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第98話 期待?の新人

「えっほえっほ。あるじさま~ただいま戻りました!」


 エルが両手を広げて、テクテクと駆け寄ってくる。

 僕もそれに応じて飛びついてきた身体を支えてあげる。


 峡谷での戦いも無事に決着が付いたようで。

 ロストワイバーンの大きな反応も消えた事を確認した。

 

「いっぱい歩きました!」


「おかえり。無事でなによりだよ」


 エルの後ろには宝箱を抱えたコクエンとユグが。

 ライブラさんは、得意げな表情で羽ばたいていた。


 初めての部隊分けは成功したと言っていい。

 今後も何度かこういう機会が訪れるはずだ。いい経験になったと思う。


「私様たちは見事に盗人を捕まえて、同時にアイちゃんを救い出しました。任務達成ですよ」


「ほう」


「ほうとは何ですか!? ティアマトの尻拭いをしてあげたのですよっ! 感謝ぐらいしたらどうです! ロロアさんを連れ回して挙句フロアボスに手を出して。貴女はトラブルメーカーですか!?」


「まぁまぁ、無事に終わったのですから~」


 顔を真っ赤にして怒るライブラさんをユグがなだめている。

 騒がしいなと、ティアマトさんが早足でその場から離れていた。


「あの……ご主人様」


 甘えてくるエルをめいっぱい撫でていたらコクエンが。

 フードを脱いで、艶のある黒髪に隠れた二本の角が煌めく。


「コクエンもお疲れ様。アイギスを助けてくれてありがとう」


「あっ、はいっ!」


 控えめにこちらに身体を傾けてきたので、ゆっくりと背中を撫でる。

 すると目を細めて、身体を震わせて喜んでくれた。正解だったみたいだ。


「ご主人様……」


 コクエンもエルと似て甘えたがりなのかな。あまり欲を口に出す子じゃないから。

 僕の方から気付いてあげて色々と褒めてあげないと。不公平感が出てきてしまう。


「おー、はやい」


 逆に欲を発散するのが得意なトロンは、後ろで運搬ゴーレムで遊んでいた。

 みんなを待っている間、暇潰しにずっと運転している。曲がり道も完璧だ。


「……いつの間にトロちゃんは運搬ゴーレムの操縦をマスターしたのです? 起動させるにも専門知識が必要なはずですが……!」


「ライブラさんのを見て覚えたらしいよ。優れた観察眼だよね」


「そんな馬鹿な……! あののんびり屋のトロちゃんが、簡単に真似できるものではないのに。私様の唯一無二のポジションがっ!」


 ライブラさんは衝撃を受けているけど。トロンは以前から器用万能な子だった。

 

「ロロア様、こちらの盗人様をお預けしますね~。今は大人しいですが、暴れん坊ですのでお気をつけくださいませ~」

 

「うん。新しい仲間候補として僕が預かっておくね」


 動かなくなった宝箱(ミミック)は中が空のように軽い。

 眠っている間だけは重量を感じないみたいだ。


 この子は国宝級には届かないので、しばらくはこのまま。


「しかし、移動中に目を覚まされると面倒だぞ。ゴーレムのパーツを喰われるやもしれん」


 それは困る。空中分解したらみんな真っ逆さまだ。


「その都度食事を与えればいいのです。アイちゃんのスキルリンクがあります」


「構わないが、アイギスの帰還が遠のくぞ。神話級の魔力も無尽蔵ではないのだからな。我は主人を守らねばならぬから無駄な魔力は差し出せんぞ」


 宝箱(ミミック)の食事に使う魔力量が膨大なだけに、持ち運ぶのも大変だ。


「むむ……そこは、アイちゃんもきっと納得してくださる事でしょう。【擬人化】が発動したあとは食べた分だけ働いてもらいますから! 転移も収納も便利ですからね。コストは掛かりますがその分メリットも十分見込めます」


「わくわくですね!」


「はい~。早くもわたくしに後輩ができました~」


 エルもユグも一緒になって宝箱(ミミック)を撫でている。


「何だかもう既に掛けられている期待が大きいけど。とりあえずよろしくね」


 歓迎の意味も込めて僕も宝箱(ミミック)の縁を撫でる。すると急激に重量が増した。


「わわっ」


 ドシリと地面を抉る重さになった宝箱(ミミック)はカタカタと動き出す。


「いけません、さっそくご飯を与えないと! 大事なものが盗まれる前に!!」


「スキルリンクです!」


 アイギスの能力を共有して、宝箱(ミミック)に魔力を食べさせていく。

 この作業を延々と繰り返さないといけないのか。大変だ……! 


「これまでの流れでいくと、【擬人化】には四ヵ月ほど掛かりますから……」


「食事が昼間だけとは限らん。寝ずの番も必要になるぞ」


「……仲間が増えて嬉しい事ばかりではないようですね。ご主人様」


「が、頑張ろう! うん。きっと何とかなるよ!」


 ちょっと先行き不安だけど。かなり不安だけど。

 ライブラさんの言う通り、この先必要な仲間なんだ。


「……ますた、おなかへった」


「あらら、こちらにも食いしん坊さんがいらっしゃいましたね~」


「僕たちもご飯にしようか」

次の更新は12/7です

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