第44話 移動
オカメインコって言葉よりも音楽を覚える方が得意らしいです。
僕とエレーナは次の授業に参加するために魔法学の授業を行っていた教室から魔物学の教室へと移動している。
次に受けるのは、ぼくも気になっていた魔物学なので、その足取りも軽くなる。別に他の授業がつまらないってわけではないんだけどね。ほら、武術の授業では色々とあったし、魔法学に関しては授業内容自体が魔物向けではなかったからね。
すると必然的に一番楽しみなのは魔物学ってことになるわけだよ。
「ウホウホ(エレーナは魔物学の先生について知っているかい?)」
ぼくは移動の時間を利用して次の授業の先生について質問する。今までの僕が参加してきた授業では、いずれも先生が癖がある方々だった。
武術では高位の冒険者の先生で、なぜか手合わせをすることになってしまった挙句、叩きのめしてしまい変な目立ち方をした。数日たった今でも、あの時同じ場所で武術を受けたエレーナの同級生には、近づくだけで少々過剰なくらいに引かれるんだよね。
次に魔法学は、二つ名を持つほどの偉い先生に教えてもらえることは素晴らしいことなんだけど、彼自身が魔法が大好きで、それ以外見えない様な人の空気を醸し出していたので、正直を言えばあまりお近づきにはなりたくないと思った。エレーナが魔法学大好きっ子なので、距離を取ることは不可能だとあきらめているけれど。
そんなわけで、先生に対しては少なくない警戒がある。なので先に相手を知ることから始めるのだ。敵を知ることから始めるってね。
僕の質問にエレーナは快く答えてくれる。といっても彼女も知っていることは少なく、そもそも目立つ先生ではないらしい。
しかし、僕はその先生が警戒に値する先生であるということを知っている。だって、その先生、あのエリックの下僕なんだよ?
エリックは従魔連合のボス猿であるのと同時にこの学園の教師を配下に持つ、非常に珍しいタイプの従魔だ。形として従魔の格好をしているが、実は立場が逆だとは本人の談である。
そんな先生が待ち構える教室へと現在移動しているのだから、対策を練ることも必要な措置だと思う。
「えっとな、私も普通のことしか知らないぞ?それでも良いなら、教えるが。」
「ウホウホ(うん、それでいいよ。まあ、詳しく知れるに越したことはないけれど。)」
「そっか。まず、先生の名前はテス=モンストル。男爵だったかな?彼は元々平民で、学園での魔物の研究の成果によって叙爵するに至ったんだ。たしか、魔物が進化する条件に関する研究だったかな。だけど、年齢は17歳なんだよな。」
どうやらエリックの下僕は所謂、成り上がりってやつらしい。しかし、18歳ってことは学生なわけで、エリックは最高学年だと言っていた。
余ほど優秀じゃなければ、学生でありながら授業を持つことなどできないだろうし、すごいことだね。
「察しているだろうが、彼は非常に優秀な学生で、彼を慕う後輩も多い。先輩として後輩の悩みの相談に乗ってくれるらしいぞ。」
「ウホウホ(へぇ。そうなんだ。エリックもなんだか似たような性格だと感じたし、きっと似たもの同士が出会って従魔契約したのかもしれないね。)」
僕の予想というか、荒唐無稽な推測を言うと、エレーナは「そうかもな。」と言って笑った。エリックのことはまだ直接紹介してはいないけれど、それでも僕の説明でどんな魔物であるかは理解しているだろう。
エレーナがエリックのことに興味を示したので、エリックに派生して従魔連合について、これまで話したことが無かった部分を話した。
実は、さっきのジャックの足取りが軽い理由に思い当たるところが在ったんだ。
「ウホウホ(そう言えば、従魔連合にはいろいろな魔物が所属していてね。ゴブリンエリートやブラックドッグ、オーガ何かがいるんだけど、一人だけ異質というか、竜がいるんだ。)」
「竜だって?待ってくれ。なんとなく思い当たるところがあるぞ。」
エレーナは記憶の片隅にある竜に関する情報を引っ張り出そうとし出したので、その前に話す。
「ウホウホ(うん。その竜はフレイっていう走竜で、ジャックの従魔なんだ。)」
「あぁ!なるほど。...いや、そうか?そうかもな。」
僕がフレイのことを教えると、エレーナは何かに気が付いて考え始める。それも僕にはわかるので、先に答えを言ってしまう。せっかくだし、全部話したいのだ。
「ウホウホ(それでね、さっき、ジャックが急いで教室を後にしたでしょ?それってきっと目的があったからだと思うんだ。)」
もはや答えを言ったも同然だけど、エレーナは大人しく聞いてくれるようふぁ。今も答えに思い至ったはずなのに僕の話の続きを待ってくれている。
たぶん、答え合わせを兼ねているんだと思うけれど、そんな期待を込めた目で見ないでほしい。
「その目的とは?」
「ウホウホ(それはね!従魔を預けておく施設に向かったんだと思うよ。どうもフレイは自分の主人が好きでたまらないみたいだし、あの様子じゃ、ジャックもフレイのこと大好きなんじゃないかな。
僕もエレーナのことは気に入っているけれど、あちらは長年の信頼関係が深いとかそんなところじゃないかな。)」
僕とエレーナは出会ってから大して時間は経っていない。そう言う意味ではまだまだ新しい関係だ。
従魔としての契約はどう考えても浅い仲ではないので、負けているとかそういう話じゃないけれど、僕達もああいう関係になるといいなぁ、と思うよ。
エレーナは僕の話を聞いて、同じ気持ちになったのか、ぼくを抱き上げて目線を合わせると言った。
「時間は勝てないかもしれないが、私はゴリ松と深い信頼関係で結ばれていると思っているぞ!これからもこれまで以上に仲良くやれると確信している!」
まっすぐな瞳でこちらにそう宣言したエレーナに少々気恥ずかしくなってしまうけれど、それよりも嬉しいという感情があふれてくる。
ぼくはそんな彼女の頭に手を置いて、視線を外さずに返答する。
「ウホウホ(もちろんさ。僕だってエレーナは大好きだよ。そうじゃなかったら、まだ森の中でうろついていたと思うよ。そもそも、熊に勝てたのだって君のおかげだからね。)」
僕がそういうと、エレーナは破顔して、「そっか。」と一言だけ言った。それだけで、彼女が照れているのが分かる。視線もどこか泳いでいる気がして、少しおかしい。
くすりと僕が笑うと、エレーナはそれが面白くなかったのか、表情を曇らせる。なんだか、今日のエレーナは百面相だね。
そんな話をしていると、魔物学の教室に到着する。さぁ、先生はまだいないだろうけど、どんな授業か楽しみだ。
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