望のフレイちゃんに会いに行っているだろうしね。」
「そうですか。」
先生はジャックの行動まで想定しての発言だったらしい。まあ、それは僕もわかったし、難しい予測じゃないだろう。フレイやジャックのことを知っていればね。
ただ、この先生は簡単に言うが、学園長と似た権限とは、ずいぶん学園内での権力を持っているみたいだ。学生の身分でありながら先生をやっているのも、そう考えたら破格の待遇だよね。三物目だ。
「ウホウホ(彼もしかしたら、えらい人?)」
念のためにエレーナに確認の質問をする。ここまでの権力を持っている先生がただの貴族ってわけもないだろう。
「ん?モンストル殿が偉いかって?ウーン、ソウダナ。エライゾ。」
エレーナは肯定した。後半が棒読みだったのは気になったけど、その理由はすぐに判明する。他ならぬモンストル先生の言葉で。
「ハハハ、困るよね、そんな質問は。ゴリ松君、だっけ?君にわかるかわからないけれど、僕はこの国にある侯爵家の次男だったんだよ。そこは長男と仲良くできなくて飛び出したってわけ。
自分でも論文とか発表とかで男爵位を国王陛下に賜ったから、貴族ではあるんだけどね。」
「ウホウホ(ふぅん。なるほどね。)」
要は後継者争いに負けたとかそんなところかな。今のところ、この国の侯爵って学園に来る途中の領地の人しか知らないけれど、あそこかな?
僕がエレーナに視線を投げかけると、無言で頷く。きっと僕の疑問に思い当たったんだろう。
まあ、名前も忘れたし、あんな強欲な貴族の跡取りにならなくてよかったね。としか言えないね。それにこの人にはエリックが付いているんでしょ?今の方がきっと幸せだ。
「グラディスバルト嬢と一緒に王都に来たなら、実家の領地を通ってるよね。まぁ、僕はもうモンストル男爵だから、気にしないでくれよ。」
モンストル先生はそう言って笑った。どうでもいいけど、そろそろ教室の中へと入れてくれないかな。
「とりあえずモンストル殿。そろそろ中へ入りませんか?」
エレーナも僕と同じことを思ったようで、先生に提案した。すると、それを肯定するようにモンストル先生の後ろからも声がかかる。
内容を聞き取れたのは僕とモンストル先生だけだろうけど。
「キーキー(その通りだ。テス、貴様はいつまでそこで立ち話をしておる。そろそろ講義の時間だ。せめて中で話さんか。我の友人を立たせるな。)」
「え?友人?申し訳ない。ここがどこだか忘れてた。さ、中に入ってください!」
モンストル先生に促されてやっと中へと入ると、教室の中からかけたその声の主は教卓の上へとドカリと置かれたクッションの上に沈み込むように座っていた。
「キーキー(よく来た。楽にしろ。)」
「ウホウホ(いや、ここはエリックの部屋じゃないから。)」
僕のツッコミはむなしく響く。その次に発したモンストル先生の言葉によって。
「我が主よ、こちらの方が友人とは。無礼を許してください。」
「キーキー(うむ、許そう。)」
いや、もう立場が逆転どころか、モンストル先生は普通の従魔よりもめちゃくちゃ下じゃん!
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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