第95話 救出大作戦
「おや、空気の流れが変わりましたね……巨大生物の気配が前方にあります」
峡谷の下層部を進む最中に、ライブラが辺りを見渡す。
小さな羽根は繊細な風の動きを察知する。大きな波があった。
「参謀、この階層の巨大生物というのは……」
「ええ、ロストワイバーンでしょう」
風圧によって霧の一部が途切れている。
距離としてはそれほど離れていない。
「フロアボスと戦うんですか!」
「あらあら。こんな谷底までわざわざ翼竜が下りてきてくださったのですね~」
翼竜との戦いは足場の悪さも加わり苦戦するかと思われていた。
ライブラはしばし沈黙のあと、少し怒ったような表情に変化した。
「これはティアマトが勝手に動きましたね……! 翼竜は既に負傷していますよ。動きに精彩を欠いていますから」
「ほっ……では脅威がなくなったフロアボスは無視して、盗人捜索に専念しましょうか?」
探索部隊の目的は魔法道具の回収だ。フロアボスを倒す必要はない。
「う~ん。どうでしょう。わたくしは負傷した翼竜が気になります~」
コクエンの案にユグが待ったをかける。
「あのティアマト様が、巨大な翼竜を取り逃がすとは思えないのです~」
「とろんさんも一緒でした!」
対空中戦のスペシャリストが撃ち漏らすはずがないと、ユグとエルは主張する。
「もっともな話です。脳筋ティアマトとトロちゃんが相手を負傷までさせて、何故トドメを刺さなかったのか。この場で考察する必要があります」
全員が立ち止まって、フロアボスが逃げた理由を考える。
「本体は弱っているという事は、戦闘中に別の要因があったんですよね……?」
「他の魔物に襲われた訳ではなさそうです~。では、次に思い付くもので」
「エルたちが求める魔法道具です? 自立すると聞きました!」
導き出されたのは、魔法道具が翼竜のどこかに隠れていたという推測だ。
「可能性としては一番高いです。ですが、それでも若干弱い。倒してそのまま回収すれば済む話ですし」
「回収できない理由があった。それは、例えば、対象が簡単には捕まらないという事でしょうか」
逃げ足が速かったなど。色々と想像するがどれもイマイチだった。
何故ならあのティアマトだ。余程の事がないと敵を逃すなんてしない。
「もしや……人質、でしょうか~?」
ここでユグが更なる可能性を思い付いた。
「人質ですか。確か私様たちが求める魔法道具は食料を盗む能力を持っていましたね……」
それも熟練冒険者たちが盗まれた事に気付けないほどの神業でだ。
一部分に特化したアイテムは、時には相性の差で神話級をも出し抜く。
「食料じゃ人質にならないです」
「ご主人様の手元にあり、食料以外で人質になりそうなモノといえば……」
「まさか、アイちゃん……? 盾に戻ったアイちゃんを盗まれているのでは!?」
ついにライブラたちは少ない情報で答えに辿り着いた。
「……まだ確定ではないですが。遠隔でアイテムを盗み出す魔法道具が、翼竜にくっついていると仮定して動くべきですね……! 万が一破壊すれば、アイちゃんが見知らぬ何処かへ飛ばされてしまいますよ」
「えっと、ど、どうしましょう参謀。随分と厄介そうな相手ですよ……?」
「ひとまず接触してみない事には始まりません。まだ情報が足りませんから」
「わかりました。アイギス様救出大作戦ですね~」
「おー!」
◇
「ギュルルルルルルルルルル」
ロストワイバーンがその巨大な胴体を丸めて巣に横たわる。
傷付いた身体を翼で覆い隠し、治癒能力を発動させた。
その間に背中に乗っていた宝箱がカタカタと動き出す。
次なる獲物を求めてか、口を開けては閉めてを繰り返し進む。
カタカタカタカタ
自立する箱の動きが止まる。目の前に鞄が放置されていたのだ。
通常なら罠を疑うところ、余計な感情がない宝箱は大口を開いた。
「させませんよ~」
マイペースなユグの声が響いた。地面から蔦が伸び何重にも縛り上げる。
宝箱がひっくり返った。その身体をコクエンが持ち上げようとして……。
「お、重いです……! この子、見た目以上に重量が……!」
「仮にもゴーレムの亜種ですから。ユグちゃん、運び出せませんか!?」
「そうしたいところなのですが~。抵抗が激しくて、拘束の維持で精一杯です~」
宝箱が蔦を引き千切り、その都度ユグが再生していた。
かなりの凶暴性であり簡単には持ち運べそうにない。
「らいぶらさん、フロアボスが!」
時間を掛けている間に、ロストワイバーンがライブラたちに気付く。
強敵であったティアマトの姿がない事を確認して、翼を大きく広げた。
「キュイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「面倒ですね……! エルエル、コクエンちゃん、まずは目の前の障害を取り除きますよ!」
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