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第9話 前を向いて

 フロアボスの脅威を失った二十五階は平和そのもので。

 僕たちは無事に二十六階へと続く転移ゲートを見つけていた。


 次の階層に挑戦する前に、まずはここで野営の準備を始めよう。

 魔塔内部の時間は各階層共通なので、朝方の移動が一番安全なんだ。


 焚火を起こして、森で採れた果実や山菜を鍋に投げ込む。

 水も豊富に手に入ったから、今日の夕食は豪勢な異世界鍋だ。


「おいしそうな匂いが漂ってますね!」


「このライブラ様の自慢のデータが導き出した最高の組み合わせです。どうぞご期待を!」


「色々とごちゃ混ぜしたけど大丈夫かなぁ? ライブラさんの情報は偏りが大きいから」


 グツグツと煮えたぎる鍋を覗き込みながら、僕は味見をしてみる。

 とても美味しい……とまではいかないけど。無難なものにまとまっていた。


 良かった。偏食家のデータを参考にされたら、ここで食中毒死もありえた。

 

 ――ササッ


 三人で鍋を囲んでいると、後ろの茂みが大きく動き出す。

 隠れているつもりでも、その目立つ金色の髪は隠しきれていない。

 アイギスさんはまだ人の肉体に慣れていないみたい。あ、こっちに来た。


「な、何よ、用もないのにこちらを見ないで。私の価値が下がるわ!」


 アイギスさんはそれだけを伝えると、また茂みに戻ろうとする。


「遠くから見ていないで、一緒にお鍋を食べようよ。お腹減っているよね?」


「みんなで仲良くしましょう!」


「アイちゃん、それではストーカーみたいですよ?」 


 みんなで呼び止める。ちょっと前までは隣を歩いてくれてたのに。

 数日経つと距離が離れてしまった。ライブラさん曰くツン期なのだとか。


 相変わらずライブラさんの言っている意味がわからない。異世界用語かな?


「馴れ馴れしいのは嫌いなの。私なんか気にせず楽しめばいいじゃない」


 フンっと機嫌が悪そうに立ち去るアイギスさん。

 けれど、決して目の届かない範囲までは出て行かない。

 そしてこうしている間にも、魔物の気配が何故か遠のいていく。


「これはアイちゃんのスキル、退魔結界ですね。弱い魔物は近寄れないようです」


「存在そのものが魔物避けのお香と同じなんだ。もしかして、その為に近くに居てくれてるのかな?」


「でしょうね。本心では構って貰えて嬉しそうですし。面倒――こほん、愛らしいではありませんか」


「ライブラさん、本音が漏れてます」


 なんて不器用な優しさだろうか。僕は頬が自然と緩む。

 アイギスさんの分も忘れず取っておこう。あとで感想も聞きたい。


「このまま順調に進めば、三十階はあっという間ですね。道中はフロアボスもいませんし、アイちゃんのおかげで魔物の襲撃もありませんから」


「あるじさま! 地上に戻れますよ!」


「うん、そうだね……」


 鍋をお玉でかき回しながら。僕は一人考え事をする。

 僕の経験上、順調な時にこそ落とし穴があるんだよね。


「ロロアさんは何やら心配事がありそうなご様子で。目聡い私様は見逃しませんよ?」


「えっとね……そういえば、はぐれたパーティと合流しなかったなって考えていたんだ」

 

 各階層、上りと下りのゲートは一つずつしかないので。

 クルトンさんたちと再会するならこの場所だと思っていた。


 もう先に進んでしまったんだろうか。

 もう一度出会った際、僕はどうすればいいのか。


「……あの卑劣な人間たちと再会したらどうすればいいのか、悩んでいらしたのですね」


「あるじさま……ぐすっ」


 肩に座るライブラさんが鋭い指摘を。エルの表情も暗くなる。

 二人は常に僕の傍にいたから、僕がされた仕打ちを覚えているんだ。


「まぁロロアさんが生き残っていらっしゃるのです。全員生存している可能性は高いかと」


「あるじさま、エルが傍にいますからね?」


「平気だよ。今さらあの人たちの元に戻るとかは絶対にないから」


 でもこの先、僕の冒険者としての成功は――断たれたかもしれない。

 あの三人は地上に戻れば、僕が探索中に逃げ出した卑怯者だと広めるはず。


 僕を虐めてその反応を楽しんでいたんだ。こんな好機を逃すとは思えない。

 

