第1話 ゴリラになった男
お読みいただきありがとうございます。
チュンチュン、ウホウホ、キャッキャッキャ
多くの動物の声が聞こえる場所で目を覚ました僕は、自分が置かれた状況がわからなかった。
なぜか全身が痛むのでどうしたものかと考えると、昨日の出来事をはっきりと思い出す。そう言えばトラックに跳ね飛ばされたのだった。
ここはどこだろうか。跳ね飛ばされたのは街中で、こんな木々が生い茂る場所ではなかったはずだ。
そう、動物の鳴き声だけではなくて、動物がいそうな森まで目の前に広がっているのだから、意味がわからないのだ。
僕はどうしてこんなところにいるのだろうか。
とりあえず座っているままではいざというときに対応ができないと、立ち上がろうと足に力を入れたところで、何か感覚が違うことに気が付く。なぜか上半身が重い様な。足が短い様な。そして、いつもより体が元気な様な?
僕は異変を感じて恐る恐る首から下を確認する。近くに水場でもあれば話は違うが、今はそんなところを探すよりも先に見るべき場所があった。
さて、現実逃避はやめにしてそろそろ直面したほうが良いだろう。
僕は視線を下に向けて自分の体を確認する。
(なんだこれは...?)
僕の体は見慣れたいつもの肌色は一切見えなく、ふさふさの黒い毛で覆われたいつもより筋肉が増した体になっていた。
その姿を想像するに全身の毛という毛が太く長く、そして黒々となっているようで、僕が理解できる範囲を超えていた。
しかし、そこは日々のブラック企業勤務で培われた気合いと根性で耐えきると、今の現状を見直す。
僕はどうやら、ゴリラになってしまったようだ...!?
***
ふぅ、一旦、落ち着こう。ここでパニックに陥っても何の得もない。それならここで落ち着いて考えた方が何倍もいいだろう。
顔を確認していないので確定はできないが、おそらく僕は霊長目ヒト科ゴリラ属の動物になってしまった可能性がある。
試しに声を出してみようと口を開いて喉を震わせる。
「グォオオオオオオオオオ」
しかし、僕の口から出たのは言葉でも何でもなく、雄たけびとでも言った方が正しい様な荒々しい咆哮だった。
単純に「うおー」と言ったつもりだったのが、どう間違えば今のになるのだか、詳細に説明してほしいところだが、ゴリラだからですとか言われたら、腹立つのでここは我慢だ。
まあ、誰が答えてくれるって話だけどな。
とりあえずは、人の言葉を話せる様な動物ではないことはわかったので良しとしようか。
そうとなれば、まず確認するべきなのは、僕がすべきことだ。
幸い時間はまだ明るいので、余裕があるが、森の中で一晩を越すには準備が無さすぎる。せめて洞窟みたいなところでもあればいいけど、探すしかないかぁ。
「ウホ(よし)」
僕は一つ意気込んで移動を開始する。先ほどは立ったときに違和感を覚えたので立ち尽してしまったが、ゴリラとわかればどうということはない。
手を握り前に突いて、さながら4足の様に歩けば問題ない。これはナックルウォーキングというゴリラの歩行方法で、予想通りこちらの方が歩きやすいみたいだ。
僕は森の中に歩きだし、木々の間を縫うようにして進む。どうやらこの体は人であった頃より柔軟に動いてくれる。何というか考えたらタイムラグがほぼない状態で行動できるというような感じか。
森の中は背の高い木々の間から木漏れ日が差し込み、静かな感じだったが、逆を言えばそれ以外が無さ過ぎて昼間だというのに少し不気味な感じだ。
ウホウホと進んで行き、時には枝を掴んで雲梯のようにも進んでみる。見た目に続いて行動までもはやゴリラだが、「郷に入っては郷に従え」と言う先人もいたように、「ゴリラに入っては本能に従え」だ。
「ウホウホ、ウホ(無いなぁ、洞窟)」
しかし、洞窟が見当たらない。正直言えば、もっと簡単に見つかると思っていたし、人里もあるかもしれないと期待はしていた。
まあ、人里があってもな、と思い直したのでそっちはどうでもいいか。
さあ、もっと探そう、と歩きだそうとしたときに、それは現れた。
アレは...なんだ?
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