第24話 学生寮
昼間も寒くなってきましたね。
馬車の荷物が運び終わってから、一息つくことになって、王都では使われてない、御父上の執務室でお茶をすることになった。
「お嬢様、ゴリ松様、何か御用がありましたら、そちらのベルでお呼びください。」
「ああ、よろしく。」
「ウホ。(よろしくね。)」
僕達にそんな声を掛けてから部屋を退出していったのは、この王都邸を管理する執事さんで、王都での情報収集役も兼ねた優秀な人物らしい。
見た目はロマンスグレーのイケオジって感じだし、その身にある魔力からしても結構な強さを持っていることが分かる。
そんな彼が用意してくれたのは、まずはエレーナには紅茶とお茶請けのケーキで、僕にはミルクとバナナだ。
そう、バナナなんだよ。僕が前世ではゴリラに似ているというだけで恵んでもらっていた大好物のバナナだ。
エレーナには冗談で三食バナナ付きなんて言ったけど、本当に出てきたことで、アレを叶えてくれようとしていることに感激だ。
「うほほ~♪(バナナ~♪)」
「ハハハ、上機嫌だな。ゴリ松には荷物を運んでもらったし、約束したわけだしな。バナナを手配してもらった。遠慮なく食べてくれ。」
「ウホ。ウホゥ。(うん。ありがとう。)」
僕はエレーナにお礼を言ってバナナを手に取る。それは少しだけ僕の知っているバナナとは違って、色はオレンジ色で、少し皮が堅い。どうやら異世界であるが故の変化があるのかな。
皮を向いてその身を露出させる。皮ごといっても良かったけど、やっぱり最初は一番おいしい食べ方をしたいじゃないか。
露出させた身は、僕の記憶に違わず真白で、うっすらと線が入っている。僕はそれに溜まらずかぶりつくと、味わって咀嚼する。
「あ~むっ、もしゃもしゃ」
色や皮の堅さなどは記憶と違かったために少々不安はあったけど、味は記憶にある通りのバナナだ。ひと噛みごとに口の中に甘さが広がって満足感で満たされる。
ごくりと飲み込んでミルクで口の中をゆすぐように飲み込むと、フゥーっと一息吐いて落ち着く。
そんな僕の様子を見てエレーナは面白そうだ。
「ゴリ松は本当にバナナが好きなんだな。」
「ウホ。(うん。)」
どうしてそんな当たり前のことを聞くのかと少し疑問に思う。だってゴリラはバナナが好きっていうイメージがあったからこそ、前世では恵んでもらっていたんだもんね。
そう思って不思議に思って首を傾げると、エレーナから衝撃の、というほどでもないことが告げられる。
「だって、賢者の森にはバナナは無いだろ?どこで好物になったんだ?」
「ホ?ウッホ、ウホ、ウホウホウホゥ。(え?えっと、昔、冒険者が持ってたものを拾ったんだよ。)」
「ゴリ松はまだ一歳なのに?」
うっ、痛いところを突かれた。確かに僕はまだ一歳だってことが判明したので、これは僕がうかつだったってことだね。
ぼくが、うーんと悩んでいると、エレーナが笑って流してくれた。
「フフフ、すまんすまん。困らせてしまったな。ゴリ松は魔物と思えないほど賢いし、きっとそういう機会があったんだろう。
グラディスバルトではあまり取れないが、王都では専門の農家がいるほどによく収穫される果物だ。安心してくれ。学園でもバナナとオレンジは食堂で手に入るからな。」
「ウホウホ。ウホゥ。(そうなんだね。嬉しい。)」
僕は内心の焦りを出来るだけ表さないように落ち着いて返す。僕の前世のことなんかは誰にも話すつもりは今のところない。話したところで信じてもらえないだろうし、話さなくても問題ないからだ。
いつかエレーナには伝えたいと思うけどね。
こんな感じで会話をしつつもお茶を済ませた僕たちは、漁での生活に必要なものだけを再び馬車へと詰め込んで、エレーナが通う学校、ベルナ王立学園に向かうことになった。
***
そうして馬車で進むこと数分、王都の街並みを窓越しに見学していると、エレーナに声を掛けられる。
「ゴリ松、横ばかり見ていると、見逃すぞ?」
エレーナがそう言ったので、横野場度から目を離してエレーナの方を向く。荷物がすっきりとした馬車の内部は整然としていて王都まで来るさいには使えなかった窓が使えるようになっている。
前方の窓もその一つで、そこにはエレーナの着替えを詰めた鞄があったために前方は見えなかったのだ。
「ウホウホ?(何があるのかい?)」
僕はエレーナに聞くと、彼女は少しだけ自慢気にその先にある物を教えてくれた。
「この前方に見えるのは我が国の最高指導者、国王陛下がおられる王城と、それよりさらに向こうにある王立学園だ!」
「ウホゥ。(なるほど。)」
僕はそれがすごい者だと分かっても実感が無いので、リアクションはできない。少し薄い反応だったけど、エレーナは気にも留めずに説明してくれる。僕は近くなった城を見るのに飽きて横窓に視線を移しつつ話を聞く。
「国王陛下は我が国の魔導士の中でもより珍しい4属性の魔導士だ。私が敬愛している方でもある。まあ、魔導士で陛下を憧れない者などいないだろうがな。
そしてそんな陛下が作られたのが、私が通うベルナ王立学園魔法科でもある。そんな経緯もあってか、魔法学は非常に人気の講義で、倍率がすごいんだぞ?」
エレーナは興奮気味で語っているが、僕はそんなに興味が無いので申し訳ない。ただ、話を聞く限りでは、ベルナ王立学園というのは、前世で言う大学のように講義を選択して単位を取るという感じの様だ。
「魔法学は、私のように魔導士や魔法師に優先権が与えられる。それ以外が受けても身体強化くらいにしか使えない知識だからな。それでも希望者が溢れるんだよ。すごい人気だろ?
ただ、これを教えている先生は少しばかり噂のある先生でね。噂はあるのに確定情報が少ない方なんだ。」
「ウホ。(ふぅん)」
興味は無いので流して聞いていたが、最後に変なことを言う。噂があるのに分からない?どういうことだろう?
僕が質問しようとエレーナを振り返ると、馬車が止まる。どうやらここまでの様だ。
「中途半端になったが、続きはまた今度。到着したみたいだ。ゴリ松、荷物を持ってくれるかい?」
「ウホ。ウホウホ。(うん。了解。)」
僕は馬車を下りるときに忘れないように荷物を担ぐとエレーナに続いて馬車を下りる。小さな体でも力はそのままなので、たくさんある荷物もへっちゃらだ。
「さて、と。ゴリ松。ここが私が暮らす学生寮のある学校。ベルナ王立学園だ!」
そう言ったエレーナの背後には大きな壁と豪華な柵で仕切られた正門があった。きっと王様が発起人ということもあって見た目にもこだわっているんだと思うけど、すごい迫力だ。
少し気おされながらも僕はエレーナについて行く。
エレーナの学び舎であると同時に僕の生活の場にもなるのだから、気を引き締めて行こう。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
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