第34話 事の顛末
工具を扱うときは慎重にやりましょう。親指を指してからでは後悔は遅いですよ。
役所で行った手続きで、本来なら特にチェックもなく登録されるはずが、どうしてか男爵のチェックを受けなくてはならなくなった原因が、このフレイだったわけだ。
なるほど。どこかで聞いたことがあるなぁと思ったのはそう言うことだったのか。まあ、もちろんだけど、それに何か思うところがあるとかは一切ない。別にそれで大きな不利益を被ったという訳でもないし。
それに
「ウホウホ(でも、それは君にとって不本意だったんだろ?)」
フレイはそれに乗り気だったとは思えない。今少し話しただけでも賢く、その結果がどうなるかくらいは分かるはずだ。
そもそも、走竜を古代竜に偽装しようなんて普通じゃ考えないだろう。古代竜を見たことあるわけではないけど、そこらにいる走竜の少し珍しいバージョンがどこを間違えたら古代竜になるんだか。
「キーキー(うむ、フレイは落ち込んでいるが、仕方がないことであったと思う。我も下僕より聞いた話だが、どうもその主人の取り巻きが勝手にやったことであったらしいからな。)」
僕はそれを聞いて別のことが心配になった。だって、フレイが『従魔の種族を偽りで登録しようとしたとして停学になった貴族』の従魔だとしたら、その貴族ってこの国の公爵家の子息だってことなんだもん。
取り巻きごときを制御できない公爵子息って、危険すぎる気がするからね。そんなのが大人になったら大丈夫って保障がどこにもないもん。僕だったらごめんだ。
「キーキー(部下を制御できずに自ら停学を申し入れたというし、貴様の主人は見事であったと思うぞ。)」
「ガルルル(そうかなぁ。でも、あたしのせいじゃないとは言えないよ。)」
なんだ。公爵子息自体は意外に判断する力があるのかもしれない。まあ、止められない時点で落第といっても良いかもしれないけど、まだ学生だから良いのかもね。
「ウホウホ(僕も別に気にする必要はないと思うよ。だって、それで誰かに迷惑を掛けたってわけじゃないんでしょ?)」
「ガルルル(うん、それは大丈夫ってジャック様が言ってた。でも、最近会いに来てくれないし...。)」
そう言ってまた落ち込むフレイだったが、それはさっき散々言っていた停学だからじゃないか?ていうか、落ち込んでいる理由ってむしろそっちかな?
「ウホウホ(もしかして落ち込んでいるのって、ご主人に会えないから?)」
僕が意を決してそう聞くと、フレイは頭を力なく持ち上げて、消え入りそうな声で言う。
「ガルル(そうだけど。なんで?)」
本当に不思議そうに聞くフレイにその場にいた従魔は皆、こう思ったことだろう。
「「「「「いや、主人に迷惑かけたとかそういうんじゃねぇのかよ!?」」」」」
本当にみんながそう思ったのかはわからないが、僕はそう思ったし、エリックはなんだか震えている。まあ、彼も彼で心配していたみたいだから、原因が分かってホッとしたのと理由にイラッとしたのが混ざっているのかもね。
僕は気にせず、フレイに教えてやる。おそらくだけど、停学というものの意味を理解していないんだろう。そうじゃなきゃ会えないくらいで落ち込まない。
どうせ、迷惑かけた→嫌われた→会いに来ない、くらいに考えてしまったんだろうね。
「ウホウホ(停学ってしっているかい?)」
「ガルルルル(テイガク?なによ、それ?食べ物?)」
賢い魔物といっても教えてもらわなければ人間特有の言葉の意味は理解できない。そのことを僕はわかってはいても気付けなかった。エリックも同様だろう。彼は博識だけど、他者の知識までは理解していない。
僕は停学のおよその内容をフレイに伝える。細かい期間などはエリックが知っているかもしれないので任せるとして、およそだ。
「ウホウホ(停学っていうのはね。何かしらのルールに違反して結果として学校に来ないっていう罰則なんだ。君のご主人、えっと、「ガルル(ジャック様よ)」うん、ジャック様も今は停学なんでしょ?そういうこと。)」
できるだけ分かりやすく説明したけど、理解できたかな。僕の心配はよそにフレイはとてもショックを受けている。
それと同時に何か、答えを導いたのか目を見開いている。
「ガルルル(そ、それって!あたし、ジャック様に嫌われてない…?)」
どうやら自分の勘違いに気が付いたのか、嬉しそうだ。でも、どれくらいの期間、停学なのか分からないとあまり喜べないんじゃない?
僕がそう思って影ックに視線を向けると、エリックは複雑そうな顔でフレイを見ていた。周りの従魔も同じ表情なので、呆れた顔ってところかな。
「キーキー(フレイよ。まさか貴様がそんなことで落ち込んでいたとはな。まあよい。貴様の主人ジャックが停学になっているのは1週間だ。自分で科した罰とはいえ、軽罰であるし、時期から見て明日にはまた顔を出すであろう。)」
どうも停学はそろそろ終わりのようだ。ということは放っておいても解決した可能性は高かったってことだね。
まあ、集会所にしている厩舎の持ち主が暗いっていうのは良くないだろうから、解決してよかったね。
それにしても、従魔連合はいろんな従魔がいるけど、結局、リーダーであるエリックはなんの魔物なんだろう。
僕もアームコングってことにしているけれど、エリックは教えてすらしていない。大きい猿系の魔物ってことくらいしか分からないな。
こんなに賢くて物知りな魔物って珍しいだろうし、エレーナに聞けばわかるかもな。
僕がそんなことを思っていたら、授業の終わりを告げる鐘が鳴り、僕達も解散することになった。
さあ、急いで寮のエレーナの部屋に戻らなくちゃ。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」
 




