第30話 従魔連合
寒いと指つりますよね。
目の前の猿、なんかムカつくからエテ公でいいか。エテ公が偉そうに加えてやる、とか言っているが、そもそもこいつが何者か分からないので、僕には判断が付かない。とりあえず、エテ公の正体と従魔連合とやらの話を聞いてやろうじゃないか。
エテ公はその気配から考えてもとても強いとは思えないし、せいぜい森にいた豚どもレベルの魔物だと思う。その程度なら天地がひっくり返っても負けるとは思えないので余裕を持って対応してやれる。
「ウホウホ?(まず、君は誰なんだい?)」
「ウキィ?キーキキー(我か?我はエリックだ。従魔連合の王である!)」
エリックと名乗ったエテ公はどうやら従魔連合とやらのボスで、そんなボス自ら勧誘に来たということで僕はその従魔連合を小さい組織なのだと仮定する。そうじゃなきゃ下っ端が勧誘に来るだろう。
「うほぅ、ウホ?ウホホウホゥウホ?(ふぅん。それで?僕を勧誘するその従魔連合はなんなのかな?)」
「キーキー(従魔連合はこの学園に通う下僕が勉学に努めている際の寄り合いのような物だ。貴様も下僕がいなければ暇だろう?)」
なるほど、思っているような組織ではなかった。ただ、暇な時間を潰すための従魔たちの集まりって感じみたい。
よく考えれば、エリックは従魔の証を最初に示すなど賢い部分があるから代表をしているのだと分かる。他の従魔がどうか分からないが、少なくとも賢い者は少ないと見て良い。
「ウホ、ウホウホ?(なるほど、どこでやっているの?)」
「キーキー(場所は主に大型の魔物が暮らす厩舎が多い。奴らは自由に出歩けんからな。我らから出向いてやるのが慈悲というものであろう。)」
いちいち言い方が尊大ではあるがこの猿はエテ公なりに他者を思いやれる良い上司なのかもしれない。
ただ、ね。
「ウホゥウホウホ、グルルル(次にエレーナを下僕と言ったら許さない。分かったな?)」
エレーナに対して下僕という言い方をしたのは許せない事案だ。僕は彼女を友と思っているし、立場上はご主人様だ。それを侮られてはさすがに見過ごせない。
「...キーキー(...すまなかったな。貴様の主人を侮辱する発言ではなかった。我と下僕の関係は特殊であるとは忘れてはならないことである。重ねて謝罪する。)」
エテ公は僕の唸り声に驚いただけで、少しの逡巡の後、素直に謝罪した。こういったことで冷静に対処できるエリックはやっぱり賢いね。
それに僕の威嚇でほとんど気圧されなかったってことで、戦闘力も少し上方修正しても良いと思う。
「キーキー(それで?貴様は従魔連合に参加するか?)」
改めて聞かれたその質問には僕も悩む。
従魔連合がただの暇つぶしのための集まりだとはすでに理解することはできた。ただ、それが変化しない理由も無いしどうしようか。
質問されてから少しだけ考えた後に答えを出してエリックに回答する。
「ウホ、ウホゥ(うん、いいよ。)」
僕の答えはYESだ。どうせここにいても暇だし、大型の魔物であれば僕と遊んでくれるのもいるかもしれない。一番大きいのは従魔って存在が他はどうしてそうなったのか気になるってことだろうな。
僕はエレーナとつながりができたことで従魔と成ったけど、本来は戦って負けたり餌付けされたりして従魔になるらしいからね。あ、でも、エリックは立場が逆転しているみたいだし、本人が言うように特殊かもしれない。
「キーキー(そうか!嬉しいぞ。我は貴様を歓迎する。して、名は?)」
「ウホ。ウホウホ。(ゴリ松。よろしくね。)」
僕はこうして従魔連合という組織に加入した。実際は井戸端会議みたいなものだろうけど。
まあ、何かあれば僕はさっさと抜けるつもりだし、気楽に行こうかな。
「キーキー(さて、今の時間は貴様の主人も学びの時であろう。我らの会合は現在も開かれている。参加しないか?)」
「ウホ!ウホゥ(いいね!楽しみだ。)」
「キー(それではついてくるがいい。)」
エリックはそういうと、窓から飛び降りて外を歩き出す。僕もそれに追い付くために窓を開けて飛び降りる。たいして高くないので危険ではない。
さぁて、どんな魔物が居るのかなぁ。
***
エリックに先導されて辿り着いたのは牧場のような場所だった。学校の敷地内にこんなところがあるっていうのは不思議だけれど、ファンタジー世界ってことだけで納得はできてしまう。
ここは学生が契約した従魔の中でも大きいサイズの物がいる場所で、僕みたいに首輪で小型化することを拒んだ場合に滞在させられるらしい。
エリックは自分はここに入るのが嫌で腕輪をつけた、と言いながら見せてくれる。どうやらエリックも本来は大きな種類の魔物みたいだね。
「キーキー。キー!(ここが我らの集会所である。みんな!集まってくれ!)」
エリックが集合の号令をかけるとその場にいた魔物がほとんどこちらへと向かって歩いてくる。どうやら本当にこの猿がボスの様だ。実を言うと少し疑っていたのだけど、口に出さなくてよかった。
「グギャグギャ(エリック、ヨウジ、ナニ?)」
「ウォン(ナニ?)」
「グラァグルルル(エリック殿、何用でしょうか。)」
集まってきた中でも言葉に意味があったのがこの三体だ。集まってきた魔物は20体以上いたが、その中で3体はやはり少ない。賢い魔物が少ないというのは本当だな。
「キーキー(うむ、今日より、このゴリ松が我らの連合に加わる。)」
「ウホ(よろしく)」
「キーキー(彼は新たに加わった仲間であるが四天王の最後の一角を埋めることができる知能を持つ。今は保留ではあるが、今後はくれぐれもよろしく頼むぞ?)」
俺の商会の最後に変な言葉があった。『四天王』なんだそれ?
今目の前にいる猿が王だとすれば、集まった賢い魔物が四天王のうち三人、そんで最後が僕ってことかな?そんな立場いらないんだけど。
「ウホ(四天王なんてやらないよ?)」
「キーキー(まあ、気にするな。発破をかける意味もある。)」
エリックはそう言ったが、誰に掛ける発破なのだろうか。まあ、いいか。
「ウホウホ(ゴリ松です。よろしく。種族はアームコングってことになってる。ご主人はエレーナ=グラディスバルト。)」
僕は簡単に説明する。詳しいことは言っても仕方ないし、これくらいで十分だろう。エレーナの名前を出したのは僕の主人を害すれば容赦しないという表明である。
「キーキー(うむ、それでは皆も自己紹介をしようか。)」
エリックの言葉に四天王の端から一人ずつ自己紹介が始まる。それ以外の魔物はそこまでの知能が無いんだろうね。
とりあえずは名前と顔くらいは覚えて帰ろう。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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