「地上に戻れても、冒険者の資格をはく奪されるかもね。頑張って……取ったんだけどなぁ」


 僕には目標があった。冒険者として有名になって再会したい人がいた。

 その人は僕にエルを譲ってくれた方で、最後まで名前は聞きだせなかった。


 何者かによって滅ぼされた故郷で、唯一生き残った僕を救ってくれた恩人なんだ。


「エルは、僕と出会う前の持ち主を覚えている?」


「……あるじさまの、前の方ですか?」


 エルは一生懸命に思い出そうとしていたけど、最後には首を横に振った。


「空瓶になった私が、エルとして目覚めたのは、あるじさまの手元に移ってからです。なので、前の方の記憶は残されてないです……ごめんなさい」


「ううん、気にしないで。それはそれで嬉しいよ」


 僕がエルという自我を生み出したという意味だから。


「あ、そういえばライブラさんは、他の冒険者さんのデータを調べたりできる?」


「それは……内容にもよりますが難しいですね。あくまで私は複製品(コピー)、本体ではなく端末ですから。共有データ以外の重要な個人情報を引き出そうとすれば、原版(オリジナル)からお叱りを受けてしまいそうです。ロロアさんは、エルエルの以前の持ち主を探していらっしゃるので?」


「うん。僕の親代わりで……大切な他人だったんだ。もう、探すのは無理かもしれない」


 エルもライブラさんも、僕を気遣ってくっついてくれる。

 せっかくのお鍋だというのに、暗い空気を作ってしまった。

 

「ロロアは感情の浮き沈みが激しいわね? うっ、不味くはないけど微妙な味」


 いつの間にかアイギスさんが隣でお鍋を食べていた。


「一度や二度の失敗が何よ。いい? 歴史に名を残す英雄も勝ち戦ばかりだった訳じゃないの。時には負け戦を、強大な相手から逃げだしたりするものよ。でも最後には生きて結果を残した。――私はまだまだ自分は未熟だと思っているし、マスターに完璧さを求めるほど己惚れていない。でも常に前を向いて欲しいとは思う。……最後に笑うのは、最後まで立っていた者だけよ?」


 やっぱりお腹が空いていたみたいで、アイギスさんは一人でたくさん取っていく。


「あっ、アイちゃん遅れてきた癖に食べ過ぎですよ! ロロアさんの分まで」


「ぼんやり暗い顔をしているからチャンスを逃すのよ。はぐはぐ」


 彼女なりに励ましてくれているんだ。とても、暖かい気持ちになった。


「僕もたくさん食べるよ。それでもっともっと強くなる!」


「エルにもよそってください!」


「私様は器が持てませんので、ロロアさん、どうか私様の愛らしいお口へとお願いします。もちろんふーふー付きで」


 四人でお鍋をお腹に詰め込む。ものの数分で完食した。


「ふんっ、手の掛かる子たちね。私がいないと何もできないのかしら?」


「ロロアさんも、アイちゃんに言われるのは心外だと思われますが」


「うるさい変態妖精。……評価が落ちるのなら、もう一度上げればいいだけよ。単純じゃない」


「そうだね。うん、アイギスさんの言う通りだ」


 難しく考えるから立ち止まってしまうんだ。

 もっと単純に、途中で転んでも、諦めず進んでいけばいい。


 そうして自分の選んだ結果を受け止められるように、僕は強くなろう。

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