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第29話 文字の練習

近場で雪が降り始めました。


なんやかんやと色々あったが、無事に武術の授業を乗り越えた僕は、現在、エレーナの寮の自室で暇を持て余していた。

エレーナと共に武術の授業を辞してから翌日、次の日にエレーナが授業に向かった時に置いて行かれたのがここだったということもあって仕方がなく滞在している。まあ、行動を制限されたわけじゃないから別に不便はないんだけど、従魔が出られない授業の時は毎回こうして大人しくしてなきゃいけない風習はちょっとめんどくさいよね。


「うほぅ、うほほうほぅ(暇だし、文字の勉強でもしようかな。)」


僕は独りつぶやくと、御父上であるグラディスバルト辺境伯から貰った文字の練習用の本をエレーナの荷物の中から取り出す。僕の便利なあの鞄は今、たくさんの魔物素材や熊などでいっぱいだから、一緒に本を入れるのは躊躇したんだ。


そう言えば、熊を僕の服に加工するっていうのはどうしようかな。次のお休みの日にでも行くのかもしれない。他の素材も処理したいし、冒険者ギルドってところで買取をしてくれるみたいだから行ってみたいなぁ。エレーナに頼んでみよう。


それはさておき、とりあえずは文字を覚えなくちゃ。文字さえ扱えるようになれば、エレーナが一人で授業を受けている間も行動の幅が広がる。幸運なことに僕みたいに学校が販売している首輪をつけていれば、誰かの従魔だと分かるので、危険視されないらしいし。


本を開いた僕は早速、文字を覚えるのを開始する。前に森の中で拾った教本は、エレーナ達に教えてもらった様にお嬢様用の物で、書き言葉が女性風であったらしく、それを矯正もしたいんだよね。

僕みたいなゴリラのオスが『わたくし』とか言っていたら、さすがに気味が悪いと思うでしょ?少なくとも僕はそう思うね。


『紳士のための文字学習』と題された本を開くと目次を読みつつ、自分がすでに覚えたところまでを復習も兼ねてぺらぺらとめくりながら進む。


「ウホホウホ、ウホ、ウホホゥ(コレがオオカミで、こっちが、挨拶をする)」


正直、どこで使うのだか分からない言葉までがリストアップされているので、取捨選択は大事だと思うが、そういった中に突然、助詞が含まれていたりするので下手に読み飛ばすこともできないのだ。

これは中世レベルよりちょっと上程度の印刷技術があることで、増刷することはできても編集をするには大きなコストがかかるなどの理由があるんだってさ。


そうこうして文字を練習しつつページを進めると、やっとのことで前に練習したところまで復習を終えると今度は新しい単語を練習し始める。


この本は主に、絵と文字を組み合わせることで覚えていくというスタイルの学習本だ。僕は一つずつ絵を読み解きながら文字を覚えていく。ここで覚えた文字をエレーナと会話をしながら答え合わせをすることで、知識として蓄えていく。

もちろん、絵なので誤った意味を覚えてしまうこともないわけではない。なので、覚える際はおそらくそう、というくらいで記憶しておくのがコツになる。


今日最初の文字は、絵を見ることでパッと思いつくのは、男性だということだ。絵の髪型から判断しても間違いないだろう。ただ、それだけじゃない気がする。

男性は剣を持って鎧をつけている。だけど、その鎧は金属の鎧には見えないので、森でもたまに見た皮鎧だろうか。

さらには男性は腰ベルトに袋をつけているようで、何かを入れているということが分かる。

このことから推測すると、この男性は冒険者で、文字は「冒険者」と示しているのだろう。


次は...これは棒だろうか。特に装飾が描かれているというわけではないが、よく見ると中ほどが膨らんでいるような気がしないでもない。それから推測できるのは槍なのだけど、槍というには少し違和感があるかもね。

じゃあ、これを現す最適な言葉はなんだろう。僕が知っている物とは限らないのだから、少し考えを巡らそう。

うーん、棒だけど、中ほどが膨らんでいる。しかも、これは木のこの笠みたいな膨れ方じゃないかな。

さて、そこから導かれるのは、槍は槍でも...



***



と、文字を覚えるのに集中していると、部屋の外からキーンコーンカーンコーンという、the学校のチャイムって感じの音が鳴り響いて、本日の講義のいくつかが終了したようだね。

集中し過ぎて途中何度か見逃したかもしれないが、外の日の高さを見れば大体の時間は分かる。これでも森での暮らしをしていたからね。あと一コマは授業が残っているはずだ。


僕はもう少しだけ集中して本を読もうと手元の本に視線を落とそうとすると、その直前に窓の外で何かがこちらを見ていることに気が付いた。


それはどうも、小さい猿の魔物のようで、ここにいるからには誰かしらの従魔だと思うのだが、とりあえず僕はエレーナに教わった従魔を見分けるための動作を行う。


僕が手を挙げるとそこに従魔契約の証が浮かびあがり、まるで印籠のように猿に示された。猿はその意味を理解したようで、何度も頷いてこちらに掌を見せてくれる。

猿の魔物は頭が良くずる賢いとはよく言ったもので、本当に賢い魔物の様だ。僕みたいな特殊な例を覗けば、よほどしっかりとしつけられているのだろう。


「ウキキィ、ウキィ(コレでいいか、ほらよ。)」


「ウホ!?(喋った!?)」


僕は猿が喋ったことでつい驚きの声を出してしまった。だけど、僕は馬とも話せるのだからおかしなことじゃないよね。


「ウキィ、ウキキキウキィキキ(喜べ、貴様を我が従魔連合の一員に加えてやる。)」


猿は僕が驚きから立ち直ると、そんなことを言いだした。


いや、まずは自己紹介からじゃない?










拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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