第22話 関所通過
給湯器が壊れて風呂が使えず凍えそうです(笑)
評価いただきありがとうございます。
僕達の前に現れた男、フール子爵はエレーナに向けて下卑た視線を向けつつも、さも当然というように馬車の中を検めようとする。
その魂胆は僕には予想がつかないけれど、エレーナと御者の兄ちゃんは分かっているらしく、面倒臭そうだ。
グラディスバルト領と王都の間に存在する領地は、ナントカ侯爵というパールベルナ王国の中でも古い貴族の領地だけなのだそうだ。
そんな由緒正しい領地の関所にこんなワケの分からない肥えた豚が担当していていいのだろうか。
とりあえず僕は、エレーナを背中にかばった状態でフール子爵が前に進めないように手を広げる。僕は身体が小さくなっているといってもゴリラ特有の長い手があるので、馬車の入口をふさぐことくらいは可能だ。現に子爵は中に入ろうとしてもできずにいる。
「ええい!なんだこの猿は!グラディスバルト嬢、従魔の扱いはしっかりしてもらわねば困りますな!」
「何を言っているんだ。しっかりと務めを果たしてくれているじゃないか。」
フール子爵の言葉にエレーナは得意気に言った。僕は自分がしたいようにしているだけだから、役目とか役割とかって考えてはいないけれど、これで良かったみたい。
言われた側であるフール子爵は、最初はどういうことを言われたのか分からなかったみたいだけど、徐々に理解して顔を真っ赤にして憤る。
どうでもいいけど、ゆでだこみたいだね。体は豚だけど。
「んな!?なっ?!何を言うか!それは私がまるで不埒者だとでも言うのか!」
意味を理解したフール子爵はその腹を弾ませながらも地団太を踏んで起こっている。馬車のすぐそばでやっているので、地面を足が揺らして馬車まで揺れている。
エレーナも揺れを感じて不快に思ったのか、美しい顔を曇らせて不快感を現しているね。怒っている子爵はそれに気が付いていないけど、御者の兄ちゃんは気付いたのか慌てて御者台の荷物を漁りに行った。何かを取りに行ったみたい。
「さて、先程あなたが言ったことに対する返答だが、ゴリ松は私の従魔だ。役所でもきっちりと登録をしてあるのだ。」
「そっ、そうですか!であれば最初からそう言えばいいじゃないですか!私を愚弄して侯爵が黙ってはいませんよ!」
フール子爵は少しだけ威勢がくじけた気がしたけど、それでもエレーナに食って掛かる。そもそもどうしてこの人は僕達にちょっかいを出しに来たんだろうか。
「ウホウホ、ウホ?(ねえエレーナ、どうして絡まれているの?)」
「それはな、っと。トムが返ってきたな。」
僕の質問にエレーナが答える前に御者の兄ちゃんが帰って来て子爵と話し始める。その手には小さな袋があって、中身は見えないけど、僕の優れた聴覚で音は聞き取ることができた。硬貨だ。
きっと賄賂、言い換えれば、袖の下ってやつかな。
「フール子爵様。こちらをお受け取りください。」
トムがその持ってきた袋を中身ごと子爵に渡す。フール子爵はそれを受け取ると、中身を確認することも無く音だけを聞いて心なしか表情が緩む。
「ぐふふ、出すのであれば早く出してくださればいい物を。しかし、ここは私が引き下がりましょう。くれぐれも今後はお気をつけくださいよ?私には侯爵様が付いているのですから。」
フール子爵は先ほどまでの勢いはどこへとやら、そう言って元々の位置に戻っていった。
僕はあまりの急展開について行けずにエレーナの方をぼぅっと見て説明を求める。
「フフフ、ゴリ松は納得がいかないか?」
エレーナは僕にそう言った。きっとそれは袖の下をあんな木端役人とでもいう様なやつに支払ったことを言うのだろう。確かに僕はそう思ったのだから間違いではない。
「ウホ。ウホ?(うん。なんでなの?)」
「先程の続きにはなるんだが、あの手の小者は関所などで賄賂を要求することが珍しくない。従魔だなんだと言ったのは、ただ難癖をつけるためだろう。」
「ウホウホウホゥ?(どうして取り締まらないの?)」
僕は絡まれた理由には納得がいってもそれを咎めない理由が分からなかった。僕は前世でもそういうことに直面したことは無いし、そういうことは普通に犯罪ではないのかな。
それに対するエレーナの答えは至極単純な物だった。
「我がグラディスバルトではそう言ったことは完全に取り締まっているが、ペニー侯爵はそういうことはしていないみたいだな。
まあ、それらをすべて取り締まれば領政が回らないという側面もあるのだろうがな。どこの貴族にもそういうのはいるらしいぞ?」
なるほど。御父上はそこら辺きれいにしているということだね。まあ、ああいう奴は自分が貰ってそれをさらに上に使うってことなんだろう。きっとそうやって成り上がった人が上司なのかもね。
「それにな。フール子爵のような人間は金さえ払っておけば無害なものだ。ずいぶん簡単に引き下がっただろ?これも処世術さ、というには少し汚いけどな。」
そう言うエレーナはやっぱり貴族なのだなぁと僕は思った。でも、御父上を見習って染まりすぎないようにって考えているのも感じたよ。
これからは僕が彼女を守るのだし、少しでも快適に自分の思うように突き進んでくれるようにサポートしてあげたいな。
「さぁ、そろそろ移動を再開しよう。トム、頼む。」
「了解でさぁ。」
御者の兄ちゃんが馬に合図を送って馬車が再度進み始める。関所は先ほどの賄賂が効いているのか、すんなりと通されて止められることは無かった。さらに少しだけ列を抜かせたみたいだ。
賄賂のメリットもあったみたいだし、存外悪いだけというものでもないのかな。
「ゴリ松、ああいったことも学園ではある。貴族が社交を学ぶ場でもあるからな。でもな、だからってそれに倣う必要はない。私は私のやり方でグラディスバルトに貢献するよ。これでも嫡子だからな。
こんな私だけれど、これからは支えてくれるか?」
エレーナは僕を抱えて、覗き込むように言う。その表情はどこか疲れた様で、学園という場所の大変さを思い出したのかもしれない。
魔法学の話をする時は楽しそうだったエレーナも以外にも苦労しているのかもしれない。
そんな声を掛けられた僕の答えは一つだ。
「ウホ!ウホゥ。ウホウホ!ウッホ。(うん!任せてよ。僕は森の賢者だから。サポートはお手の物!のはずさ!)」
僕は胸を、当然!っと一つ叩いて言う。僕はこの世界から元の世界に戻るだとか人に戻るだとか、色々と探したいことはあるけれど、森から外へと出るきっかけをくれたエレーナには感謝をしているし、きっちりと恩は返したい。
サポートをするのだってその一環だ。エレーナを助けるってミーシャとも約束したしね。
こうして途中アクシデントとも言えないような雑事もありつつ、関所を抜けた僕達は王都への道を一路、馬車でひた走る。
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」
と思っていただけたら、ブックマーク,評価、感想をいただけると励みになります.誤字報告もありがたいです。
 




