第89話 確かな実力
【地下深淵の塔】四十階層。休息所には強そうな冒険者が揃っていた。
魔塔終盤まで残る人たちはみな浮世離れてしていて、雰囲気が怖い。
移動手段がある僕たちと違い、年単位を掛けて魔塔を探索しているんだ。
子供の僕やエル。女性ばかり揃ったパーティを見て遠慮のない視線が飛ぶ。
「地上から支援物資が届いていると聞いたが。美味い肉が食べたいものだ」
「わたくしは、新鮮なお野菜を。貴重ですので~」
「ぐぅ……おなかへた」
腹ペコ組が数を増して、視線を気にせず先頭を歩いていく。
威厳のあるティアマトさんの圧に、冒険者たちも息を呑んでいた。
これまで大人の見た目の仲間は居なかったから。周囲の反応も新鮮だ。
「とても頼りになるね。僕たちだけだと、何か因縁を付けられたかもしれないし」
無理やり不当な取引を持ち込まれ、貴重な食料を奪われたりと。
深層まで来ると監視がなく、倫理観を失う冒険者も少なからず居る。
休息所には基本、地上へ帰還できる一方通行のゲートがあるので。
食料を奪っても最悪餓死にはならないから。余計に罪の意識を薄めている。
「アイちゃんの代わりに保護者を務めるのですから。それくらいはしてもらわないと困ります」
ティアマトさんには遠慮が一切ないライブラさんだった。
「ふきふき、綺麗にしますね~!」
「ライブラ参謀、接合部に損傷はありませんでした。まだまだ丈夫で元気です!」
「わかりました。では次は動力部を見ましょう。この子には本来の用途を超えた空の旅という無茶をさせているのです。空中分解だけは避けたいですからね……」
エルとコクエンも運搬ゴーレムの整備に残っている。僕も一緒に待機。
「――ですから、既に受け取られたはずです!」
「何だと、聞いていないぞ」
「あらあら」
奥の方でギルドの運搬業者さんと口論が始まっている。
支援物資は地上で渡される札を見せるだけで貰えるはずだけど。
「……揉めているみたいだ」
「ティアマトは簡単なお使いもできないのですか。まったくもう!」
僕はライブラさんに断りを入れて様子を見に行く。
「どうかしたの?」
「主人よ。この者が申すには、我々は既に物資を貰っているらしい」
「えっ、そんなはずはないです。僕たち今到着したばかりなんですよ?」
「そうは言われましても。番号札は見せて貰いましたし」
ギルドの運搬業者さんに嘘を付く理由がない。
考えるに、他の冒険者が違法な手段で札を誤魔化したんだ。
高難易度の魔塔深部まで来ると、予約していても辿り着けない場合がある。
受け取り手不在で無駄になった物資は、その場で売りに出されるケースが多い。
要は、違法な手で札を複製しても本来の受け取り人が来なければバレないのだ。
ここまで辿り着いた人がやるには、小さすぎる犯罪だけど。かなり悪質な類。
「では、質問を変えます。この札と同じ物を提出した冒険者はどなたですか?」
「えっと……あちらの方です」
運搬業者さんが指差した先には、僕たちをずっと見ていた冒険者たち。
この程度の犯罪に手を染める者は大抵、その階層で足止めを喰らっている。
長い間足止めを受けて、持参した食料を失ったんだろう。
ここまで来て帰るのは惜しい。だから、他人の物を盗んだ。
「そうか、貴様らが盗ったんだな?」
「くそっ、まさかこんな餓鬼どもが四十階層まで辿り着くなんて……!」
すぐさま逃げようとする冒険者たち。瞬間――全員がひっくり返った。
「遅い。試練を課すまでもなく貴様らは落第だ」
一度の瞬きの間にティアマトさんが相手の逃走経路に回り込んでいた。
「あらあら。良かったですね~。この程度の実力でしたら、先に進めば無駄死にしてますよ~」
地面には蔦が生えていて逃亡者全員の足を絡めている。
「ごはんかえして」
トロンが面倒臭そうに指を構えて、相手の武器をすべて弾き飛ばした。
逃亡も反撃も、何もかもが初手で封じられた。あまりの手際の良さに拍手。
「な、ななななな……」
「見えなかった、何も、え、え……?」
この場に集うすべての人が口を開けている。言葉を出せない。
ここまで辿り着いただけでも全員が紛れもなく実力者ばかりなのに。
「主人よ。この者たちの処遇はどうする?」
「ロロア様、彼らの食料すべてを没収し、地上に帰す事を提案します~」
「ますた、ごはん」
そして、そんな彼女らが主人と呼ぶ僕という存在に畏怖の念が。
一番何もしていない僕が一番恐れられている。この状況も久しぶりだ。
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