第9話 ゴールドバックsideエレーナ
お読みいただきありがとうございます。
本日で毎日投稿が終わり土日投稿に移行するというのもありまして、もう1話12時に投稿いたします。
私は夢でも見ているのだろうか。
私はエレーナ=グラディスバルト。パールベルナ王国の辺境伯令嬢である。これでも私は王都の学園ではトップレベルの成績を修める魔導士だ。魔導士ということで二つの属性を操るのだが、火ともう一つが光属性ということで少し珍しいらしい。
そんな私は今、現実にはあり得ない。魔物同士の戦闘に巻き込まれていた。
なぜこんなところにいるのだろう。
あれは遡ること2週間前、学園の授業の宿題で従魔を得に、私の実家グラディスバルト領にある賢者の森へと護衛を伴って向かった時、ゴブリンの襲撃を受けたのだ。
襲撃自体は問題無く対処できたが、一瞬の油断からか母の形見を敗走するゴブリンに盗られてしまった。
ペンダントにしていたのが災いしたのか、戦闘中に落ちてしまったようで、気が付いた時にはそのゴブリンも見当たらない。その日は護衛に説得されて帰ったが、いつかはまた来ようと決意したのである。
失意の中、実家へと帰るも不運はそこでは終わらず、取られてしまったことを妹のミーシャに知られてしまい、探しに行くと言い出した。
その場はどうにか収めたし、その後もなんだかんだと理由をつけて探しに行くのを止めたり、そもそも学園で行けなかったりとしていたのだが、休みに再び実家へと帰るとミーシャがいないと騒ぎになっており、屋敷の中は大騒ぎだった。
私はもしやと思って賢者の森へと行ってみれば案の定、森の中にミーシャが一人で彷徨っていた。幸い、魔物には出会っていないようだったが、ミーシャを守りながらでは私も危ないかもしれない。その時は護衛を連れて来なかったことを悔やんださ。
すぐにミーシャと合流出来た私は、軽く説教をして森を出ようとしたところで、またゴブリンの群れに襲撃を受けた。
先に言った様に私一人ではミーシャを守りながら戦闘するのは難しい。ミーシャだけでも助けられたらと考えていたら、ゴブリンに物量で押されてしまった。
その時にそいつが現れたんだ。雄たけびを上げて現れたそいつは一見普通にゴリラかと思ったが、よく見ると背中の毛が金色で、私にはそれが何かすぐにわかった。分かってしまった。
そのゴリラは一般にゴールドバックと言われる稀少な魔物で、討伐されたのはずいぶん昔の話で、その剥製も王都の博物館でみた小さいやつだけだ。
ただ、我がグラディスバルト領ではゴールドバックは知能が高い魔物として有名で、森の賢者と呼んで干渉を避けてきた。お互いに戦うメリットも無かったからな。そんな森の賢者は500年も前に亡くなったはずなので、このゴールドバックとは別の存在だろう。
その後は驚いた。本当に文献通りに賢い様で、文字まで操るのだから。そのゴールドバック、ゴリ松とはまた会う約束をしてから帰宅をした。
帰ってからはすぐに父上へと報告をした。グラディスバルト辺境伯家としてどういう対応をするかを話し合うためだ。
父上は最初は懐疑的だったが、ミーシャも私の報告を後押ししたので、結果として交流できそうならするという方針になった。
それから一週間。私は学園の休みで再び実家へと帰り、約束の場所まで向かった。前回も護衛は連れていなかったので、同様に今回も一人だ。ただ、ミーシャは置いて来た。万が一が無いとも言えないし、父上が心配しすぎていたからな。
そうしてやっと会えたと思ったら、ゴリ松は私に鞄を渡して何やら焦った様子で文字を書いたんだ。
ゴールドバックが鞄を持っていたのにも驚いたが、その文字にも実は驚いていた。その文字は『化け物、来る、隠れる、わたくし、化け物、叩く』とあり、何かが来ることを指していたからだ。
化け物が魔物だとわかったが、それが脅威かは分からなかった。でもゴリ松が焦るなら、と背中を押されるままに隠れたが、現れた魔物には本当に驚いた。
まさか賢者の森にマーダーグリズリーがいるとは思いもしなかったからだ。しかもそいつは火属性の魔力を内包していて、進化した個体だってことが理解できてしまった。
そのマーダーグリズリーがここに来た理由も心当たりがあったし、ゴールドバックと危険度で言ったら同じくらいだ。死を覚悟したさ。もう家族にも会えないかとね。
でも、ゴリ松は私に大丈夫とでも言うように立って雄たけびを上げたんだ。その音量は耳をふさぐ程度では防げなかったし、その後のドラミングもすごかった。最初の激突も普通じゃあり得ない威力だったな。
マーダーグリズリーはドラミングに挑発されたのか私の方を一切見なくなってゴリ松に集中しだした。しかも激怒しているようで、牙をむき出しで威嚇している。
ただ、そこからの戦闘は圧巻の一言だった。
二体の魔物が同時に中央でぶつかりお互いの力をぶつけあい始め、一発、二発と攻撃を交わす。そのどれもが普通であれば必殺の一撃で、そこらの魔物や冒険者では二発目まで生きていられないだろう。
それでも見ていてわかるのは、だんだんとゴリ松が攻撃を受ける回数が減ってきたことだろう。なんて言うか、体の使い方が上手くなっているというか、慣れてきた様に見えるのだ。
何にしてもここでゴリ松が勝たねば私の未来はない。ここは一つ、声には出さないにしてもゴリ松を応援しよう。
(がんばれ!ゴリ松!)
私の応援がゴリ松に届いたかは分からないが、その瞬間から、ゴリ松の動きが目に見えて良くなった。
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