第41話 魔法学講義②
雪が降る予報で、降らないとちょっと残念な気持ちになります。
講義が始まってから数分、僕は暇になっていた。もちろん、魔法学の講義だけあって、なかなか難しそうなことをやっているというのはわかるのだが、そもそも初めて受けたのが6回生の後半の授業ということもあって、内容を理解することの方が難しい。
ただ、魔法を使う上での心構えなどは、大事なことなようで、何度も繰り返して教えているのか、僕以外は「またか...」というような顔をして聞いている。僕にとってはそここそが大事なんだけどね。
「え~、つまり、魔法の良い相性は、このように一通りではなく、複数通りあるということは理解したかな?」
マトル先生は、黒板に書かれた魔法の属性の相性をまとめた表を示しながら、説明していた。
魔法には6種類の属性がある。火、水、風、土、闇、光。ヒトはこれらのうち、1種類に適性を持つ。属性は幼いころに教会にて適性を調べることで発覚する。稀に2種類以上の適性を持つ人もいるが、そういう人物は教会から国へと報告がされ、学園に通うことを推奨される。
貴族であればそれ以上はないのだが、平民であれば資金的な援助や将来的な職業の斡旋など、その支援は多岐にわたるといわれている。
エレーナも国に報告された一人で、将来的には辺境伯を継ぐのとは別に、王国の魔導士になる可能性が高いそうだ。
現在、魔法学を受けている学生の中で、2属性の適性を持つのは、エレーナのほかにもう一人だけいるらしい。
それはジャック=クラウドという公爵子息で、金髪碧眼の美男子だ。The王子様って感じの見た目のイケメンで、前世の僕からしたら、月とスッポン級の格差を感じたよ。
それで、思い返したら、クラウド公爵子息って、どこかで聞いた気がしたんだけど、その答えはエレーナが教えてくれた。
「ほら、あれがクラウド公爵子息だ。従魔登録をやりすぎて規則を変えてしまったっていう。」
そういわれて、思い出したよ。領都グランディスで、僕が従魔として登録される際に面倒ごとになった原因だった。そんで、あれが走竜フレイのご主人様ってことだ。
良くない取り巻きにそそのかされてって話だったけれど、どうやら今は一人で授業を受けているみたい。良くない縁が切れたのかな。
ああ、話がそれたね。とにかく魔法の属性は6種類。僕はギルドカードを見る限りでは土に適性があるみたい。
それで、今日の授業の大事なところは次のところだ。その6種類には相性というものがあって、効果を高めたり相殺したり弱めたりする。中には特殊な反応をするものがあって複雑なんだ。
僕はエレーナに解説をしてもらって何とか大枠だけど理解したよ。
それによると、まず属性同士の相性は、火は風に強く水に弱い、風は土に強く火に弱い、土は水に強く風に弱い、水は火に強く土に弱い。光は闇に強く、闇は光に強い。
光と闇の関係は少々特殊なようで、相殺関係にあるとされている。ただ、どの属性も行使する魔法使いの技量によって覆すことが可能なのだそうだ。火は水を蒸発させることができるし、風は火を吹き飛ばすことができる。土は風を押しつぶせるし、水は土を流してしまうことができる。
このように属性の相性はあくまで対等な能力を持つ者同士の相性なだけなのだそう。まあ、どの属性も使い様ってってことなのかな。
今日の授業では、ほかの相性を学んだ。今までの内容は、相対した時の相性で、ここからは協力関係の場合の相性となる。
長くなってしまうのでいくつかかいつまんで説明を理解したのだけど、これはそんなに難しいことではなかった。要は義務教育レベルの理科の知識があればわかる内容だったからだ。
水を高温にすれば水蒸気が発生するとか、火に風を送れば火力が上がるとか、風に土(砂)が混ざれば物理的な危険を伴うとか、水に土を混ぜれば粘度が増すとか。
どれも少し想像すればわかることではあっても、この世界だと立派な学問なのだね。
他にもあるけれど、全部を説明していては時間がいくらあっても足りないので、ここでは割愛させてもらおうかな。
僕は大体を把握したあたりで、これ以上は聞いてもしょうがないかなぁ、と見切りをつけて自分のやりたいことをやることにした。
エレーナにももちろん許可を取って、エレーナの膝の上で全身に魔力を巡らす。魔素を操る練習だ。
「であるからでして、国に使える魔法使いは新人としての最初の関門として他者との魔法の合体を練習することになります。さて、――――」
マトル先生の説明をBGM代わりに僕は魔力を体から外に放出する。魔素を捕まえて操ろうとするもやはり、外に出た瞬間に魔力は霧散してしまい、捕まえるどころか触ることもできない。
うーん、何か違うのかなぁ。
僕は自分の何がいけないかを考える。すると、先生の声が耳に入ってくる。どうやら人間の魔法と魔物の魔法を比べる話のようだ。
「今日はグラディスバルト嬢の従魔がいますので、人間と魔物の魔法の違いの話をしましょう。
まず、人間は体内の魔力を体外に放出する際に魔法を形作り放出します。これは一般的に人間は魔物に比べて、魔力の放出する出口が広いためと考えられており、その証拠に魔物は体内の魔力で魔法を形作ることはできません。
であるなら、魔物はどうやって魔法を操るのか。諸君の中で従魔、いや、魔法を使える従魔を所持している方はいますかな?」
先生は学生たちに問いかけるが、だれも手を挙げることはなかった。エレーナは悩んでいたけれど、僕は技能としてはあっても使えるわけではないからね。正しい判断だよ。
先生は残念そうにうなづくと、解説を続けた。
「残念だが、しょうがない。正解は、体外に少量の魔力そのものを放出して、魔素を捉えて変化を促すんだ。
これは人間にはできないことで、人間の場合は魔素に耐性がないからだという研究結果が出ている。
私は魔物ではないので詳細はわからないが、魔素を操るというのは遠くで滴る色のついた水滴を掴み取るようなイメージなんだそうだ。」
僕はその話を聞いて、なるほど、と思った。なぜなら、今までの僕はたくさんある魔素を懸命に掬うようなイメージで何度もトライしていた。
しかし、先生が言うことが本当なら、そもそもが間違っていたかもしれない。
僕は魔素がたくさんあるものという漠然とした認識をしていたけれど、もしかしたら違うのかもしれない。
つまりどういうことかというと、魔力に属性という適性があるように、魔素にも属性があって、たくさんある魔素の中から、自分の属性の魔素を掴み取らないといけないのだね。
僕がマトル先生の言葉をヒントに魔素をつかもうとしたところで、授業終了の鐘がなる。どうやらこれで、魔法学の座学部分が終了したようだ。
「ゴリ松。何かつかめたかもしれないが、授業中以外で魔法を練習するのはやめとこうな。危険かもしれないから。」
エレーナにそう言われてはこれ以上練習するわけにはいかない。続きは次の魔法学の実技の時間にお預けだ。
休憩、というよりも、次の授業の準備時間の今は大人しく待とうじゃないか。
他の学生は思い思いに休憩したり、仲間通しで話したり、何だか物思いに耽ったり、エレーナの膝の上の僕を睨みつけたりと過ごしているしね。
最後の奴は騎士志望の一人だと明言しておこう。何かしたかな。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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