第91話 部隊分け
【地下深淵の塔】四十階層の休息所を抜けると、深い渓谷が続いていた。
霧によって蓋がされて底は見えない。でも落ちたら助からない事はわかる。
「おー、深いです。何も見えないです!」
「ばんばん」
トロンが雷光弾を放つと、音が何度も反響して消えていく。
そして地底から魔物の呻き声のようなものが。その数は多い。
「こ、この反応は、フロアボスですかね……?」
「四十階層のフロアボスはロストワイバーンって聞いたから。別の魔物じゃないかな?」
空を自由に飛び回り、炎と闇の属性を得意とする翼竜だ。
渓谷というフィールドを利用して、獲物を谷底に叩き落すらしい。
谷底で蠢いているのは、フロアボスに追いやられた敗者たちだろうか。
「道幅が狭くて運搬ゴーレムが進めないね。足場も不安定だ」
「わたくしの力でも、空中に道を造るのは厳しいです~」
「空を飛ばせば渓谷は無視できますが、探索を行うのでしたら、置いておく必要がありそうですね」
「ごーれむさんはお留守番ですね!」
身体が大きなゴーレムは、休息所手前に待機させる事にした。
「先程物資の盗難があったばかりだ。見張りは立てて置いた方がいいだろう」
「つまり、ここで二手に分かれるんですか?」
「うむ。この大所帯で渓谷を進むのは危険だ。探索部隊は少数の方がいい。謎の盗人の能力も不明瞭であるからして、万が一に備えて荷物も分散させるべきだろう」
「私様もティアマトの意見に賛同します。こうして仲間も増え、可能性の幅が広がったのですから。今後は積極的に部隊を分けて行動した方が効率的です」
どうでしょうかと。ライブラさんが僕に最終判断を委ねてくる。
確かに、仲間も増え今後は場所によっては全員での行動が難しくなる。
今のうちに慣れる必要があると、僕も納得した。
「部隊の編成はどうしよう?」
「探索部隊はコクエン、ユグ、エルの三名が適切だろう。リーダーはコクエンが妥当だ」
「私め、ですか? その、ユグさんの方が向いていらっしゃるかと思うのですが……?」
単独行動が多いコクエンには仲間を指揮する経験がない。
「だからこそだ。貴様の能力は斥候だけに留めるには惜しい。これを機会により多くを学べ。我の見立てではアイギスの次に神話級に到達するのは貴様だと見ている。その期待を込めてもだ」
「教官……! ありがとうございます! はい、不肖ながら私めが務めさせていただきます!」
能力を褒められコクエンが目を紅くして感激していた。
私様の部下ですよ。とライブラさんが後ろで警戒している。
「あらあら。リーダー様、わたくしたちを導いてくださいね~」
「こくえんさん、頼りにしています!」
新リーダーは緊張気味にお任せくださいと、豪語した。
ここで萎縮しないのが成長の証。僕も彼女に期待している。
「ロロアさんの元にティアマトが残るのでしたら。私様がコクエンちゃんに付き添いますよ。妖精の肉体ですし探索の邪魔にはならないでしょう」
「あの妖精女王が、過保護だな……」
「うるさいですねぇ! 可愛い部下なのです!!」
なんだかんだ信頼し合っている二人だった。
「残るのは僕とティアマトさんとトロンだね。あとアイギスもだ」
待機組にしては攻撃力がある人が残っていた。
どちらも主戦力だから、もったいない気がする。
「主人よ。探索部隊が動きやすいよう、我らはフロアボスを墜としたいと考えている」
ティアマトさんが僕たちの耳元で囁く。
「おー……たおす」
「なるほど。それは名案だ」
空中のロストワイバーンにトロンの射撃は有効だ。
ティアマトさんも風属性を操るから。上手い組み合わせ。
「でもどうして小言で?」
「ライブラに聞かれたらまた小うるさく言われるだろう。脳筋がなんだと」
「うん、うん」
「あはは、ちょっと想像できるかも」
僕もいい案だと思ったから同じように怒られちゃう。
「主人を危険に晒すのは盾としては失格だ。だが、盾の矜持に逆らってでも、主人にはより高みへ登ってもらいたい。安全地帯に閉じ籠っていては名声は得られないからな。ライブラは安全志向を好むだろうが……」
「挑戦を続けるのは大事だよね」
「ますた、おうになる?」
「目指してみようとは思っているよ」
みんなにとって理想のマスターで居続ける為に。
僕は僕で、成長しないといけない事がたくさんあるんだ。
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