第90話 謎の盗人
捕まえた冒険者たちが四人転がって並んでいる。
今すぐに地上へと強制送還する事だってできるけど。
一つだけ疑問があったので、リーダーと話をする時間を貰った。
「ここまで辿り着いたパーティが、どうしてこんなくだらない犯罪を?」
この先の階層で足止めを受けたのは想像できる。
だけど、普通は常に余裕をもって行動するのが基本だ。
最悪、各階層で食べられる食材が魔塔内にも転がっているんだ。
徐々に消耗して食料がゼロになるパターンは、初心者ならありえるけど。
または逃げる最中に荷物を紛失したか。でも有事に備え分散はしているはず。
彼らの装備や、消耗具合を見ると。熟練者であるのは間違いない。
「……出来心だったんだ。俺たちもつい先日までは余裕があった。だが……」
リーダーの男は戸惑いを見せていた。上手く説明できない様子で。
「大切に管理していた鞄から、中身だけが失われていたのよ! 予備の物も全部!」
「周囲に魔物の気配もなく、俺たちも何が起こったのかわからない……」
「それで、その……。札を複製して業者に幻術魔法を掛けた。俺たちもギルドの支援を受けていたから。ここまで辿り着けるパーティは少ないだろうと。バレないだろうと思って……二重に受け取った」
その受け取った支援が、偶然にも僕たちの物だったんだ。
他のパーティの支援物資なら、バレずに進めたかもしれない。
「運が悪かったな。いや、くだらない悪事に手を染めたから、神に見放されたのだ」
ティアマトさんの説教に、四人は静かに俯いていた。
「境遇は可哀想だと思いますけど~。罪は罪です~」
「そうだね。潔く地上に戻る選択を取るべきだった」
無理にでも進んでいれば、きっとどこかで致命傷を負っていた。
ある意味、悪運はあると言える。そして僕たちも有益な情報を得た。
この先に、鞄の中身を盗み取る何かが潜んでいる。
魔物でも、罠でも、人だったとしても。覚悟は出来る。
「申し訳ございませんでした。まさか幻影を魅せられていたとは……情けない話です」
運搬業者さんが謝ってくれた。ボクも元荷物持ちとして親近感が。
荷物持ちは戦闘用のスキルを殆ど持たないから。悪意に巻き込まれやすい。
「支援物資はこちらで補填します。彼らの処遇についても王国が然るべき対応をされる事でしょう」
運搬業者さんが専用の道具で地上に連絡している。
【情報板】と似たもので、使い切りの高価な魔法道具だ。
あとは地上へのゲートに入れてしまえば。今回の騒動も終わりになる。
「鞄に触れず中身を奪い取る盗人か……ふむ」
ティアマトさんが険しい表情で考え事をしていた。
「何か心当たりがあるんですか?」
「あの冒険者たちは未熟だが、接近する魔物に気付かないほどの素人ではないだろう。我の記憶では生物に反応する罠は幾つか思い当たるが、食料だけを奪う罠はなかったと断言できる」
「ではでは、他の冒険者の仕業でしょうか~?」
「可能性としては高い。が、そこまでのスキルを持つのであれば、人を直接襲わないのは考えにくい」
「目撃者が増える訳ですしね。こうして警戒もされてしまっている」
だったら、他に考えられる可能性は――
「何らかの高位の魔法道具だな。ゴーレムのように自立で動く類のモノだろう」
「あらあら。もしかしてこれは運命の出会いというものでしょうか~?」
「……なかま?」
「そうと決まった訳じゃないけど。調べてみる価値はありそう」
僕たちの後に続くパーティにも被害が出るかもしれないし。
ここで元凶を断つのは同業者の為にもなる。単純に興味もある。
「ライブラさん、運搬ゴーレムはこの階層では地上走行でお願いするよ」
これまで得た情報を待機組にも伝える。
既に動かせる状態に整備も完了していた。
「なるほど。鞄の中身を抜き取る魔法道具ですか。魔塔内での空間転移に近しいスキルを発動できるのは、相当高位のアイテムですよ。最低でも☆4.5以上はありますね」
「わくわく。新しい仲間さん候補ですね!」
「大事なフードを盗まれないようにしなきゃ……!」
みんな新しい仲間が増えることに好意的だった。
大所帯だけど、いつだって仲間が増える瞬間は楽しい。
「よし、これから謎の存在の正体を確かめに行こう!」
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