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第26話 武術講義①

朝より夜の方が手が進みます。


エレーナと学園に戻った日の翌日、僕はエレーナの勉強に付き合って朝から講義に出席していた。

ベルナ王立学園では、4日間の講義日に各90分5時限の計20コマの講義が行われる。その講義では、学生本人が自分の好きに時間割を組み立てることができるため、同級生でもあまり同じ授業にならないこともあるらしい。


現在エレーナが出席している講義は武術の授業で、これは運動場で行う講義であるために僕のような従魔も伴って出席することができるみたい。

各種ある講義の中でも従魔も参加が可能なのは、この武術の講義と魔法学、魔物学の三つで、これ以外は座学であるために参加資格は得られないんだって。


「それじゃ、火の日の1コマ目だけど気を引き締めて講義を行っていくぞ!」


「「「はい!」」」


僕にも参加する資格を与えられるとは言っても、本当に混ざってしまったら、けがをさせる可能性もあるのでそれはしない。


先生の声に返事をする学生たちは、大体、20人くらい。正直何のために在るのか分からない、一学年のクラスの数よりも少し少ないくらいなんだって。

武術をやるっていっても、格闘する訳ではなくて、剣や槍などを使って戦うことを学ぶ様で、貴族や平民の区別が無い講義らしい。


「それじゃ、とりあえずは近くの者同士で組んで体操から行う。週の初めというのもあるが、怪我しないように入念にな!」


先生は慎重に柔軟体操などを指導していく。どうやら、この世界でも事前に準備運動をするということが大事なことであると広まっているみたいだね。

急に運動したり動いたりすると足を攣ったり大きな怪我をひきおこすかもしれないからね。


先生が言った通りに学生たちは近くの学友と組んで準備体操を開始した。この講義は男女混合の講義であるが、ここでの組み合わせは男女を分けて行うみたいだ。

エレーナも近くにいる女子生徒と組んだみたい。


さて、僕は何をしていようかな。エレーナ達と同じように準備運動をしながら考える。


組手に参加することはできないし、指導するほどの腕も無い。そもそも言葉が通じないのでどうしようもない。エレーナにはとりあえず観察したり、エレーナのことで気が付いたことがあれば教えてくれとは言われた。だけど、それって先生の役目だよね。


僕がそうやってテキパキと準備運動をこなしながら考えていると、先程まで学生たちが準備運動するのに合わせて手本として前で準備運動していた先生がやってきた。


「ほぉ、グラディスバルトの従魔は準備運動をするか。なかなかに賢い従魔を得た様だな。」


そう言って近づいてきた先生に僕は視線を挙げて顔を見上げる。どうやら学生の準備運動はすでに終了して次に移ったようだ。次はランニングみたいだね。


「ふむ、見たところアームコングのようだが、首輪をつけているところを見る限り成体か。階位は2か3ってところだろうな。なかなか強力な従魔じゃないか。」


先生は僕が見つめるのも気にせずに、僕の観察を続ける。だんだんと見られているのがうっとうしくなってきたので、僕はエレーナについて走ることにした。一緒になって走るくらいなら大丈夫だよね?


「ウホ!(じゃね!)」


「あっ!行っちまった。少し見過ぎたかな。」


僕が視線を嫌がったのに気が付いた先生が少し反省しているみたいだけど、次から気を付けてほしい。

エレーナから聞いた話だと、従魔を得ることができても賢い従魔や階位の高い従魔は得ること自体が難しく、僕は好奇の視線に晒されるかもしれない。ってさ。

視線が集まるとあまりいい気分ではないけれど、これくらいであればまだ耐えられそうだと思うし、次はもう少しだけ我慢しても良いかもしれない。

実は見られている内に反対にこちらも観察をさせてもらった。それくらいは許されるだろう。


これからは僕を観察するなら、観察されることも覚えておいてほしいね。言葉が通じないから忠告はしないけど。え?文字を書けばって?面倒じゃん。



僕は先生の視線から逃げた後、エレーナが走っているところに追い付いて並走する。さすがにレベル6ゴリラの脚力なので、刺して疲れることも無く追い付いて並走できる。


すると僕に気が付いたエレーナが息を切らしつつも話しかけてきた。エレーナの周囲には現在他の生徒はいないのでちょうどいい。


「ハァハァ、どうしたゴリ松。見学するって話ではなかったか?」


「ウホ。ウホゥ。ウホウホ。(うん。そのつもりだったんだけどね。先生の視線がさ。)」


僕はそう言ってチラリと先生の方を見る。


「ハァハァ、ククク、あの先生は元々冒険者だったから魔物にも詳しい。アームコングが従魔になったことに素直に驚いて気になったんだろう。」


「ウホゥ?(そうかなぁ?)」


それからはエレーナと二人で並走したり、エレーナと組んだ女の子を励ましたりとしながら、ランニングを終わらせた。

どうやら時間で終わるタイプのランニングだったようで、トップ集団にいたエレーナと後ろの方にいた生徒で違う距離でも同じ時間を走ったみたいだ。


「よぉし!それじゃ、疲れているだろうが、汗が引かないうちに説明を開始してしまうぞ。しっかりついて来いよ!」


先生は汗を流している生徒に向かって追い打ちをかけるように次にやることを説明していく。

きっとこの準備運動は年齢に合わせて難易度を上げているのだろう。そうでなければ、入学当初からある武術の講義でここまでへとへとになるはずもないからね。


「次に行うのは、二人一組での組み手だ。組手なので武器は使わずに素手のみでの試合となる!

毎回言っているが、素手での戦闘は誰であっても疎かにしてはならない分野だ。例えば魔法使いでも、魔力が尽きて何も出来なくなったらそれで死んでしまう。それは戦士でも同じで、武器を失えば何もできないなんて笑い話にもならない。

だから諸君には少しでも生存率を上げるために素手での戦闘も学んでもらっているのだ。それじゃあ、はじめぃ!」


先生の号令で即座に地面にへたり込んでいた学生たちが立ち上がり、ペアを組んだ人と組み手を開始する。

エレーナもペアの女の子と組み手を開始したので、僕はそれを観察して指摘しようと座ろうとしたら、そこに先生が近づいてきた。


何の用だろうと思って見上げると、先生は良い笑顔でこちらを見て、口を開いた。その内容には少しばかり驚いたけど、暇つぶしにはなるかもしれない。


「なぁ、ゴリラくん。君もここで見ているだけでは暇だろう?どうだ?あちらで俺と運動ケンカしないか?」


ちょっと物騒だけど、確かに暇だしそれもいいかなと思う。エレーナの素手での組み手は特に僕が言うことも無いので見ている意味もなさそうだからね。


「ウホッホ!(いいよっと!)」


僕は地面に肯定の文字を書いて先生に示す。それを見た先生は一瞬だけ目を見開いていたけど、すぐに持ち直した。


「へぇ、文字を理解するアームコングか。おもしれぇ。首輪は外せないが、楽しくなりそうだ。」


こうして僕は初めて参加する講義で先生と試合をすることになった。今にして思えばずいぶん目立つことをするけど、まあ、エレーナが目立つ存在だし、これくらいは許容範囲かな。













拙作を読んでいただきありがとうございます.


「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」


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