第96話 動く砦
「斬ります!」
コクエンが翼竜の懐に飛び込み炎の手刀で斬り付ける。
ロストワイバーンの身体から闇の炎が溢れ出し相殺する。
「炎と闇属性……! 私めと相性が悪いですね……!」
同じ属性同士がぶつかり単純な物理干渉のみで相手に傷を与える。
コクエンは元が短剣であり、属性効果がなければ威力は控えめになる。
竜鱗を貫くには手数が必要だ。再度コクエンは接敵する。
「ギュイイイイイイイイイイイイイ」
高密度の魔力で可視化された暴風の牙が降り注ぐ。
岩の壁が削り落とされて、無数の石礫を散らしていた。
小粒な石でも速度によって凶器と化す、それが宝箱にも殺到する。
「させません~!」
簡易的な三重の木柵で囲ってユグが宝箱を守る。
拘束に加えて守りまでも受け持ち、ユグには余力がない
「グルルルルルル、ウオーーーーーーーーーーーーン」
空気を振動させる音が何重にも谷底を反響させていく。
獲物を狙う獰猛な獣。その群れが次々と移動を開始していた。
「らいぶらさん、別の魔物が近付いています!」
「……コクエンちゃん、翼竜は一人でやれそうですか!?」
同時に両者の相手はできないと、ライブラが部下のコクエンに頼る。
「お任せください参謀。敵は手負いの竜ですから。逃がしはしません!」
飛翔する翼竜を、岩場を蹴ってすぐさま追いかけるコクエン。
その真下では獣型の魔物の群れ。最初の数匹が飛び掛かってくる。
「グランドウォーカー。岩場を住処とする土属性の獣です! 過酷な環境を生き抜く為に強靭な足を持ちます。牙だけでなく蹴りにもご注意を! エルエル、ユグちゃん。宝箱は絶対死守ですよ!」
「――わあああぁぁぁぁ!」
「エル様~!」
さっそくグランドウォーカーの後ろ蹴りをエルが喰らっていた。
瞬きする間もなく崖に激突する。常人ならその時点で即死の威力だ。
「頭がくらくらします~」
コロコロと転がりながらエルが頭を押さえていた。
「あらら、あのような激しいものを受けてしまっては、わたくしの身体が壊れてしまいます~」
「とにかく近付けさせてはいけません! コクエンちゃんが戻るまでは防衛戦です!」
ユグの足元には拘束されたままの宝箱が暴れている。
この場を離れたら宝箱が獣の餌食になってしまうのだ。
「防衛戦ならば、わたくしの得意分野ですよ~!」
ユグが魔力を解き放ち前方に木製スパイクを創造していく。
翼竜が離れた為に若干余裕が生まれたのだ。防衛陣が張られる。
「わたくしは動く砦。簡単には抜けさせません~!」
「ギャイイイイン」
地面から伸びる蔦が獣の足を捕えて、上空に勢いよく投げ捨てた。
落ちてきた獣は地面の杭に突き刺さり息絶える。次々とスパイクの餌食に。
「ゆぐさん、龍の魔力水を!」
ユグの創造魔法の中でも、トラップ系は作りが単純で量産が容易い。
エルが龍の魔力水を与えているので、豊富な魔力が砦を強固なものに。
「ユグちゃん、敵は前方だけではありません! 後方からも来ますよ!」
「ウオオオオオオオオオオオオン」
グランドウォーカーはスパイクを避けて真横の崖を蹴りつける。
並外れた脚力からなせる崖登りで、ユグを取り囲もうとしていたのだ。
「ふふふ、わたくしの創造領域の恐ろしさをお見せしましょう~」
鋭い殺意に睨まれても、不敵な笑みを絶やさないユグ。
瞬間、グランドウォーカーが走る崖から木が飛び出してきた。
敵を押し出すプッシュウォールが壁に張り付く獣を叩き落す。
落ちた先にはスパイクが歓迎。それでも生き延びた獣を待つのは。
「ギャイン!!」
巨大な振り子の刃――ペンデュラム。
複数体をまとめてその質量で押し潰した。
魔物を一切寄せ付けないトラップの海。
創造領域内では破損してもすぐに生まれ変わり。
また設置する時間も必要ない。まさしく無限の防衛陣。
「ユグちゃん流石です。頼りになりますね!」
あくまで限られた領域内での能力なので、攻めには向かないが。
拠点防衛に関しては個を守る盾以上に広範囲に仲間を守ってくれる。
「さあさあ、どういたしますか? このままですと無駄死にですよ~?」
ユグの笑みの背後では、矢が装填された発射台が横並びになっていた。
グランドウォーカーたちは勝ち目がないと悟ったのか、逃げ去っていく。
「それでよいのです」
逃げる相手を追い討ちせずに。ユグが創造領域を閉じる。
そしてそれと同時に上空から燃え盛る翼竜が落ちてきた。
地面に肉体を打ち付けて、ロストワイバーンは大きな魔石へと変わる。
華麗に着地したコクエンはフードを上げて息を吐いた。彼女は無傷のまま。
「ふぅ……お待たせいたしました。討伐完了です」
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