表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/118

第93話 嫉妬の炎

「霧が濃くなってきました……。みなさん足元には気を付けてください」


「前が見えないです……真っ暗です」


「お互いに手を繋ぎましょうね~」


「では私様はコクエンちゃんのフードの中にでも」


「ひゃあっ! くすぐったいです、参謀!」


 渓谷の崖道を進む一行はちょうど中央の高さに到達していた。

 夜霧に包まれて前が殆ど見えない。炎を道標として残していく。


 すると途中で獣の叫び声が反響し、彼女らの脇を通り抜けていった。


「魔物の鳴き声です。谷底に近付いてきた証拠ですね。エルエル、荷物の中身は無事でしょうか?」


「はい! 重さは変わってないです!」


 まだ鞄の中身は盗まれていない。あとをつける生物の気配もない。


「ふむ、まだ先に進む必要がありそうですね。どこかで休息を取りましょう。長期戦も覚悟です」


 コクエンたちは崖の空洞を見つけるとそこで天幕を張る。

 ユグによってすぐさま仮拠点が構築された。焚き火を起こす。 


「ふにゃむにゃ」


「あらあら。エル様はお疲れのようです。寝顔が可愛らしいですね~」


 ユグの膝の上でエルが丸くなっていた。

 胸に荷物を抱いて。夢の中でも役目を果たしている。


「私様たちの中で一番の最年少ですからね。あくまで精神面での話ですが」


「参謀、エルさんは元神話級の方なのですよね。えっと、普段の様相からは想像し辛いのですが」


 神話級に到達したアイギス。【七神宝】のティアマトとライブラ。

 彼女らと比較すると。不死身という能力は唯一無二であるのだが。


 あくまで不死身なのは本人だけであって。

 それだけで神話級とするには物足りなさがあった。


 この先、成長していく過程でどれだけ強くなっていくのか。

 教官の期待を受けたコクエンは、ライバルとして気になるのだ。


「……エルエルの本来の能力はまさに神話級に相応しいものですよ。この私様に匹敵する――いえ、場合によっては凌駕するやもしれません」


「あの本気を出した参謀すらも……? 信じられません……!」


 常に自信に満ち溢れているライブラですら唸らせるほどの力。

 それが目の前の小さな身体に眠っている。コクエンはエルを見つめる。


 その表情はどこか悔しそうで、紅の瞳に炎が見え隠れしていた。


「コクエンちゃん、もしかしてエルエルに嫉妬ですか?」


「えっ、そんな。私めは……!」


 否定しようとして、コクエンは言葉を詰まらせてしまう。

 ある種、図星だったのだろう。ライブラとユグは顔を見合わせる。


「エル様は、ロロア様の一番の寵愛を受けていらっしゃいますから。気持ちはわかりますよ~」


 ロロアも人間である以上。全員平等とはいかない。

 そこにはやはり序列が出てくる。一番の席は一つだけ。


「……私めも、ご主人様の懐刀としてすべてを捧げる覚悟があります。その……まだ未熟ですが。この想いは、エルさんにだって負けていません。……アイギスさんにだって、負けたくありません……!」


 強くなるたびに、ご主人様の一番になりたいという気持ちが溢れるのだ。

 それは【擬人化】したからこそ生まれた感情で、抑えきれない欲望だった。


「あらあら。ティアマト様の鑑識眼は確かなようですね~」


「コクエンちゃん。その感情は大切に育てていきましょう。いずれアイちゃんのように飛躍する原動力となります。嫉妬。良いではないですか。仲良しなだけでは停滞します。競い合う事も重要です」


「……はい。少し、夜風を浴びてきます」


 コクエンはそのまま座り込むと外の景色を眺めていた。

 親しい誰かが飛躍すれば、置いていかれた者が焦り出す。


 それは決して悪い事ではない。負の感情だって捉え方次第だ。


「よい流れができていますね~みなさまの成長がわたくし楽しみです」


 ユグはニコニコと笑顔を浮かべてエルの頭を撫でている。


「ユグちゃんはどうなのですか? コクエンちゃんのように上を目指したりはしないのです?」


「わたくしは後方から応援するのが性に合っていますので~」


「欲がないのですね」


「そういう役割も、組織には必要かと」


「ふむ。確かに。既に子を見守る母親としての風格がありますよ」


「あらあら。ではわたくしの旦那様は、ロロア様でしょうか?」


「――深く掘り下げると荒れそうなので、この話題はなかった事にしましょう」

次の更新は11/27です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