第15話 役所
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僕がグラディスバルト辺境伯家にエレーナの従魔として迎えられた翌日、僕は領都の役所へとエレーナと共に向かっていた。
今日、外出する際にミーシャが自分も行きたいとごねるというちょっとした騒動もあったけど、御父上が許可しなかったので諦めてもらった。なんか勉強があるんだって。
「ゴリ松。そろそろつくので馬車を下りる準備をしようか。」
「ウホ、ウホゥ(うん、分かったよ。)」
エレーナが言うように、僕達は現在馬車に揺られているのだけど、役所に行くと言われただけで何をしに行くかを聞いていなかったのを思い出して、尋ねてみる。
「ウホ、ウホホ?(ねえ、何をしに役所へ行くの?)」
「そうか言ってなかったか。役所へはゴリ松の登録に行くんだよ。私たちは貴族だからな役所なのだ。この役所というのは領政を行う場所ではなく、国が建てた場所だ。
そこには国絡みの案件や領では扱いきれない、他国との案件などを行う場所でもある。」
エレーナが説明してくれる目的を要約すると、僕の従魔としての届け出を提出しに行くらしい。
エレーナの休みは今日までで、その役所での手続きを済ませたらすぐにでも王都へと向かうらしい。元々僕と会うために帰ってきただけみたいだから、実家に一泊したのも想定外だったようだ。
平民だったら、従魔の登録は冒険者ギルドなどの互助組合で行われるみたいだけど、貴族は良くも悪くも国に管理されているため、手続きする場所が国絡みの役所になるんだって。
「一応登録するまでが、学園で出た宿題だからな。ゴリ松のおかげで宿題を無事に終えることができそうだよ。ありがとう。」
「ウホ(どういたしまして。)」
僕としては特にお礼を言われることじゃないし、むしろ森の外へと出る切っ掛けをもらった僕がお礼を言いたいくらい。
まあでも、ここは受け取っておいた方が彼女としては気が楽になるみたいだから受け取るよ。
僕達がそんな話をしていたら結構時間が経ったみたいで、馬車が止まって御者のおじさんから声がかかる。彼は辺境伯家が雇っている執事みたい。なんて言うか出来る人って感じだよ。
「じゃあ、ゴリ松、行くぞ。」
「ウホ(うん)」
僕はエレーナについて馬車を下りるとそのまま目の前の建物へと入っていく。その建物は立派な建物で、小さい僕の体からしたら一番上も見えない。
回数にしておよそ4階あって、もしかしたらもっとかもしれない。
「この建物の3階が登録書類の提出窓口なんだ。」
そういってずんずん進むエレーナを追いかける。馬車で聞いた話だけど、ここで登録すれば、情報は王都まで共有されるので、王都の混み合う役所に行かなくてよくなるんだってさ。
エレーナは階段を上って窓口で職員に話しかける。
「すまない。従魔の登録をしたい。私はエレーナ=グラディスバルトだ。」
「はい、エレーナ様ですね。必要書類はご準備されてますでしょうか。」
「ああ、これを。」
「確かに。少々確認しますのでお待ちください。」
エレーナが書類を職員に渡すと、職員は内容を確認するために窓口を離れる。確認だけというならこの場でやればいいのにと思ったけど、そういうものなんだろう。
そして少々待つこと数分、先程引っ込んだ職員が、何やら慌てた様子で戻ってきた。その傍らには少しかっちりした格好をした男性がいる。
「すいません。エレーナ様に提出頂いた書類に少々確認したい事柄がございまして、お手数ではございますが、裏までお願いしてもよろしいですか?」
「ああ、構わない。行こうかゴリ松。」
僕はエレーナに従って後ろをついて行く。エレーナも男性を先頭に職員に歩いて行くので僕は4番目だ。歩く速度が早いので僕は早歩きになってしまう。
それにしても裏までって、何か仕掛けてくるのかな。難癖?それとも書類に不備でもあったかな?
そうして歩いてすぐに部屋に入ることになった僕達は職員が進めるままに椅子に座る。僕はエレーナの隣の椅子だ。ふかふかしている一人掛けのソファで満足だ。
さ、なんで呼ばれたか聞かせてもらおうかな。エレーナや僕に不都合あるなら容赦しない。
「まずはわざわざお越しくださりありがとうございます。私はベン=トリル男爵です。この登録窓口の課長をしております。」
「うむ、よろしく。私は...知っているな?」
エレーナがそれが当然とばかりに言うと、男爵はもちろんですと頷いた。そりゃこの領のお姫様だもんな、エレーナは。知らないわけがないだろう。
エレーナが話を続けるように促すと、男爵はそれからここへと呼ばれた理由を話す。
「して、なぜ、呼ばれたのだ?」
「はい、実はエレーナ様が提出されました書類で確認すべき事柄が確認されまして。」
「そんなことを言っていたな。何のことだ?」
僕やエレーナにはもちろん心当たりなんてないので男爵に聞くと彼は言い難そうに答える。その内容で彼が言い難そうにした理由もわかったし、それもしょうがないと思う内容だった。
「実は、この従魔の種族なんですが、事実でしょうか?」
彼が尋ねたのは従魔の種族、つまりは僕の種族の真偽だった。
「どういうことだ?事実だが、それがどうかしたか?」
「事実ですか。しかし、俄かに信じがたいのです。ゴールドバックと言えば、ほとんど確認されていない魔物ですし、グラディスバルト領で確認されたのもずいぶんと昔です。
さすがにそちらにいる黒毛の魔物がそうだとは思えません。」
男爵が言うに、僕は賢そうに見えないということか。ゴールドバックは『森の賢者』と言われるほどに賢いとされているので、僕みたいなのがそうだと思えないってことらしい。
「ふむ、ではどうすればいいというのだ。この書類は自己申告であるので、問題ないと思ったんだが。」
「実は先日、王都の学園生が虚偽申告をしたことが問題になりまして、確認が必要だと思える程度の過剰申告は通せないことになったんです。」
どうやらエレーナの学友が先にやらかしたらしい。それで僕達が面倒を被るのは釈然としない。
でもエレーナは素直な良い子なのでそれを受け入れて、咎めるでもなく、それなら、と証拠の提出、というか男爵を証人とすることを提案とした。
「では、男爵が証人としてゴールドバックを確認してくれ。それなら構わんだろう?」
「私が証人ですか。それでしたら問題なく登録可能ですが、そうなるとできるだけ早い手続きが必要ですが。」
「ああ、今すぐでもこちらとしては問題ない。」
「え!?で、ではすぐに取り掛かります。広い場所を念のため用意します。こちらへ。」
男爵としては、「そこのチビゴリラをゴールドバックに仕立て上げるなら準備をする必要がありますか?」と聞いたつもりなんだろう。
それにエレーナが今すぐにでもと言ったから驚いたんだろう。場所を用意すると言っただけマシな対応だね。
移動しながら思ったのだけど、最初にこの都市へと来た時、僕は結構派手な登場をしているんだけど、それを知らないんだろうか。
さすがに昨日の今日じゃ知らないかもなぁ。
まぁ、実際に見れば納得するだろうね。
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