第2話 異世界!?
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そこに現れたのは、見るからに柔らかそうな半透明で青っぽい玉だった。プルプルと震えているそれはどう見てもひとりでに動いていて、生き物の様な感じさえする。
これはまさか、まさかそうなのか!?
こいつはもしやスライムじゃないのか?
プルプルと震える柔らかい球体にどこか見覚えのある色。そして風の向きに反して動くことから生きていると考えれば、おのずと答えは出る。
スライム。それはファンタジー作品では主に最初の雑魚キャラとして出現し、数多の勇者の経験値となってきた。まさしく定番モンスター。中には強キャラ設定の時もある、実に憎めない奴なのだ。
僕も入社するまではラノベにゲーム、同人誌と様々な媒体でスライムには世話になってきた。オタクをしていれば一度はお目にかかったことがあるような、そんな存在。
そこで僕は悟る。
ああ、ここは異世界なんだ。
と。
僕の知っている常識ではスライムは命があるようなものじゃないし、風に逆らって進むようなことももちろんしない。
どうやら僕は別の世界にきてしまったのだな。
僕はウホウホノシノシとスライムに近づいて行く。ここが異世界で、モンスターがいるのなら、レベルとかステータスとかあるのかもしれない。
こう言ってはどうかと思うが、このスライム、殺してみよう。
殺せばもしかするとレベルが上がるかもしれないし、何か声が語りかけてくるかもしれない。まあ、殺しても咎められることも無いだろうことも、こんなことを思った大きな要因だ。
さあ、やるぞ。
僕はナックルウォーキングで使っていた右腕を大きく振り上げてスライムへと勢いよくたたきつける。
「ウホッ!」
ブオンと勢いよく音がなった僕の右腕は、僕の想像よりも数倍の勢いでスライムへと直撃し、断末魔と共にその体を飛散させた。
「ピギー」
スライムの情けない声を聞き流して僕は自分の右腕に付いてしまった液体を振り払い、何かが聞こえてくることを待ってみる。
***
数分を過ごしたところで何も変化が無かったので、残念に思いつつもまあ、スライムじゃあ、変化が起こるわけもないかと諦める。
それならまずはステータスとかを確かめる方が先だったな。
「ウホウホ(ステータス)」
考え通りに声にしてみたが、そう言っても変化はなく、やはりそう言うのも無いのかと、うなだれる。
ただでさえゴリ松なんて呼ばれていた僕が、本当にゴリラになって、それが異世界で、どうしたら報われるんだろうか。すこしはファンタジーにしてくれてもいいじゃないか。
はあ、いじけていてもしょうがない。
僕は今回の人生では、自分の好きなことだけをして生きていくんだ!
ん?働きたくないとは言わないさ。もしかしたらいい条件で雇ってくれることもあるかもしれないしね。
*****
そんな希望を胸に森の中を彷徨ってから10日が経ったが、結局は今も彷徨い続けている。
なぜかこのゴリラの体は人間よりも非常に丈夫で睡眠も絶対に必要というわけではないらしい。
途中何度か寝たが、それでも最低でも三日は寝ずに行動していた。
この10日間でわかったことはいくつかある。それはこの体のことだったり、この世界のことだったりするが、一言でまとめると、ファンタジー、ただそれだけだ。
ファンタジーが良い、なんて言った僕が言うのは違うかもしれないが、もう少し別のファンタジーがよかったなぁ。
どうやらこの森に生息する動物は、スライムを含めてみんなファンタジーでは定番のモンスターばかりの様だった。
僕が今寝床にしているのは、なんだかんだで見つかった洞窟なのだが、位置としては森の最奥の崖下にある。幸い、先住民などはいなかったが、少しばかり狭かったので穴を広げてリフォームした。前職でそう言うことにも携わった経験が生きたな。
食事は主に木の上の方に生っている果物で、リンゴやブドウなど地球でも割とよく見るような物ばかりだった。
中には猿と木の上でかち合うこともあったが、僕を見るやいなや逃げていったので襲われたことはない。
他にも遠目に見て逃げられたモンスターが数種類いたが、理由が分からなかったので放っておいた。
他に判明したのは、この世界に存在する不思議な力だ。僕はこれを仮に空気中にある物を魔素、体の中にある物を魔力として呼称したのだが、この世界の動物はこれを息と同時に吸ったり吐いたりして体の中で循環しているっぽい。
それは僕も例外ではない。だがしかし、その量が他よりもだいぶ多いようなのだ。
この魔力ってのが一番ファンタジーっぽいものだが、気づいたのは偶然だった。ここまでの生活で水場も見つけて自分の顔を確認したが、その時、ゴリラの顔が纏うように何かを見たのだ。
それを見てからはスライムやそれ以外のモンスターにも魔力を見えるようになったので何かが鍵だったんだろう。
そんなこんなで僕の10日間は意外に平和だったというのが総評にはなるが、これでいいのだろうか?
まあ、どうせゴリラだし人間の様に忙しくする必要もないか。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」
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